出落ちですみません。これぞまさに「逆転の発想」といったところでしょうか?
針ではなく、数字の方が動く時計(via Yanko Design)。Stas Aki という方がデザインされたもの。動くべきものを動かさず、動くべきでないものを動かす――他にどんな発想が可能でしょうか。
あらゆるサービスに広告を付け、無料で提供してしまうというモデル。Google がお得意としている手法ですが、そのうち病院に広告スペースを出して、診察を無料で行う「Google 病院」ができるに違いない……と思っていたら、既に日本で始まっていたよという話:
■ NPOのアンケート回答→無料診察 札幌の歯科医院波紋 (asahi.com)
札幌市内に、「NPO法人のアンケートに答えれば診察料は無料」という歯科医院が登場したというニュース。ただし対象となるのはこのNPO法人の会員のみで、会員になるには「健康保険証を持っていて年収520万円以下であること」が条件になっているそうですが、実際にこれまで3,000人の患者が無料で診察を受けたとのこと(ちなみにNPO法人の会員数は現在6,000人)。
しかしタイトルに「波紋」とあるように、このシステムが違法となる可能性があるそうです。健康保険法では「診察料の割引で患者を集める」というのは違法になるらしく、歯科とNPO法人が一体であると見なされるとアウト。で、このNPO法人の理事長が、歯科医院を経営する医療法人の理事長代行も兼ねていて、歯科医院もNPO法人の事務所と同じビルのフロアにあると。
朝日の記事では具体的な法人名、院名が出ていなかったので検索してみたところ、J-CAST でこんな記事が:
■ アンケートに答えるだけで 「歯の治療費タダ」で大騒ぎ (J-CAST)
記事の日付は昨年12月4日ですから、だいぶ前から騒ぎにはなっていたのですね。J-CAST の記事によればこのNPO法人は「CMケア機構」といい、上記の仕組みがもう少し詳細に解説されています:
このNPO法人は「CMケア機構」という。医療関連のセーフティーネットを構築することを目的に05年に設立されたのだそうだ。歯科診療の自己負担金をゼロにするためには、まず、同社の会員となり、アンケートに答えることが必要。入会費も会費も無料だが、年収が520万円以下で健康保険証を持っていることが条件になる。このアンケートに答えることで「報酬金」が発生。それが治療費になる。治療期間は1年以内で、通院が重なって治療費が多くなれば、別のアンケートに答えなければならない。
アンケートの内容は、NPO法人が作ったこの仕組みに関する感想や、歯科医院・医師に対する意見、経済動向調査といった簡単なものだという。運営資金はどこから出ているのかというと、発行する広報誌の広告収入、提携先の歯科医院から得られる紹介料的な収入など。提携している歯科医院は現在2 つ。この仕組みをスタートさせたのは07年6月からで、会員は現在6000人。平均年齢は57.6歳。その半数が歯科医院に通ったという。
とのこと。また「行政当局とも協議、法律に反していないことを確認し1年半を費やして作った」そうですから、安易な考えで始めたサービスではないようですが……ただこんな報道もあります:
■ 新会員勧誘に“報酬” 窓口負担ゼロの歯科診療 (MSN産経ニュース)
ケア機構の説明では、現会員が友人らを勧誘し新規会員を15人程度増やした場合、新規会員が受診した際に医院が受け取る診療報酬の7%に相当する金額を、「会員開発費」として勧誘した現会員に支払っている。
ということですから、マルチっぽい話になる可能性もあるようですね。既に昨年12月の段階から行政当局が調査に動いているようですが、今日の朝日の記事ではその後の展開も書かれていませんし、いったいどんな判断になるのでしょうか。
このケースはさておき、医療行為の提供者とお金の出所が一緒でなければ良いのなら、例えば
みたいな仕組みならOKと見なされるのでしょうか。ステップ4が難しそうですが、既に視聴者の顔を認識する屋外広告が登場しているくらいですから、技術的には不可能ではないでしょう。あるいはもっと簡単に、診察費の明細に広告を印刷しちゃうとかね(その場合、患者の症状に応じた広告が出るとか……さすがにこれは「プライバシー侵害だ!」という声が出そうですが)。
いずれにしても、法制度が技術のスピードに追いついていないのは明らか。ここでキチンと判断をつけておかないと、ますます予想外のモデルが登場してしまうかもしれません。
投稿情報: 08:50 カテゴリー: ビジネスモデル | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (0)
なんか年が明けても景気の悪い話ばかりですが、逆に景気が悪い時の方が流行るサービスも当然あるようで。米国で、様々な飲食店や居酒屋でふるまわれるフリードリンク(無料あるいは格安料金で提供される飲み物サービス)の情報を集めてリスティングしているサイト"Myopenbar.com"が人気を博しているそうです:
■ Web Site Points the Way to Where Drinks Are on the House (New York Times)
サイト自体は2005年から存在していたそうなのですが、この不景気のあおり受けて、読者が増加中とのこと。ニューヨーク市内にあるお店のフリードリンク、ならびにイベント情報が掲載されています。個々のリスティングにはパーマリンクが設定されているので、ブックマークしたり友人に教えたりといったことも簡単(ご丁寧に Facebook、Digg、Delicious へのリンクアイコンが付いています)、ちなみに最近のサイトの例にもれず、Twitter アカウントもオープンしています。
