出版前(5月21日発売予定)の本なのですが、マイナビさんから『マーケティング/商品企画のための ユーザーインタビューの教科書』PDF版を頂くことができました。ありがとうございます。ご紹介の意味を込めて、簡単に書評を。
インターネットとソーシャルメディアが発達したおかげで、何かを調べるのはずいぶんと楽になりました。気になるお店や家電があれば、試して後悔する前にレビューを読むことができますし、知らない場所を旅する前には、名所旧跡や名物料理、気候やイベントにいたるまで、一通りの情報を集めることができます。企業でもツイートを分析して、発売したばかりの新製品の反応を調べるといったことが行われています。
しかしだからこそ、「聞く」ことの重要性がこれまで以上に高まっていると言えるでしょう。ツイートやレビュー、アンケート等を集計すれば、全体的な傾向は短時間でつかむことができます。それで満足するのではなく、空いた時間で生身の人間とコミュニケーションし、通常では得られない本音や、気づきを引き出せるかどうか。それによって、最終的に達成しようとしているゴールにどこまで近づけるか、大きく変わってきます。
ここまでは比較的、「その通り」「もう分かっているよ」と感じる方が多いのではないでしょうか。しかし問題は「聞く」という行為がごく日常的なものであるために、改めて細部に気を配ることの必要性をあまり感じないという点です。聞く相手を誰にするか、どんな質問をするかぐらいを考えておけば、あとは心配しなくて大丈夫。普通に人と会って話をすれば、目的は達成できるだろ……と考えてしまうこと、けっこう多いのではないかと思います。
個人的にも、仕事柄多くの方々とお会いするということもあり、準備が不十分なままでインタビューに望んでしまうことが少なくありません。しかしやはりというか、当然のことながら、インタビューから得られるものは準備にかけた時間に比例してしまいます。「話す」というところだけに気を取られ、その前後のつながりや目的をきちんと心に留めておかないと、インタビューはただの雑談で終わることになります。
本書はそれを回避するための、極めて実践的な解説書と言えるでしょう。インタビューの種類を、目的に応じて「機会探索型」「タスク分析型」「仮説検証型」の3つに分け、それぞれの設計から実施、さらに実施後の考察に至るまで、一通りの流れを説明しています。企業内研修のマニュアルのように、非常にわかりやすく書かれており、また付録としてチェックポイントやテンプレートも用意されているので、読み終えてすぐに(あるいは読んでいる途中でも)学んだ知識を活かせるのではないでしょうか。
本書の超実践的な側面は、ときおり挿入される「こんなときどうする!?」というコラムに良く現れています。そこで扱われるテーマを少し紹介すると、「声が小さくて記録をとれない」「グループインタビューなのに一人が遅刻」「お腹が鳴って相手がソワソワし出したら」など、あーこういう場面あるよね……という話がいくつも登場します。それは本文でも同様であり、1回でもインタビューを行ったことがある人なら、「そうそう、こういう場面で皆はどうしているのか聞きたかった」と感じる箇所が多々あるのではないでしょうか。
個人的に本書が優れていると感じたのは、単なるインタビューのテクニック集ではなく、より大きな構図の中にインタビューを当てはめて論じている点です。いったいインタビューがどのような文脈で行われ、その後に何が起きるのか(起きてほしいのか)。それを考え、実践することで、はじめてインタビューを行った意味が実現されると言えるでしょう。たとえば本書には「(インタビュー実施後に)素早く報告する」というアドバイスが登場するのですが、それはインタビューに同席した人が「こんな面白い話を聞いた!」と興奮して先に関係者に伝えてしまい、後から詳しい分析結果を伝えようにも「それって○○っていう話でしょ」と耳を貸してくれなくなる可能性があるため。些細な話かもしれませんが、こうした「せっかく行う/行ったインタビューを最大限活かすにはどうするか」という視点が、本書には数多く含まれています。
ということで、タイトルの通り、まさしく「教科書」のような本書。ただしタイトルと違うのは、マーケティングや商品企画以外の目的のインタビューにも十分使えるという点です。せっかくキーパーソンやターゲットユーザーと会う機会が多いのに、なかなか思うような結果が得られない……という方は、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。
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