今月号のハーバード・ビジネス・レビューに「ロイヤルティ・プログラムを見直す法」という論文が掲載されているのですが、その中で興味深い実験が解説されていました。
実験はこんな感じ。ガソリンスタンドで「スタンプが8個貯まれば1回無料で洗車」というカード(カード1)と、「スタンプが10個貯まれば1回無料で洗車」というカード(カード2)の2種類を用意します。これだけだと後者のカードの方が不利ですが、カード2を渡す時には2個のスタンプを無料で押すというプロモーションを行います。つまり両者の間には実質的な差が無いのですが、カード1は「まだスタンプ集めが始まっていない状態」、カード2は「既にスタンプ集めが始まっている状態」になっているわけです。
この2種類のカードを実際に使ってもらうとどうなるか?すべてのスタンプを集めて無料洗車を請求した割合を比較すると、カード1では全顧客の19%に過ぎなかったのに対し、カード2では34%に上ったそうです。また特典交換までの平均日数(スタンプが全て貯まるまでの日数)を比較した場合も、カード2ではカード1よりも2.9日短い、という結果になったのだとか。「もうスタンプ集めに参加している」という心理状態にすることで、「最後まで貯めなきゃ」という気持ちが引き起こされる、と説明できるでしょうか。
このように「初めて使うモノ/サービスであるにも関わらず、既に参加しているという意識を芽生えさせる」という作戦=「あなたはもう参加者です戦略(仮称)」を、ポイントカード以外の分野に応用できないでしょうか?
例えばRSSリーダー。gooなどでは既に実践されていますが、WEBで登録もしくはインストールすると最初からいくつかのフィードが登録されています。こうしておくことで、ユーザーはすぐに使い始めることが可能になり、「僕はもうこれを使ってるんだ」という気分にさせることができるかもしれません。少なくとも、まったくカラのリーダーよりは「もう1度使ってみよう」という気分になるのではないでしょうか。
またSNSにも応用可能かもしれません。登録するとまっさらな状態でスタートするのではなく、あらかじめ運営会社の数名が「友達」として登録されているとか、ランダムに選ばれたコミュニティ数個に所属しているとか・・・。なんらかの「関係」を最初から作っておけば、もう一度アクセスしたいというモチベーションを生むことができるかもしれません。
いずれにしても、こうした「最初の一歩」を無理矢理でも踏み出させてあげることが、意外に大きな効果を生むのではないでしょうか。またポイントカードだけでなく、各種ロイヤリティ・プログラムを研究してみることで「ユーザー登録しただけで放置されてしまう」という状況を防ぐヒントが得られるかもしれませんね。
ソフトで最初からいくつかのデータがプリインストールされているのは、操作説明の手間を省く部分があると思います。
OutlookExpressでも、最初に「ありがとうございます from Microsoft」みたいなのが入っていたと思います。
ウェブのベータサービスの中には、最初に入っているデータで既にバグっているものがあって、「それはベータじゃない!!」と思うことがまれにあります。
投稿情報: itochan | 2006/08/09 17:51
ガソリン・スタンドのカードの場合、二枚目以降のカードでの差を考えてしまいます。カード 1 では、二枚のカードを埋めるには、計 16 のスタンプが必要ですが、カード 2 では (一枚目のみサービス・スタンプ 2 個分があるとして計算すると) 18 のスタンプが必要です。三枚目では、(カード 1) 24 vs (カード 2) 28。サービスを使う頻度が高ければ、この差は大きくなります。
「最初の一歩」はアイデアですが、カードにスタンプ・ポイントを貯めるタイプでは、ちょっとした数字のマジックも入って来そうですね。
投稿情報: @aka | 2006/08/09 21:51
> itochan さん
仰る通り、最初からデータを入力しておくことで理解を助けるという狙いもありますよね。個人的にWEBメールサービスの「最初の挨拶メール」系は、分かっていてもちょっと嬉しく感じたりして・・・。
> @aka さん
確かに2枚目以降のことを考えると、カード2の方が効果は薄れるかもしれませんね。そこで「2枚目のカードには感謝でスタンプ1コ」みたいなテクニックを駆使することも考えられるかもしれませんが。「数字のマジック」、突き詰めて考えると奥が深くなりそう・・・。
投稿情報: アキヒト | 2006/08/10 01:23
プラモデルでセミアッセンブル(半完成品)というのもあるみたいですよね。それとも通じるところがある?違うか(笑)
この実験結果には、激しく共感。
「あなたはもう参加者です戦略(仮称)」の応用はマーケティング戦略上も有効でしょうね。たまたま近所でビックカメラが新規開店したのですが、事前にポイントカードをつくると1000円分のポイントが入っているというのをやっていました。金銭的なインセティブでの直球的な面もあるかもしれませんが、なかには次に利用するときに1000円をスタートとしてポイントを加算する人もいるかもしれません。
投稿情報: p-article | 2006/08/10 12:08
あと、心理的な面では、プライシングで、800円のものを800円として売るより、1000円と値づけして200円割引して売る方が、なんとなく訴求力がつくのと同じような感じですね。最近の飲食店のクーポンとかみてると、そのメソッドが使われているような気がしてならないのですが(笑)
投稿情報: p-article | 2006/08/10 12:28
ポイントカードに最初からいくらか入っている、というのもインパクト大きいですよね。また「1,000円のものを200円値下げして売る」という方が訴求力があるというのも納得です(ただこの辺は最近、公正取引委員会が厳しく取り締まっているようですが・・・)。よく気をつけて見ていると、類似メソッドが様々なところで発見できるかもしれませんね。
> プラモデルでセミアッセンブル(半完成品)というのもあるみたいですよね。
これ、個人的には十分「もう参加者です」系だと思います。半分だけ出来上がっていると気持ち悪くて、つい完成させたくなってしまう・・・のは僕だけですか?
投稿情報: アキヒト | 2006/08/11 01:48