※12月4日訂正
文中、「はてなの近藤さん」とすべきところを、「伊藤さん」と記載してしましました。訂正してお詫びします。間違いがあったことを残すために、文中の誤りは修正せず、そのままにしてあります。ご了承下さい。
はてなの伊藤さんが、CNet Japan Blogでちょっと気になる発言をされていたので、それについて。
50%の完成度でサービスを出す(CNet Japan Blog)
「ウェブサービスの場合、実際は半分くらいの完成度で出した方がうまく行く確率が高い」という意見がこの記事の主題です。トラックバックを見ると、多くの人は伊藤さんの主張に賛成しているようですが、僕はちょっと同意できません。
確かにWEBサービスは、①特殊な技能を必要としない技術(AJAXしかり)を使って構築される、②ユーザー数が差別化の重要な要因となる、という特徴があるため、先行者利益が大きい世界です。もたもたしていたら競争相手に類似サービスを開始され、ユーザー数はあっという間にクリティカル・マスに到達してしまうでしょう。早さを優先するために、50%の段階でリリースするという戦略もある部分では正しいと思います。
しかし50%の段階でリリースした後、ユーザーに「育てて」もらうには、2つの重要な前提があります。1つは十分なユーザーを確保できること、もう1つはユーザーの意見の中から「正しい意見」を見極める仕組みが存在することです。
記事の中に、
どれだけ面白い仕組みを考え付いたり、色々な人の立場になって考えることが得意な人間でも、あるサービスが数十万人に利用された時に、その中で何が起きて、どのような機能が必要になるかを全て想像することはできません。
という部分があります。たしかに「はてな」は既にメジャーなサービスで、新機能をリリースすればすぐに十万人くらいのユーザーを確保できるでしょう。しかし事業を立ち上げたばかりの名も無いベンチャーにとっては、数千人のユーザーを集めるのも大変です。その中に「もの言うユーザー」はどれだけ存在しているでしょうか。多くは「このサービスを育ててやろう」などという気のない人々で、彼らは嫌なことがあったら、何も言わずに立ち去るはずです。
ユーザーを集められずにもたもたしていると、せっかく作ったサービスを他の(「はてな」のような)有名企業にコピーされて、ユーザーを奪われてしまう危険があります。特に「ソーシャル○○」系サービスの場合、ユーザー数が多いことが重要なポイントとなりますから、他のサービスにユーザー数で上回られた時点で自社のサービスは終わりです。「サービスが数十万人に利用された時」の心配をする前に、他のサービスが簡単に追いつくことのできない規模のユーザーベースを構築することを考えなければならないのです。
仮に十分なユーザーが確保できたとしても、まだ第2の前提「正しい意見を見極める仕組みがあること」が問題になります。ユーザーの意見は、常に正しいとは限りません。僕はプログラマーをしていたことがあるのですが、多くのユーザーが実は不必要な機能に固執する場面をよく目にしてきました。またユーザーニーズに答えてばかりいると、ユーザーが想像できないような「革新的機能」を創造するチャンスを失う危険もあります。(さらに言えば、ユーザーによって生み出された「集合知」が誤った方向に進む可能性もあります--参考記事:イントラブログと集団成極化)。
また正しい意見ばかり出てきたとしても、10個の要望を一度にかなえることはできませんから、おのずとそこに「優先順位付け」という問題が生まれます。将来においては「正しい」意見でも、現在は「進むべきでない」道というものもあるでしょう。「ある時点において、次に何を開発すべきか」という問いに正しく答えられないと、誤った方向に進んでしまう危険性があるのです。
「はてな」のような成功したベンチャー企業には、すぐれたマネジメントグループが存在していたはずです。彼らが上手にユーザーの意見を汲み取り、会社を舵取りしたことが、成功の大きな要因となっていたのではないでしょうか。また様々な要因から、ある時点で彼らが「ビジョナリー」のようなステータスを獲得し、メディアから注目を浴びているというのも無視できないポイントだと思います。
「50%でリリースし、後はユーザーと共に歩む」という手法は、どんな企業も採用できる戦略ではない---このことを明確にしておかなければならないのではないでしょうか。
伊藤さんは別の方ですよ。
近藤さんです。
投稿情報: | 2005/12/04 13:44
本当ですね、近藤さんと書くところを、伊藤さんとしてしまいました。訂正してお詫びします。
投稿情報: アキヒト | 2005/12/04 14:03
どの企業も50%でサービスを出せるわけではないということには同意します。はてな(それにもちろんgoogle)は50%でサービスを出すことに特化した組織構造を持っていると思います。しかし、どのような組織構造がこのような方法論を可能にするかを考察するのは、一般的な企業にとっても有用であると考えます。
投稿情報: ワタリガラス | 2006/01/14 14:14
確かに「50%リリース+ユーザー参加型改善」という戦略を成功させる組織とはいったいどんなものなのか、考えてみると面白いかもしれませんね。
「50%リリース+ユーザー参加型改善」にはユーザーとのコミュニケーションと、ユーザーから得た情報を活用するための社内コミュニケーションが何より重要ですから、「コミュニケーション能力の高い組織」というのが1つのポイントかなというのが個人的な意見です。
投稿情報: アキヒト | 2006/01/14 16:36