昨日のエントリで行動経済学の本をご紹介したので、今日はその関連で。このブログでお馴染み『予想どおりに不合理』の著者、Dan Ariely が、Harvard Business Review の June 2009 号で短いエッセイを寄稿しています:
■ How Concepts Affect Consumption (HBR.org)
人間の購買行動は単純なものではなく、「コンセプト(このブランドが好きだから買う、などのように付随的な意味を与えるもの)」という不合理な要素が絡んでるよ、というまさしく行動経済学の王道のような記事ですが、こんな実験が紹介されています:
Pursuing a goal can be a powerful trigger for consumption. At a convenience store where the average purchase was $4, researchers gave some customers coupons that offered $1 off any purchase of $6, and others coupons that offered $1 off any purchase of at least $2.
ゴールを追わせるというのは、消費を起こす強力な引き金となる。一人のお客が平均して4ドル使うコンビニエンスストアにおいて、ある実験が行われた。あるお客には「6ドル買ったら1ドル割引」というクーポンを、別のお客には「2ドル以上買ったら1ドル割引」というクーポンを与えたのである。
で、どうなったか。合理的に行動しました、という結果だったら面白くないので、だいたい結果は予想できると思いますが:
Customers who received the coupon that required a $6 purchase increased their spending in an effort to receive their dollar off; more interestingly, those customers who received the coupon that required only a $2 purchase to receive the dollar off actually decreased their spending from their typical $4, though of course they would have received their dollar off had they spent $4. Consuming the specific goal implied by the coupon—receiving a savings on a purchase of a designated amount—trumped people’s initial inclinations. Customers who received the $2 coupon left the store with fewer items than they had intended to buy.
6ドルの購入が必要なクーポンを渡されたお客は、割引を手に入れるために、支出額を増やした。より興味深いことに、2ドルだけで割り引いてくれるクーポンを手にしたお客は、通常の場合の平均4ドルよりも少ない額を使うようになった(もちろん4ドルでも割引が行われるにも関わらず、である)。クーポンに提示されてるゴール(割引を手に入れるために一定額を支払う)を達成しようという気持ちが、人々の最初の考えを上書きしてしまったのである。2ドルで割引が得られるクーポンを受け取ったお客は、彼らが最初に買おうとしていたものよりも、少ない品物を手に店を離れることになった。
とのこと。「~という行動を取れば」という条件提示が、人々の行動を左右してしまったわけですね。心理学的には、いわゆる「アンカリング」に近い話だと思います。
同じような話は、昨日ご紹介した『人は勘定より感情で決める』にも登場します。恐らくこちらの方が身近な例でしょう:
アンカリングが使われている例は、何も値引き表示だけではありません。スーパーマーケットの特売セールなどで、「お1人様5個まで」といった個数制限をつけて売るところもよく見かけるのではないでしょうか。
私は以前「せっかく買ってくれるお客さんに対して、何もわざわざ積極的に制限をつけることないのに」などと思っていたのですが、じつはここにもお店にとってメリットのあるアンカリングの効果が隠されていたのです。
「お1人様XX個まで」とう表示つきの場合、XX個という数字にアンカリングされて、XXに近い個数を(本来買い手が必要な個数より多く)買ってしまいます。「お1人様XX個まで」という表現に何か急かされているような状況に追い込まれてしまい、個数制限がなければ2個で良いのに、3個も4個も買ってしまうのです。タイムサービスのような時間制限が加わればなおさら効果があるのは言うまでもないでしょう。
ということで、何でもいいから行動のガイドラインとなるようなものを置いてしまえば、消費者や利用者はそれに従ってしまう可能性が高いと。自分が利用される立場になった場合には注意が必要ですが、こちらが商品やサービスの提供者となった場合には、ちょっと使ってみたいテクニックでもありますね。少なくとも冒頭の例のように、人々の意図よりも低いゴールを設定してしまう(そしてその低いゴールを達成した時点で満足されてしまう)という事態だけは避けるように注意が必要かもしれません。
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