読者の増加とともに、リスティングに掲載して欲しいというお店も増加中とのこと。まさに不況が追い風になった形で、ちゃんとサイトから利益も出ているのだとか:
Myopenbar.com has 30,000 subscribers in New York, most of them in their 20s and 30s, the very demographic that liquor companies want to reach. The site also has listings for five other cities (Los Angeles, San Francisco, Chicago, Miami and Honolulu) that have attracted 19,000 subscribers, and it has 30 employees. Mr. Granik, 33, and Mr. Fried, 34, declined to say how much revenue the site generates, but they said it was profitable, both through advertising (Toyota Scion and American Apparel are among the sponsors) and the consulting fees that they collect for holding, marketing and promoting events. Those events are noted on the site; otherwise, bars and liquor companies do not have to pay to be listed.
Myopenbar.com はニューヨークで3万人の読者を有している。その多くが20代から30代で、酒類メーカーがまさに接触したいと考えている層である。同サイトはニューヨーク以外の5都市(ロサンゼルス、サンフランシスコ、シカゴ、マイアミ、ホノルル)でもリスティングを掲載しており、1万9千人の読者が存在している。従業員数は30名で、Granik 氏(33)と Fried 氏(34)は同サイトがどれだけの収益を上げているか明言を避けたが、広告収入(トヨタのサイオンやアメリカン・アパレル等がスポンサーになっている)とコンサルティング料(イベントの開催やマーケティング、プロモーションに対する対価として)を得ることで利益を出しているとのことである。リスティングに掲載されるだけなら料金は発生しないが、イベントを開催しサイト上で宣伝される場合には費用がかかる。
とのことで、リスティングを無料にして情報を厚くし、読者を集めることで広告収益を増やす一方、お店の側に有料サービス(コンサルティング)を用意してそこでもお金を得るようにしていると。ちなみに創業者の1人である Granik さんは、かつて文無しのミュージシャンで、友人にいろいろなお店の開店時間をメールで教えてあげていたそうです。で、ニーズが増えたのでたまたま知り合ったWEBデザイナーの Fried さんに協力してもらい、サイトを立ち上げたと。立ち上げて半年でメルマガ購読者が3,000名を突破、その後順調に成長を続ける……という、まさに個人で立ち上げるウェブサービスの王道のようなサクセスストーリー、といったところでしょうか。
もちろん経済状況が厳しいことには変わりないのですが、そんな中でもちゃんとニーズを拾ってビジネスに仕立てている人がいるということで。後ろ向きになっていてはいけないなーという感じです。
投稿情報: 12:30 カテゴリー: ビジネスモデル | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (0)
これはまた論議を呼びそうな調査結果が。イスラエルの心理学者チームが、ウィキペディアン(ウィキペディア上でアクティブな活動を行うユーザーたち)は閉鎖的で、気むずかしい人物である傾向が強いとの研究を発表したそうです:
■ Psychologist finds Wikipedians grumpy and closed-minded (New Scientist)
イスラエルの研究者、Yair Amichai-Hamburger と心理学者チームによる調査結果について。最初に断っておくと、あくまでもイスラエル国内を対象に行われた研究で、被験者もそれほど多くはありません。ウィキペディアの編集を行っている人々69名を対象に、様々な人格を測定する調査を行い、それを学生70名の調査結果と比較したとのこと。その結果、
As Amichai-Hamburger expected, the Wikipedians were more comfortable online. "They feel the internet is a more meaningful place to them," he says. But to his surprise, although Wikipedia is founded on the notion of openly sharing and collecting knowledge as a community, they scored low on agreeableness and openness.
