データを処理する技術の発展により、データから様々な価値を生み出すことが可能になりました。それによって「素材」や「資源」としてのデータの潜在的価値は、これまでにないほど上昇しているといえるでしょう。その一方で、大量のデータを収集・保管するという作業においては、未だに公的機関や大企業が優位性を維持しています。
そこで公の利益を実現するため、データを持つ組織がそのデータを寄付するという「データ・フィランソロピー」の概念を広めてはどうか、という意見が出てきているそうです:
■ Data Philanthropy: Open Data For World-Changing Solutions (Fast Company)
この言葉は世界経済フォーラムのCTO、Brian Behlendorf氏がダボス会議で提唱したもので、国連も支援しているのだとか(実際に国連ではGlobal Pulseというサイトを設置、データ活用とツール提供に乗り出しています)。具体的にどのような内容かというと:
The basic concept, writes Global Pulse’s Robert Kirkpatrick, is a global data commons. Companies, governments, and individuals contribute anonymous, aggregated datasets from all over the world. Kirkpatrick points to the work of researchers who are pushing the boundaries of thinking about open data: Georgetown University Professor Michael Nelson’s ideas about how companies can benefit from greater transparency through "strategic leaking," as well as Jane Yakowitz’s The Tragedy of the Data Commons, which warns against the idea of personal data as property, arguing that it should be considered a protected public asset to enable public policy research (you can see her present on the topic here).
Global Pulseのロバート・カークパトリックは、世界規模でのデータコモンズを実現することが「データ・フィランソロピー」の基本コンセプトであると述べている。企業や政府、あるいは個人が、個人が特定できない形で集約されたデータセットを、世界中から提供するのだ。またカークパトリックは、オープンデータの可能性を追求している研究者たちの研究成果を紹介している。その一人、ジョージタウン大学のマイケル・ネルソン教授は、企業が「戦略的リーク」を通じてより大きな透明性を実現し、利益を手にすることができると主張している。またジェーン・ヤコビッツは「データコモンズの悲劇」と題された論文の中で、「データは個人の所有物である」という概念に対して警告を発し、データが保護された公共財であり、公共政策研究を可能にするものとして捉えられるべきだと論じている(彼女の主張はこちらで確認することができる)。
ということで、当然ながら個人情報が漏れないことを前提としつつ、社会全体の利益を達成するためにデータを「パブリック」な存在にしていこう、というのがデータ・フィランソロピーの発想と言えるでしょうか。例えば東日本大震災の後、自動車メーカーが自社が持つ車両走行実績データを提供、「通れた道マップ」が実現されるということがありましたが、これなどはデータ・フィランソロピーの典型例と言えると思います。
通常の資源の場合、使ってしまえばそれっきりで終わってしまい、その価値は使用者しか手にすることができません。しかしデータの場合、誰でも・何度でも使うことができ、また利用者が多ければ多いほど、より優れた利用方法=利益が生まれてくることが期待できます。実際にオープンガバメントが推進されている米国においては、公的機関が公開したデータを基に、「犯罪発生マップ」などといった様々なアプリケーションが民間から生まれています。従って、むしろ積極的に皆が使える状態に置いた方が、データという「資源」の価値が高まると言えるでしょう。
繰り返しになりますが、もちろん公的な価値が実現されるからといって、個人情報の漏洩というマイナス面が無視されて良いというわけではありません。しかしジェフ・ジャービスが新著『パブリック―開かれたネットの価値を最大化せよ』の中で、確信犯的に「パブリック」の擁護者を演じているように、データを公開する・共有するという行為のプラスの側面についても積極的に目を向けて良いのではないでしょうか。そしてデータが生み出し得る価値は、技術の進化によって何倍にもなろうとしています。データ・フィランソロピーの旗印のもと、政府や企業が公共財としてデータを扱い、公のために積極的にデータを提供するという文化を促進しても良いのではないかと思います。
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