『ブルー・オーシャン戦略』が流行しています。
新聞や経済誌でよくこの本が取り上げられていますし、書店でも平積みで置いてあるところが多いです。日経情報ストラテジーの最新号(2006年2月号)でも特集が組まれていました。
僕はこの本が出て間もないころに手に取ったことがあるのですが、あまり役に立ちそうに感じなかったので買いませんでした。「ブルー・オーシャン」という言葉と一面の大海原の表紙だけが、インパクトとして感じたのを覚えています。ところがこれほど流行しているのですから、僕には流行を見抜く目は無さそうです。
しかし本屋で立ち読みした記憶と、今月の日経情報ストラテジーを読んだ限り、やっぱり優れた理論には思えません。例えば様々な書評を読むと「戦略キャンバス」というツールが絶賛されているのですが、似たような分析手法は以前からあります。また著者達は「SWOT分析」をレッド・オーシャン(既存市場)用の分析ツールだとして批判しているようですが、彼らの言う「戦略キャンバス」や「4つのアクション(取り除く/減らす/増やす/付け加える)」を正しく描くためには、SWOT分析など既存の分析手法が欠かせないでしょう。
また最も違和感を感じるのは、「競争のないブルー・オーシャン市場(新規市場)を創造しろ」と言っておきながら、結局やっているのは「いかにして他社との差別化を図るか」というごくあたりまえの戦略分析である点。「競争相手のいない市場を作る」ためのヒント(例えば効果的な参入障壁の作りかたとか、コア・コンピタンスの模倣を防ぐ方法とか)が載っている本ではなさそうです。セグメンテーションやポジショニング、集中と選択といった既存の手法を「ブルー・オーシャン」というキャッチフレーズの下にまとめ直しただけ、のようもに感じます。
ただし「ブルー・オーシャン」というインパクトのあるキャッチフレーズを考え、既存の手法を分かりやすく売り込んだという点は賞賛されるべきでしょう。とここでふと思ったのですが、
- 既存の手法(技術)を1つのキャッチフレーズの下にまとめる
- そのキャッチフレーズが人々を惹きつける魅力を持つ
という点、「Web 2.0」に似ているのではないでしょうか?Web 2.0もAJAXやRSSなど既存の技術を寄せ集めたものですし、「Web 2.0はマーケティング用の言葉だ」と揶揄されるほど、人々を惹きつけるフレーズになっています。IT系の人々にブルー・オーシャン戦略が受けている点も、もしかしたらこんなところに一因があるのかもしれません。
他にも最近流行の「見える化」という言葉も、「可視化」という以前から言われていることをインパクトのある言葉に置き換えたにすぎません。よく考えてみれば、他にも「ブルー・オーシャン戦略」や「Web 2.0」のようなキャッチフレーズはたくさんあるのでしょう。その意味では、ある概念が流行する/しないの境目は、いかにキャッチーな言葉を思いつき、売り込むことができるかにかかっているのかもしれません。
「Web 2.0」は最近R25でも解説され、2006年の流行語対象になりそうなほど、強力な言葉に成長しつつあります。なんだか「Web 2.0の布教だけで食べてるんじゃないか?」というような人もいるくらいですし。Web 2.0に限らず、新しい言葉が突然流行りだしたら要注意。ブルー・オーシャンに逃げ込んだつもりが、けっきょくレッド・オーシャンにいた--なんて笑えない話になってしまうかもしれません。
そうそう、買ったのですけど、いまいち食指がそそられないんですよね、この本。
大前研一が「ストラテジックマインド」あたりで示している戦略的自由度と何が違うの?という突っ込みもありました。
ユーザーベースのイノベーション、事業モデル(ヒッペル 、スライウォツキー)あたりの方が本質的かなと個人的には思ってます。
投稿情報: SW | 2005/12/24 07:31
良かった、やっぱり「他にも同じような理論があるじゃん」って突っ込みがあるのですね。じゃあ自分で独自の理論を作れるの?言われるとつらいのですが、そんなに騒がれるほどの理論かなぁと思います。
勉強不足でエリック・フォン・ヒッペルの名前は初めてだったのですが、ユーザー・イノベーションという分野は面白そうですね。『民主化するイノベーションの時代』、読んでみようと思います。
投稿情報: アキヒト | 2005/12/24 13:03
ちょっと、ニュアンスは違うのはわかってますが…「ロングテール」というのも、わりと都合よくつかっている言葉でここ1年各所でお目にかかるようになりましたね。なんかひきあいにだされる「パレートの法則」がカワイソウになります(笑)
投稿情報: ヒロツ | 2005/12/26 15:27
そうですね、「ロングテール」を実現している企業なんて、実はごくわずかなんじゃないのか?と感じる時もあります。まだまだパレートの法則をスタンダードだと考えて良いのではないでしょうか(その上でロングテールを実現する方法を考えれば良いわけで)。
投稿情報: アキヒト | 2005/12/26 17:52
話を本論から脱線させてすみません。セミナー的なものにいったときにスゴイ確率で「ロングテール」の話がでてくるんですよね。(私も使いますが(笑)) そもそもロングテールを持ち出さなくてもいいような事例もあったりで。『既存の手法(技術)を1つのキャッチフレーズの下にまとめる 』というのがなんとなく似た感じがしたものですから…
投稿情報: ヒロツ | 2005/12/27 11:21
>ヒロツさん
僕も感じることがあります。「ロングテール」って言いたいだけだろ!って突っ込みたくなる時も(笑)
>『既存の手法(技術)を1つのキャッチフレーズの下にまとめる 』
という点では、先週の朝日新聞土曜版に「日本人は『ラベリング』(社会現象に名前を付けて一括りに扱うこと)が好き」という記事が載っていました。もしそんな傾向があるのだとすれば、「Web 2.0」や「ロングテール」といった言葉は、日本でより独り歩きする危険性が高いのかもしれませんね。
投稿情報: アキヒト | 2005/12/27 11:30