Web2.0の思想をエンタープライズ・システムでも取り入れるべきか?という、つい最近『日経コンピュータ』でも特集していたようなテーマ(すみません、オフィス外にいるので何号の特集かは後で確認します)について、MITの教授が論文を書いたようです。Nicholas CarrのRough Typeで解説記事が出ていたので、ちょっと紹介を:
Is Web 2.0 enterprise-ready? (Rough Type)
元ネタになっているのが、SloanのAndrew P. McAfeeが書いた"Enterprise 2.0: The Dawn of Emergent Collaboration"という論文。$6.50でPDFバージョンを購入することができます。さっそく購入してみたのですが、残念ながら読む時間が無いので、Rough Typeの記事で紹介されていた内容を見てみると、
- 主にナレッジ・マネジメントの分野で、Web 2.0的な発想をどうエンタープライズ・システムに取り込んで行くかを考えている。
- McAfee教授はまず、過去に登場したナレッジマネージメント系ツールがなぜ失敗したのかを考察し、次にWeb 2.0技術がそれらと異なる点を説明している。
- Web 2.0技術の良い点は、「知識そのものを集めることに焦点を当てるだけでなく、知的労働者の行動とアウトプット(practices and output of knowledge workers)にも焦点を当てている」ところ。コラボレーションのプラットフォームと、コラボレーション活動を記録する仕組みの両方が提供されることで、知識共有のためにどんな行動が行われたかがオープンになり、後から簡単に検索できるようになっている。
- Web 2.0技術は他にも、安い、構築しやすい、使いやすいなどのメリットがある。コストや労力をかけなくても、企業は簡単に導入実験が行える。
こんな感じで議論されているようです。これに対して、Carrは以下のように反論しています:
- McAfee教授は1つの事例(投資銀行のDresdner Kleinwort Wasserstein)を調査しただけに過ぎない。
- 一部のケースで効果を発揮したのは、これまでのナレッジマネジメントツールについても同じことが言える。Web 2.0だけが特別な証明にはならない。
- 忙しい人々はいくら促しても、新しいツールを進んで使おうとはしないだろう。MacAfee教授も「現在インターネットを使っている人でも、その大部分はブログやタギング、ウィキペディアを利用していない」と指摘している。
- マネージャーや専門家、そして企業内で最も価値のある知識を持っている人々は、余分な時間がないものだ(=だから新しい技術を進んで使わないだろう)。
これだけ見ると、ちょっとCarrが劣勢と言った感じ。いつもの鋭いツッコミが感じられません。いや、Web 2.0の企業導入に反対しているわけではありませんが。
Web 2.0は企業内で使えるか使えないか、という二元論で話をしても仕方ないので、「どういう条件が揃えば役に立つのか/立たないのか」という教訓を得たいと思うのですが、「本当に使って欲しい人は使ってくれないだろう」という視点は重要だと思います。特にWeb 2.0技術はCarrが"collaboration technologies"と端的に置き換えているように、「多くの参加者がいる」という前提で初めて効果を発揮するものです。これまでのiUG研究会でも、社内ブログ/SNSを成功させるには「導入して終わり、ではなく、導入した後のフォローが大切」という点が何度も指摘されています。
一方、MacAfee教授が指摘した「コストや労力をかけなくても、簡単に導入実験が行える」という点も重要ですね。これもiUGで様々な方が指摘されていた点ですが、例えば社内ブログ/SNSは非常に安価・短期間で導入することができ、「とりあえず入れてみる、反応を見て運用方法を調整する、ダメなら捨ててしまう」という態度でも始めることができます(もちろん事前の考察がされるに越したことはありませんが)。同様に、「Web 2.0技術を現場がゲリラ的に導入する、それが突破口となって全社に浸透する」といったケースが今後増えてくるように思います。
いずれにせよ面白そうな論文なので、時間があるときにじっくり読んでみたいと思います。また何かコメントするかも。
ポイントが技術そのものから少しずれて動き始めるというのでいいのだと思います。テクノロジカルな視点のみで突っ込んでるとその時点で微妙。
それこそ、サービス化じゃないですが。そういう流れなんだと思いますよ。
投稿情報: SW | 2006/04/13 20:32