病み上がりということに加え、雪で凍った道をベビーカーを押して移動するのも危ないので、買ったままにしていた本を読み進めていたりします。
その1つがこの『「説得上手」の科学』という本(ご購入の際は、ぜひこちらのアフィリエイトリンクで!)。この中でちょっと面白い部分があったのですが、アメリカのある大学で、学生達にリサイクルのために不要な紙を集めさせるという実験を行ったそうです。それは「リサイクルは○○だから重要です」とった風に理由を述べて説得するのではなく、単に学生達の集まる部屋に「昨日はこれだけ紙が集まりました」という張り紙をするだけというもの。たったこれだけなのに、紙の回収率を上げるのに劇的な効果があったそうです。
この手法には「フィードバック法」という名前が付けられ、「○○しろと直接的に言われるよりも、単に客観的な数値を見せられた方が、押し付けられたという感覚が減って行動に結びつきやすい」という解説がされています。もう1つ条件を加えるとすれば、「自分達の行動が可視化される」という点も重要でしょう。仮に「去年1年間でアマゾンの熱帯雨林が約1万7千平方キロメートル消失した」とフィードバックされていたら、「それは大変だな」と危機意識を煽るだけで終わってしまっていたかもしれません。「あなたたちの行動は、これだけの成果を出した」と見せられることによって、「もっと行動しよう」という気分になったのだと思います。
この「フィードバック法」、実際に応用されている例として、アメリカの道路を走っているとよく見かける"Speed Monitoring Awareness Radar Trailer (SMART, 速度監視・告知用レーダー付トレーラー)"というものがあります。これは実際に姿を見てもらった方が早いと思うので、次のページを参考にしてみて欲しいのですが:
Speed Monitoring Awareness Trailer
このようにトレーラー上部に"SPEED LIMIT"としてその道路の制限速度が表示され、下部に"YOUR SPEED"として計測対象の車(つまりあなたが運転している車)が出した速度がデジタル表示されます。こんなものが道の傍らにデーンと置かれ、ドライバーに対して制限速度の遵守を促しているわけです。日本にも似たような発想の仕組みは見かけますが、実際に速度が表示されるものや、移動式のものは少ないのではないでしょうか。
この機械、制限速度以上のスピードを出していたとしても、警察本部に通知するような機能はありません。また速度を測って表示するだけで、スピード違反車の写真を撮ったり、データに残すような機能もありません(僕が知りうる限りで、もしかしたらそんなタイプも存在しているのかもしれませんが)。また横に警察の車が控えているなどということもなく、制限速度以上の速度が計測されても即逮捕にはなりません。にもかかわらず、このトレーラーの前を通る車は一様に速度を下げて行きます。SMARTがあちこちに置かれているということは、一定の効果を警察も認識しているということでしょう。
このように、たとえ簡単な数値であっても、フィードバックを与えることは人間の行動を変えるのに大きな効果があるようです。そのための条件としては、上記2つの例から考えると:
- 問題解決にはどんな行動を取れば良いかが認識されている(リサイクル実験の例では「古紙回収に協力すること」、SMARTの例では「スピードを落とすこと」)
- 自分(もしくは自分達)の行動が可視化されている(リサイクル実験では「昨日1日の間に自分達が集めた古紙の量」、SMARTでは「たったいま自分の運転する車が出している速度」)
- フィードバックには「指示」を含めない
という3つが考えられます。他の事例が探せれば、もっと他の条件も見つけることができるでしょう。
WEBアプリケーション/サービスの分野では、フィードバックを返すことは他の分野よりも行いやすいでしょう。実際、アクセス数など様々なフィードバック機能が実現されています。せっかく実現しやすいのですから、フィードバックの効果を最大限に活かすため、使う場所とタイミングを工夫することをもっと考えても良いのではと思います。
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