なぜか『企業内人材育成入門』という本を買ってきて読んでいます。実はHRMコンサルタントへの転身を目指してます、というのはウソですが、人事系の仕事やコーチングに携わっていない人にも面白い本。生徒や学生ではない「オトナの学習者」が持つ特徴や、熟達するとはどういうことか、やる気の源泉は何かなどといったトピック、はては「WEB2.0」などという見慣れた単語まで登場します。いわゆる「ライフハック」系のテーマに興味がある人には、興味深いテーマが満載なのでは。
で、ちょうど今日読んだところに、キャロル・ドゥエックという学者が行った実験に関するこんな話が出てきました:
ドゥエックは、8歳から13歳の学習に対して無気力状態になった子どもたちを集め、2つのグループに分けた。一方のグループにはやさしい問題を多く与え、自信をつけさせ(「成功経験群」)、もう一方のグループには、やさしい問題と難しい問題とを与え、難しい問題ができなかったときには、それは努力が足りなかったためであることを繰り返し話した(「努力帰属群」)。
さてこの結果、どちらのグループの無気力児童の方が「やる気」を回復したと思いますか?
僕は「やっぱ自信を持たせる方が効果があったんじゃないかなー」と単純に考えてしまったのですが、実際はその逆。「努力帰属群」の子供の方が、難しい問題で失敗してもやる気を失わず、根気よく学習を続けるようになったそうです。
このことから、能力は努力次第で変えられるという考え(能力変化観)をもつ人は、能力は固定的でコントロールできないものだという考え(能力固定観)をもつ人に比べ、内発的に動機づけされやすいことが、明らかとなった。
のだとか。なるほど、成功によって得るのは「現時点での能力そのものに対する自信」であって、必ずしも「努力で能力を高められるのだ」という自信ではないわけですね。従って成功体験ばかりだと、一度の失敗で「やっぱオレ、ダメだった」となってしまうと。
一方、能力変化観を持つ人は「自分の有能さを他者に示したい」という目標(パフォーマンス目標)ではなく、「自分の能力をもっと高めたい」という目標(ラーニング目標)を持つようになるのだとか。そのため他人から思うような評価が得られなかった場合でも、目標達成に対するやる気を失わなくなるわけです。なんだか孫悟空(ドラゴンボールの方)のようだ。
まあ自分が何かを学習しているときに、失敗するたびに「努力すればできる!」と励ましてくれる誰かが都合よく傍にいるわけではありませんが。しかも失敗すると、「やっぱりオレには才能が無いんだ」と落ち込んでしまうのが人間というものでしょう。しかし本当に「才能が無い」と信じ込んでしまったり、失敗を恐れるがあまり簡単な問題だけに取り組んでいると、成功体験ではやる気を取り戻せなくなってしまうわけですね。自分だけでは難しい話ですが、「失敗せよ、ただし『オレは成長できる』という自信を失うな」といったところでしょうか。
ちなみに同書の中では、「代理的情報」といって、誰かの成功体験・失敗体験を聞くことでも「自分はある行動ができるはずだ」という自信が持てることも指摘されています。例えば憧れの先輩や上司が「オレも昔はこんな失敗をして……」という話を聞くと、「やっぱり人間は成長できるのだ」という気になると。誰も励ましの言葉をかけてくれない時には、目標とする人の体験談を聞くというのも1つの手かもしれません。ただしその場合でも、「あの人はあの人、オレはオレ」というメンタリティになってしまっては効果がありませんが……。
なるほどなぁと思いながら拝見しました。考えるきっかけをありがとうございます。
『易しい問題と難しい問題を与え、難しい問題が出来なかったときは努力が足りなかったことを伝えた。』
問題を解けない原因は外(問題自身)にあるのではなく、内(自分自身)にあるのだと言う事を伝え続けた。とも見れるなと思いました。問題によって解ける解けないが決まると考えるのか、自分次第で解ける解けないが決まると考えるのか。
能力を固定と考えるか、可変と考えるかと共通するのは、問題を自分の力で解決する希望・可能性に目を向けられるかじゃないかと私は思います。
あと、難しい問題だけを与えられ、解けないことは努力が足りないからだと言われ続けたら、やる気は起きないように思いますので、易しい問題と難しい問題のバランスが大切なように思いました。
投稿情報: nosix | 2008/09/01 11:50