"Wikipedia in a way demonstrates the spirit of the internet," Amichai-Hamburger says. "People contribute without any financial reward."
Amichai-Hamburger speculates that rather than contributing altruistically, Wikipedians give take part because they struggle to express themselves in real-world social situations. "They are compensating," he suggests. "It is their way to have a voice in this world."
Amichai-Hamburger の予想通り、ウィキペディアンはオンライン上でより安心感を感じていた。「彼らは自分にとって、インターネットがより有意義な場所だと感じている」と彼は述べている。しかし驚いたことに、ウィキペディアは「コミュニティとして知識をオープンに共有・修正する」という概念に基づいているにもかかわらず、ウィキペディアンの同調性と開放性は低かった。
「ウィキペディアはある意味、インターネットの精神を表すものです」と、Amichai-Hamburger は述べる。「人々は金銭的な見返り無しで貢献を行います。」
利他的に貢献を行いたいという意識よりも、実世界での社会的状況下では自己表現が困難であることが、ウィキペディアンを活動へと向かわせているのではないかと Amichai-Hamburger は推測している。「彼らの行動は代償です。この世界で影響力を持つための、彼らなりの方法なのです」と、彼は示唆している。
という結果・分析が行われたそうです。つまり悪い喩え方を許していただければ、「オレはこんなもんじゃねー!ほら、オレはネット上だとこんなに頼られる存在だろ!」などという意識が一部のウィキペディアンの行動を促していると。改めて、ごく一部のイスラエル人だけにしか通用しない話の可能性もありますが、同様の傾向が Digg や Twitter のヘビーユーザーにも見られると、デラウェア大学の Scott Caplan という人物が主張しています。さらに最近行われた YouTube ユーザーの研究でも、ビデオをアップロードするユーザーは利他的というより利己的な動機を有している傾向があるのだとか。
まぁ利他的であれ利己的であれ、ユーザーの行動の結果が何らかの価値に結びついていくのが「クラウドソーシング」や「集合知」なのだから、スタート地点よりもゴールに目をやるべきなのかもしれません。しかし人々が集まって何かを達成しようとした時に、個々の行動の裏に何が潜んでいるのかを把握しておかないと、先日のロシア版クイズ$ミリオネアの話のようになってしまうのではないでしょうか。あるいは利己心やプライドをくすぐるような仕掛けを備えておくだけで、クラウドソーシング的なものはずっと上手く回るようになったりするのかも(これは既にランキングや評価などといった形で、様々なサービスで実現されていますよね)。ただしそれに引き寄せられる人々が、サービスに本当に来て欲しい人々と一致しているのかどうか、という問題は残りますが。
ちなみに上記の Amichai-Hamburger さんですが、現在はSNSの Facebook を研究対象としているのだとか。SNS参加者の裏に潜む動機、というのも面白そうではあるのですが、日本に来て各種サービスのユーザーに見られる傾向、などを探ってみて欲しいなぁと思ってみたり。
投稿情報: 01:25 カテゴリー: 科学 | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (2)
インタラクティブな広告というのはネット上では当たり前の話になっていますが、印刷物でもこんな工夫ができるということで。読者に不正の片棒を担がせてしまうという、恐ろしい広告です:
■ ACB (ANTI CORRUPTION BUREAU): Money (Ad of Da Month.com)
インドの雑誌に掲載された広告。もちろん印刷物なので、本当に不正に巻き込んでしまうわけではないのですが……
ご覧の通り、ちょうどページをめくる際に指を起きそうな位置にお札(インドなのでルピー紙幣)を描いておき、読者が差し出されたワイロを受け取ってしまったかのような印象を与えるという手法。広告が訴えたいのはもちろん「不正を根絶しよう」というメッセージです。
