個人サイトは別にして、メディア系のウェブサイトは「無料のコンテンツ+広告」というモデルで運営することが主流になっています。紙媒体でのメディアがウェブに進出した場合も同じ。新聞などはその代表例で、紙ではまだ料金を設定しているものの、ウェブではほとんどのコンテンツを無料公開しているわけですよね。
しかし、ウェブ上でのコンテンツにも料金を設定して、広告を一切出さずに運営している雑誌があります。その秘密について考察しているのが以下の記事:
■ Success without ads (CNET News.com)
「広告を一切出さない」という点でピンときた方もいらっしゃるかもしれませんが、その雑誌とは「Consumer Reports (コンシューマー・レポート)」のこと。米国の消費者団体 Consumers Union (コンシューマーズ・ユニオン)が発行する雑誌で、日常品から車まで、企業が販売している様々な製品を独自にテスト・報告するという内容。調査の独立性と公平性を維持するため、誌面には広告を一切載せず、テストに使用する製品もすべてお金を出して購入(企業から送られてきた場合には送り返す)という方針を貫いています。
で、上でリンクを貼った通り Consumer Reports にはウェブ版も存在しているのですが、見てお分かりのようにこちらも一切広告がありません。中を見ていくと途中まで(各カテゴリの全般的な情報など)は無料で閲覧できるものの、個々の製品に対する評価などを見るには購読料(1年間26ドル、1ヵ月5.95ドル)が必要となります。この購読料ですべての運営をまかなっているわけですね。
Subscriptions to the magazine still produce the vast majority of Consumers Union’s revenue: the dead-tree version of Consumer Reports has a paid circulation of 4.5 million, more than all but a handful of American magazines. There is relatively little overlap between the print and Web subscribers--about 600,000--which allows the magazine to reach two large, distinct audiences.
Consumers Union の収入の大部分は、依然として雑誌の購読料である(紙版の Consumer Reports には450万人の購読者が存在している)。紙版の購読者と、ウェブ版の購読者(約60万人)はほとんど重なっていないため、Consumer Reports は2つの大きな読者層に到達することに成功している。
とのこと。では紙とウェブでどのような違いがあるのかというと、紙版では6割以上の購読者が男性であるのに対し、ウェブ版では男女比率が半々であると指摘された上で、
A reader of the printed magazine might be “someone who generally wants to be a well-informed consumer,” said Giselle Benatar, editor in chief of online media. “But on the Web site, we’re attracting very transaction-minded consumers. They are shoppers. They’re looking for a product, they want ratings, they want recommendations, and they want it now, not once a month.”
オンライン版の編集長である Giselle Benatar は次のように述べた。「紙版の読者は、全般的に知識が豊富な消費者になりたい、と願う人々です。しかしウェブ版には、より具体的な活動を念頭に置いた消費者、つまり何かを買おうとしている人々がアクセスしてきます。彼らは個々の製品に関する情報や評価、レコメンデーションを探していて、しかも月1回ではなく、今すぐそういった情報を欲しがっているのです。」
と解説されています。つまり読者が求めるコンテンツ(製品に関する調査結果)をベースにしつつ、紙とウェブ、それぞれの特性に合致する購読者を得ることに成功しているわけですね。
それに加えて、有料の購読者を得ているポイントとして「信頼性」が挙げられています。上記の通り、Consumer Reports では広告を一切掲載せず、企業からサンプルを受け取ることも拒絶しています。またある記事が誤っていたことが判明した際、Consumer Reports はウェブからその記事を取り下げるとともに、全ての購読者に対してお詫びの手紙を発送。さらに「なぜ間違いが起きたのか」を検証する長文の記事を掲載したそうです。
Others in the magazine industry--and even some of the car seat makers--were impressed by how Consumer Reports dealt with the affair. Circulation kept rising and, perhaps as important, the news media continued to quote Consumer Reports as an authoritative source of product ratings.
“I think the way they handled it increased their credibility,” said Kent Brownridge, who heads the Alpha Media Group, publisher of Maxim and Blender.
雑誌業界の人々や、カーシート製造業者までもが、Consumer Reports の対応に感銘を受けた。雑誌の発行部数は上り続け、さらに重要なことには、ニュースメディアが製品評価の権威ある情報ソースとして、Consumer Reports の記事を引用することを続けた。
Maxim と Blender の出版社である、Alpha Media Group を率いるKent Brownridge は「彼らの対応の仕方が信頼性を上げたと思う」と述べた。
とのこと。日本でも松下のFF式石油暖房機の問題に見られたように、誤りへの対応が逆に信頼性を増すという例がありますよね。もちろん事故がないことがベストなのですが、それが起きた場合に誠実な対応を行うことによって、「この会社/組織は信頼できる」となるわけです。残念ながら最近では、まったく逆の対応を行って、ますます信頼を失墜させてしまうという事例の方が多いですが……。
「読者が求める情報を」「求める形式で」提供し、さらに「信頼性を確立する」こと。それが Consumer Reports が広告モデルに走らない(この場合は「走れない」なわけですが)で成功している秘訣である、と。必ずしもあらゆるウェブサイトでこの秘訣を活用することができるわけではないと思いますが、参考になる面は大きいのではないでしょうか。例えば最近、メディア不信がしきりに叫ばれていますが、どんな問題が起きても簡単な謝罪(ときには謝罪とすらいえないコメント)で済ませてしまうことにもその一因があるのではないでしょうか。「ああ、もうこの放送局/新聞社は同じような過ちは犯さないな」と思えるような対応を行ったメディアが、最近あったでしょうか。そんなメディアが「ウェブ版でもお金払ってね」などといっても、お金を出そうとする消費者が少ないのは当然でしょう。
また信頼性という面では、CGM的に一般人のレビューを集める仕組みにしてしまうのも、あまり好ましくない方法と考えられるかもしれません。価格.com のように確立された存在になってしまえば話は別かもしれませんが、見ず知らずの他人が書き込んだ情報に信頼性を感じ、お金を払う人は少ないでしょう。コストはかかるものの、Consumer Reports のように独自の調査を行い、結果を開示するという形式にも注目が集まって良いのではと思います。
逆に言えば、「コンテンツを、それを読む人に直接売る」というのは、それだけ大変な行為なのだということかもしれませんね。「無料コンテンツ+広告」モデルがラクだとか、安易だというわけではありませんが、「読者が満足してお金を払ってくれるサイトを目指してやろう!」という動きがもっとあっても良いのではないでしょうか。
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