お金じゃ人は動かないよ、という当然といえば当然過ぎる話が ITmedia エグゼクティブに載っていました:
■ お金では部下は「やる気」にならない (ITmedia エグゼクティブ)
効果的な部下のモチベーション操作法について。今日び「金出すから死ぬ気で頑張れ!」と言い放つ上司もいないと思いますが、給与以外にコレといった「頑張る要素」が無いことが多いのも事実(給与すらモチベーションアップにつながらない、ということもあるけど)。そこで記事では、「褒める」「自分の名前を出させる」などの方法を解説していますが、そこで最近読んだ『マーベリック・カンパニー』を思い出しました。
『マーベリック・カンパニー』(原題 Mavericks at Work)は英エコノミスト誌が選ぶ"Book of the Year 2006"に選ばれた本で、様々な業界で独自路線を歩む「一匹狼(maverick)」的企業を紹介するという内容。というより、『ウィキノミクス』を読んだ方は、その副読本として捉えてもらうと良いかもしれません。実際 Goldcorp、P&G の コネクト+デベロップ、Innocentive など、取り上げられているケースはウィキノミクスと被るところがあります。で、その中に Goldcorp の「ゴールドコープ・チャレンジ」に関するこんな記述があります(ゴールドコープ・チャレンジって何?という方は、とりあえず「Goldcorp 社が開催したイベントで、同社が所有する鉱山に関する情報をすべてオープンにし、そのデータを基に鉱山のどこに金が眠っているか当てた人に賞金を与えた」と考えて下さい):
彼(※Goldcorp の前会長兼CEO、ロブ・マキューアン)は一日がかりのシンポジウムを開催し、チャレンジの準決勝進出者と最終選考通過者がそこで自分たちの技法と方法論を金採掘業界の人々に向かって発表した。聴衆は目の前で披露される世界一流の知に魅了された。
そしてスポットライトを浴びた参加者は、じつに晴れがましい思いをかみしめていた。ゴールドコープのために優秀な人材が最高のアイデアを競って提供したのはなぜか、まさにこの瞬間のためだった。むろん、6桁台の賞金は魅力的だった。(中略)だが彼らをチャレンジに惹きつけた最大の理由は賞金ではない。世界的な舞台でプレーできる、自分の能力を業界関係者の前で披露できるというチャンスだ。
実際、同コンテスト入賞者は以下のような「お金以外の価値」を手にしています:
- 優勝者のニック・アーチボールド(オーストラリア出身):独自に開発したグラフィックス・ソフトをコンテストで披露。一躍名をあげ世界中の鉱山関係者から引っ張りだこに。さらに彼が経営するベンチャー企業はトロントのベンチャー証券取引所で株式公開した。
- 準優勝者のマーク・オディア(カナダ出身):チャレンジの公開発表の翌日、2社の鉱山会社から新しい事業に加わらないかというオファーを得る。その後、数百平方キロメートルもの土地を管理する企業の社長兼CEOに就任。
- 3位のアレクサンドル・ヤクブチャク(ロシア出身):モスクワ州立大学で教授を務めていた彼は、長年西側世界で活躍したいと願っていた。コンテストの賞金でロンドンに移住し、自然史博物館で職を得た後、ロンドンに本社を置く鉱業界の大手ゴールドフィールズ・リミテッドの調査部長に就任。
名誉や新たな活躍の舞台(が得れるという期待)が、優秀な人物をコンテストへと駆り立てたわけですね。そういったものも最終的にはお金につながりますし、賞金だって大きなインセンティブになったのは事実だと思いますが、仮にゴールドコープ・チャレンジがクローズドなコンテストだったら参加者は減っていたことでしょう。
仕事というものは、もっと「社会的な名誉を得る場所」であって良いのではないでしょうか。良い結果を出して「よくやった!」と上司に褒められるのもいいし、「社長賞」などの形で社内で有名になるのもいいけど、会社というワクを超えて広く業界・社会全体の中で有名になる -- そのために企業がバックアップする、という姿勢がもっとあってもいいように思います。
じゃあ具体例を出してよ、と言われると、「優れた成果を残したプロジェクトをメディアに売り込んで、その関係者の実名が入った紹介記事を載せてもらう」とかベタなイメージしか湧かないのですが……ただ同じく『マーベリック・カンパニー』に載っていた実例として、個人の知名度を高めると共に会社への評価も上げることに成功しているケースを引用しておきたいと思います:
例えばワイデン+ケネディ(W+K)では、社内のスタッフがスライム・モールド賞の獲得を競っている。これはダン・ワイデンがワイデン+ケネディエンターテインメントの創業者でありCEOを努めるビル・ダベンポートとともにつくったプログラムである。スタッフが自分のドリーム・プロジェクトをスライム・モールド賞の審査委員会に提出し、勝てば賞金がもらえるというシステムだ。
(中略)
スライム・モールド賞のルールはシンプルだ。誰でもが企画を出すことができる。条件は1つだけ、広告とは無関係であること。(中略)たとえば賞を獲得したW+Kのプロデューサー、ジェフ・セリスの企画はよく知られている。(中略)セリスが提出したのは、『Cat Spelled Backwards Doesn't Spell God』(猫を逆からつづっても神にはならない)という犬の写真集の企画である。
(中略)
写真集はポートランドでよく売れ、トム・ブローコーが出版したばかりのベストセラー『The Greatest Generation』をしのぐ売れ行きとなった。そして売れ行きに目をとめたクロニクル・ブックスが版権を買い、四か国語に翻訳した。セリスは続編を書いて好評を博した。(中略)そしてW+Kのビジネスにとっても、すばらしい成果となった。「広告を超える何かをする機会をスタッフに与えれば、彼らの創造性は新たなエネルギーを蓄え、わが社の創造性に対する評価が高まるというわけです」
これは広告代理店だったから成立した話でしょうか?確かに同じことをSI企業でやっても成功しないかもしれませんが、目に見える仕組みではなく発想を真似ることで、同じように従業員のモチベーションを高めることは可能だと思います。
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