仮にこれがネット広告だったとすると、バナー広告上にナゾの白い封筒が表示されて、「何だろう?」と思ってクリックすると中からお札が――という取り立てて変わり映えのしない感じになるのかも。それでも良いのですが、雑誌上に描かれたものとはいえ本物そっくりの紙幣を、自分の手で触ってしまったというインパクトを与えられるという点でこちらの方が優れているように感じます。ところで上掲の写真だと、間に1ページ本当の記事が入っていますが、この記事は政治家の不正を報じるもの……だったりしないですよね(全然別の話題で政治家が取り上げられていたとしたら、写真を掲載されている政治家達が怒り出しそうですが)。
投稿情報: 07:43 カテゴリー: 広告 | 個別ページ | コメント (2) | トラックバック (0)
イスラエルによるガザ空爆が続いています。イスラエル側、パレスチナ(ハマス)側とも、自分たちの行為の正当性をアピールしているわけですが、イスラエル側はソーシャルメディアを活用するという手段に出ているようです:
■ イスラエル軍、ガザ空爆の模様をユーチューブで公開 (AFPBB News)
■ Gaza: secondary war being fought on the internet (CNN.com)
イスラエル国防軍(IDF)が YouTube 上に専用チャンネル"IDF Spokesperson's Unit"を立ち上げて戦場の生の様子を中継するとともに、ニューヨークにあるイスラエル領事館が Twitter アカウント"israelconsulate"を立ち上げ、ユーザーからの質問に答える「バーチャル記者会見」を始めたというニュース。現時点で YouTube チャンネル再生回数は55万回以上、Twitter 更新回数は117回で followers が3,000人超という状況ですから、注目を集めるという点では成功しつつあるようです。また"quasi-official"(半公式)ということですから正式に認められたものではないようですが、SNS の Facebook 上で親イスラエル/親ハマスのコミュニティが登場し、激しい論争が繰り広げられているとのこと。
イスラエルのこの動きには、2006年のレバノン侵攻の際に国際世論の反発を退けられなかったこと、また従来型の国際マスメディアに対する不信があるとのことで、政府関係者がこんなコメントを出しています:
Explaining the focus on information, Israeli military spokeswoman Major Avital Leibovich said: "The blogosphere and new media are another war zone and we have to be relevant there."
イスラエル軍の広報担当、Avital Leibovich 少佐は情報発信を重視する姿勢についてこう説明している。「ブロゴスフィアとニューメディアはもう1つの戦場であり、我々はそこで重要な存在にならなければならない。」
考えてみれば、以前から国家自らがマスメディアを通じて自国をアピールする、ということは行われていました。戦場の様子が中継される、という点ではイラク戦争が思い出されますし、国家がPRコンサルタントを雇って影響力のある国(米国とか)で世論に訴える、などという話はよく聞きます。最近のソーシャルメディアの影響力拡大を受けて、その動きがネット上にも進出してきたということなのでしょう。特に戦争や戦争に近い状態にある国では、国家としてソーシャルメディア戦略を練るのが当たり前のこととなっていく……のかもしれません。
翻って日本にも、いくつかの国との間に領土問題を抱えています。良し悪しは別にして、ソーシャルメディア上で日本としての主張を行っていくということが始まるかも?少なくともニコニコ動画に登場して喜んでいるうちは、イスラエルのレベルにまで追いつくのはほど遠いですが……。
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投稿情報: 12:43 カテゴリー: ウェブ・技術 | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (0)
『あなたはなぜ値札にダマされるのか?―不合理な意思決定にひそむスウェイの法則』を読了。ある方が「これ読んでいます」というのを聞いて、気になって読んでしまいました(ごめんなさい、技術評論社のDさん)。さっそく感想を……といきたいところですが、この中に面白いエピソードが紹介されていたので少し。
以前『クイズ$ミリオネア』という番組がありました(本家はイギリスの番組『フー・ウォンツ・トゥ・ビー・ア・ミリオネア』)。日本でも話題になったので説明不要だと思いますが、視聴者参加型のクイズ番組で、正解した問題の数に応じて賞金がもらえるというもの。基本的に司会者(出題者)と回答者の1対1の勝負なのですが、「ライフライン」というルールがあり、回答者は4種類のサポートを各1回だけ受けることができます。その中の1つが「オーディエンス」で、会場にいる観客に答えがどれかを投票してもらい(出題は必ず4択問題の形で与えられる)、その集計結果を参考に回答できるというもの。最近ネットでは集合知などという言葉が定着しましたが、まさしく「みんなの意見は案外正しい」の通り、この結果を見て正解が導き出せるかもしれないわけですね。
