以前にシロクマ日報の方で「電子書籍の普及で読者の読書行動(どのくらいのスピードで読んでいるか、どの箇所が面白いと感じているか等々)がデータ化されるようになり、それが出版のあり方を変えるようになるかもしれない」という見立てがあることをご紹介したのですが、その流れを後押しするようなサービスが登場していることをFast Company誌が報じています:
■ Do Books Need A Beta Version? Analytics For Books Pave The Way (Fast Company)
もちろん従来の出版活動においても、「売れる本」をつくるために様々な形でニーズの把握が行われてきたわけですが、デジタルデータの収集・集約・分析が急速に進化しつつあるわけですね。で、上記の記事ではHiptypeというベンチャーが紹介されているのですが、彼らが提供しているのは「電子書籍版アクセス解析ソフト」とでも呼べるようなもの。訪問者ならぬ読者の年齢層・居場所・収入などといった属性を把握すると共に、コンテンツ=書籍のどこに注目が集まったか、どこで飽きが生じているかといった分析をまとめてくれるそうです。
こうした「電子書籍版アクセス解析」はアイデアとしては目新しいものではなく、プラットフォームによっては既に解析ツールを提供していたりするわけですが、Hiptypeの特徴はiPadやKindle Fireなど幅広いプラットフォームに対応可能な点にあるとのこと。普及が進めば、それこそいまウェブサイトで行われているような、訪問者の反応を見てコンテンツを変えるという行為が出版においても当たり前の話になるのかもしれません。
そうなった時に考えられる話として出てくるのが、タイトルにある「本にもベータ版」という発想です。ごく少数の読者に執筆中の本=ベータ版を読んでもらい、その反応を解析して最終版に仕上げてゆく。その過程で、これから世に出す本にどの程度のマーケットがあるのか、価格設定はどの程度が適当かといった点もより詳細に把握してゆく。ハリウッドの映画作りのような話で感覚的にどうだろう?という部分もあるでしょうが、『小さく賭けろ』的手法だと考えれば、よりリスクの少ない出版活動につながるかもしれません。その意味で、良質なコンテンツの生産が増加するという流れになる可能性も期待できるでしょう。
何より本が好きな一人としては、こうした流れによって、「粗削りだけど面白い」というコンテンツがますます世に出てくるようになることを期待したいです。「このテーマって絶対面白がってくれる人がいると思うんだけど、どうまとめれば出版物として成立させられるのか分からない」という時に、ベータ版を書いて提供してみる――そんなパターンが増えれば、読者として何を提供して欲しいか、どう提供して欲しいかをフィードバックする機会も増えるわけですし。ということで個人的には「電子書籍アクセス解析」の普及、楽しみに感じています。
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