WEB2.0 の時代は「みんなで考える」ことがもてはやされていますが、それがあらゆる場面で正しいというわけではないようです。Sandia National Laboratories という米国の研究所によると、「ひとりで考える」方が良い結果を生む場合があるとのこと:
■ Complex 'Wicked' Problems Better Solved Individually Than Through Internet Groups (ScienceDaily)
同研究所の研究員、George S. Davidson 氏らによって行われた実験について。「困難な課題」に対するアイデアを出す場合、個人で考える方が、イントラネットを使ってグループで考えるよりも質・量の両方で勝っていたそうです。
では、詳しい内容ですが。まず「困難な課題」とは何か、という点ですが、
Wicked problems are those problems that by their very definition are so tangled that there is no agreement about their definitions, much less their solutions.
困難な課題とは、解決方法に関するだけでなく、その定義からして合意に達するのが難しい課題のことである。
という解説があります。例えば「営業成績を改善する」なども、「そもそも望ましい営業結果とは何か(新規顧客が増えることか、既存顧客にもっと買ってもらうことか)」を考えなければなりませんから、困難な課題の1つとして捉えられるかもしれません。
次に実験の内容。参加者は研究所の関係者120名と、インターンの学生26名。参加者は2つのグループに分けられ、片方には個人作業(他の参加者のアイデアを閲覧することができない)を、もう片方にはグループ作業(研究所のイントラネット経由で他人とのアイデア形成・共有ができる)を命じたとのこと。参加者は専用ウェブサイトにアクセスし、そこで提示される課題に対して回答をインプットします。回答はなるべく多く出すように求められると共に、独創性、実行可能性、有効性などの面からも審査されます。
その結果が「ひとりで作業した方が良い」というものだったわけですが、特に「質」の面については
She adds that what was most interesting is that the quality of ideas from the people responding as individuals was “significantly better across all three quality ratings.”
また彼女(※ Courtney Dornburg、研究チームの一員)は、最も興味深かった点として、個人で作業した人々のアイデアの方が「独創性・実行可能性・有効性すべての面で著しく優れていた」と述べた。
とのこと。ここで「イントラネット経由でコラボレーションしたグループの方が優れていた」という結果でも出れば、「やっぱり WEB2.0 だよね!」で喜ぶ人が多かったのでしょうが。しかし逆に、もっと面白い考察ができるかもしれません。
当然ながら、今回の結果だけを見て「WEB2.0 型のコラボレーションは会社には必要ない」と言い切ることはできないと思います。そもそも「困難な課題」の具体的な内容は何だったのか、参加者(特にグループ作業した方)はどんな人々で、他の参加者とどのような関係を持っていたのか、また研究所のイントラネットとはどのようなシステムだったのか等々。実験の何がこの結果を生んだのか、詳しく見てみる必要があるでしょう。
しかし、「ネット経由でコラボレーション可能にした、これで仕事の生産性が上がるだろう」と安易に考えることはできない -> むしろ生産性を下げるリスクもある、という教訓は得られるのではないでしょうか。どんなツールも使い様なわけですが、ネット経由でコラボレーション「しなかった」方が著しく良い結果を出したとなれば、いわゆるエンタープライズ2.0という発想は予想以上に慎重に扱わなければならないのかもしれません。
コメント