で、『あなたはなぜ値札にダマされるのか?』によれば、米国では観客の投票で1位だった回答が正解である確率は、何と90%以上に達しているとのこと。ならば「オーディエンス」はここ一番という時の強力な武器になるはず……なのですが、同番組のフランス版でこんな事件があったあそうです:
アンリは最初の数問をクリアした。だが、司会者が次の質問をしたとき、すべての状況が変わった。
「地球のまわりを回っているのはどれですか?」
アンリは選択肢が読みあげられるあいだ、うつむいて心を集中させていた。
A 月
B 太陽
C 火星
D 金星アンリは質問をもう一度声に出して読み、じっと考えこんだ。不安をあおる音楽が流れつづけ、彼は唇をかむ。挑戦者の困惑ぶりが本物だとわかると、司会者が助言した。
「ゆっくり考えて、それでも迷っていたら、ライフラインを使いましょう」
わらをもつかむ状況で、アンリはライフラインの中から観客投票を選んだ。
(中略)
観客の答えが出ると、アンリは深く息を吸い、ぐっとのどを鳴らした。すべてはこの答えにかかっている。クイズを続けるためには正解しなければならない。予想されるように、金星が地球を回っていると答えた観客はひとりもいなかった。どういうわけか、火星と答えた者が2パーセントいた。
さて、ここからが奇妙なところである。「言わせてもらえば」と司会者。「あくまで私が見た感じですが、答えはふたつに分かれましたね」。観客の42パーセントだけが正解の月に投票していた。そして56パーセントもの観客が、太陽と答えたのである。
そしてロシア版では、状況はさらに悪いことに:
『クイズ・ミリオネア』がロシアで作られたとき、制作チームは、観客がアンリのような出来の悪い挑戦者のときだけでなく、ひんぱんにまちがった答えを出すことに気づいた。ロシア人観客は、賢い挑戦者もそうでない挑戦者も関係なく、まちがった答えのほうに意図的に誘導しようとするのである。実際、観客があまりに多くまちがった答えを出すので、挑戦者はライフラインの観客投票を疑うようになったほどだ。
別にフランスやロシアの人々が無能だったとか、そういう訳ではありません。詳しくは本書の解説を読んでみていただきたいのですが、要は国民性の違いによって、これから大金を手にしようとしている挑戦者を助けるか否かが変ってくるのではないかという解説がなされています。フランス版で挑戦者を見放したのは「こんな愚かな者を救うのは公平ではない」という思い、ロシア版では「誰かが抜け駆けして大金を得るのは公平ではない」という思いだった、と。
この解釈がどこまで正しいかはさておき、『ミリオネア』の例は「集合知が正しく動作するには、参加者の間に正しいモチベーションがなくてはならない」という、考えてみれば当然のことを示しているのかもしれません。そして「ある国で成功した集合知モデルが、他の国でも有効に動作するとは限らない」ということも。大勢の人々が無償で、結果としてであっても他人を助けるような方向で動くためには、それぞれの社会にあったメカニズムを用意する必要があるのでしょうね。
最後に、本文とは関係ないのですが。「クイズ$ミリオネア」というと、本家版のこの動画を思い出してしまいます:
何度観てもかっこえー。今年はこんなカッコイイことができる漢になってみたいもんだ。
***
このエントリが非常に不快であるとのコメントをいただきました。不愉快な気分にさせてしまった方、大変申し訳ありませんでした。消すのは違う意味で問題になりますので、このまま掲載しますが、性的な内容を不快に思われるかたは読み進めないで下さい。
念のため、このエントリには「性的な広告をどんどん出せ」という意図はないことを名言明言させて下さい。しかし冗談半分で配慮の足りない内容になってしまったこと、重ねてお詫びいたします。
***
大晦日なのに、政治的な話や下ネタといった記事ばかりで何だかなぁなのですが……
下着や水着を売っているわけではないのに、やたらセクシーで露出度が高い美女が登場する広告。テレビや雑誌に目を向ければ、そんなのいくらでも見つけることができるわけですが、当然ながら視線を集める力が抜群にあるわけですね。しかしその効果があるのは男性に対してであって、女性に対してはむしろ逆効果になる場合がある、というところまでは説明されるまでもないと思いますが、こんな「回避策」があるそうです:
■ Sex Sells, but a Commitment Can Help (New York Times)
