「目の前でアザラシ達が死んでいる」「油まみれの鳥がいる」など、心理的なインパクトは目くらましとなって合理的な判断を妨げかねない……という話:
■ ASSE: The Myths of Safety (Occupational Hazards)
1989年に発生した、プリンス・ウィリアム湾での原油流出事故のその後を追った調査について。エクソン社が所有するタンカーから原油が流れ出したという事故で、当時約21億ドルかけて除去作業が行われたものの、汚染地域全体の50%しか「清掃」できなかったそうです。さて、それから6年後。環境がどこまで回復したのか調査を行ったところ、なんと清掃作業が行われた地域よりも、行われなかった地域の方が回復が進んでいたそうです。つまり「清掃」という行為自体が環境破壊につながっていたのだ、とのこと。
当時エクソン社は清掃作業が「無意味なもの」と知りつつも、世論からの圧力に負けて作業を実施したのだそうです。この調査がどこまで正確なのかは分かりませんし、エクソン社を擁護するつもりもありません。しかし実際にどれだけの効果があるのか冷静に見極めずに、「目の前で動物たちが原油まみれになっている、助けなきゃ」という感情論だけで行動することの怖さを示しているのでしょう。自分自身、「流出してしまったものは仕方ない、無理に除去しようとするとより環境を破壊するよ」と言われても、到底納得しなかったと思います。
記事では同様の例として、DDT禁止とマラリヤ予防の関係(環境を破壊するとして使用が制限されているDDTだが、実はマラリヤを媒介する蚊を根絶するのに効果的)、企業のインフルエンザ予防措置(従業員がインフルエンザに罹る確率よりも交通事故に会う確率の方が高いのに、「交通安全講座」などが開かれることはない)などといったものが挙げられています。車で移動するよりも飛行機に乗る方が怖く感じる、などというのも同じケースでしょう。飛行機事故の凄惨な映像など、心理的なインパクトは合理的な判断を妨げてしまうわけです。
逆に言えば、他人を説得する際にこの現象が使えるかもしれませんね。明らかに成功する確率が低い企画にお金を出してもらうには、その企画が大成功した場合の将来をビビッドに描き出すとか。あるいは逆に、その企画が防ぐ(であろう)問題が悪化した場合の凄惨な状況を見せるとか……。卑怯なようですが、そういった感情面でのプレッシャーをかけることは有効なのでしょう。逆に自分はこういったテクニックに引っかからないようにしなければいけませんが。
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