「きわどい性描写がなされている、腕時計の広告」を女性に観てもらい、7点満点で採点してもらうという実験をしてみたところ……通常は平均3.83点だったものが、腕時計を「特別な女性に対しての男性からの贈り物」として位置付けた場合には、平均4.67点にポイントアップしたそうです。また同じくセクシャルな広告を評価してもらうという実験で、事前に不義や火遊びといった文章を読んでもらった女性よりも、愛や固い絆で結ばれたカップルといった文章を読んでもらった女性の方が、評価が高くなる傾向があったのだとか。これらの実験から、「性的関係を正当化できるような献身的な姿勢、またそういった姿勢を表すものがあれば、性的な表現は女性にとっても受け入れられるものになる」という結論が導かれています。
しかし、この回避策には大きな落とし穴が。こうした「献身的な姿勢」を含んだ広告は、男性には逆に不評になってしまうとのこと。いくらセクシーな美女が登場したとしても、永遠の愛を誓うような指輪を渡されて微笑んでいるようだと、男性は心が落ち着かなくなってしまう、と。うーん、やはり二兎を追うことはできないのか。
えーと、それじゃこういうのはまさしく男性にしか効果がないわけですね:
■ Tourism Queensland: Flasher (Ad of Da Month.com)
クイーンズランド州は冬でも暖かいですよ!リゾートにどうぞ!ということをPRするために、シドニーとメルボルンで行われたキャンペーン。こんな格好をした、24人の女性が街中に放たれたそうです。分かりやすいというか何というか。
*****
というわけで、今年もいろんな与太話にお付き合いいただき、誠にありがとうございました。最近はアクセスを追い求めることよりも、ますます自分が読んで面白いと思ったネタを書くようになってきてしまっていますが、ブログってそもそもそういうモノなんじゃないかなーと開き直ったり。2009年も「相変わらず訳分からない話に興味持ってるなぁ」と言われるように頑張りたいと思いますので、よろしくお願い致します。
みなさま、よいお年を!
投稿情報: 11:15 カテゴリー: 広告 | 個別ページ | コメント (0) | トラックバック (0)
年末年始にゆっくり読もう、と思って買ってきた本『イスラエル人とは何か―ユダヤ人を含み超える真実 』。なにしろ600ページ以上もあるので、暇なときに読み進めるか……と思っていたのですが、悪い意味でタイムリーなことになってしまいました。
■ イスラエルがガザ空爆続行、死者360人以上 ハマスも報復攻撃 (NIKKEI NET)
始めに断っておくと、今回の空爆は決して正当化されるものではありません。というより、どんな争いであったとしても、民間人が殺戮に巻き込まれるのは決して許されないことでしょう。しかし、なぜそんな行為をイスラエル国民の8割が支持するのか。イスラエル人が血も涙もない集団だからだ、と考えている方は、この本を手に取ってみることをお薦めします。
一口に「イスラエル人」と言っても、第2次世界大戦でのユダヤ人弾圧を生き延びてきたような人々(恐らく僕らが一般的にイメージする姿でしょう)だけでなく、ロシアやエチオピアから移住してきた人もいれば、アラブ系の住民もいるという、「多民族国家」としてのイスラエルの姿にまず驚くはず。さらに新旧世代間の意識の差、僕らにはお馴染みの「IT大国」としてのイスラエルの姿、そして最も重要なことだと思いますが、パレスチナ問題やテロ行為を市民がどのように捉えているのか等々が描かれます。当然のことなのですが、イスラエルといっても日夜戦争に明け暮れているわけではなく、多種多様な人々がそれぞれの人生を送っていることが分かるでしょう。
重ねて言いますが、だからと言ってパレスチナ人弾圧が許されるわけではありません。しかし、その行為の裏側にはどんな感情があるか、どんな議論が行われているかを理解しておくことは決してマイナスではないと思います。むしろ彼らを悪魔か何かのように捉え、「とにかくお前らが悪いんだ」的な非難に徹するよりも建設的な議論が行えるのではないでしょうか。ただそういう人々にとっては、あらゆる冷静な議論が「ユダヤのプロパガンダだ!」となってしまうのでしょうが……。
蛇足気味に、今回の空爆の裏側にある論理を、イスラエルの側から説明した記事を紹介しておきたいと思います:
■ Why Israel Feels Threatened (New York Times)
イスラエル(イスラエル国内のユダヤ人勢力)がこれまでにない危機感を感じている理由が、以下の3つにまとめられています:
要はイスラエル国民の目には、四面楚歌のような状況になりつつあると写っているのでしょう。くどいようですがだからパレスチナ人を殺して良いというわけではありません。しかし国際的な非難を浴びようと、彼らが追い求めようとしているものは何なのか、それを理解する必要があると思います。
「どちらが好きか/嫌いか」という感情は抜きにして、あらゆる争い事は、両者の目を通して見てみなければならない――そうしなければ、単純な抗議はむしろ戦いを長期化させるだけなのではないでしょうか。
投稿情報: 10:15 カテゴリー: 書籍 | 個別ページ | コメント (1) | トラックバック (1)
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