ということで、Business Blog & SNS World 07 の話。文字通りブログ/SNSをビジネスでどう活かすかというテーマのイベントなのですが、今日は「社内ブログ/SNS」を中心に見てきました(自分自身の講演も社内ブログ/SNSがテーマだったこともあり)。
「ブログ/SNSのエンタープライズシステム化」などということが言われて久しいわけですが、良し悪しはともかく、もはや企業内でブログ/SNSが使われることは珍しいことではなくなりました。しかし1つ気になったことが -- 様々な発表やブースを見ていて思ったのですが、どうもブログ/SNSの無秩序性というか、ダイナミズムというか、良い意味での「毒」を抜こうとする流れがあるのではないでしょうか。
例えば某社の社内ブログシステムでは、「社員が個人のブログを持つ」という形式ではなく、「社員が『グループブログ』に書き込みに行く」という形式を推奨しているそうです。また「営業日報をブログで書かせれば、それは日常業務ですから利用率100%になります」などといった提案も。そいうったシステム全体の利用イメージを見せられて感じたのですが、それって例えば「掲示板」や「日報ツール」など、既存のシステムなどと何が違うのでしょうか。確かに「パーマリンクがある」「RSSを吐ける」などといった違いは言えるでしょう。しかしあえて言えば、その程度の「些細な」改善が目的なら、既存システムを改造するだけでもOKなはずです。実際その会社は、「ブログと掲示板ってどこが違うの?とよく質問されるんですよ」と仰っていました。
いま社内ブログ/SNSを導入しようとした場合に、2種類の(相反する)方向性が取れると思います。簡潔に表現できないのですが、例えて言えば:
- これまで情報発信に参加してこなかった人々を巻き込み、これまで流通していなかったタイプの情報(個人の思い、小さな気づき、プライベートな情報など)を共有するシステムを作る
- 営業日報や業務連絡など、これまでも流通していた情報を、これまでと同じ「権威」が発信するが、仕組みを効率化する
という2種類。僕が言いたい「毒抜きされるブログ/SNS」というのは、当然後者に当たります。
確かに既存の情報流通経路をサポートするようにブログ/SNSを導入すれば、失敗するリスクも少なくて、利用率も高いでしょう。しかしそれでいいのでしょうか?本来「ブログ」「SNS」というツールが注目されたのは、上記(1)の目的を達成できるからです。既存の仕組みを焼き直すだけなら、それは単なるシステムのリプレース。とても「オフィス2.0」や「オフィス革命」などという発想ではありません。
なぜ個人の感情や気づきを共有する必要があるのか、それにブログ/SNSの特性がどう活かされるのか。(1)の方向性を達成しようとしたら、大変な苦労を経験することでしょう -- 単にシステムを導入するだけでなく、社内の組織構造や文化を変えることにもつながるのですから。しかしそれを厭わずに取り組んでこそ、社内にブログ/SNSが存在する意義が生まれるのではないでしょうか。
今回の発表には「失敗学」というタイトルを付け、失敗という側面から社内ブログ/SNSを考えたわけですが、それはブログ/SNSを普通のシステムとして使って欲しいからではありません。逆に革命的なツールとして使って欲しいからこそ、あえて「失敗することを前提としよう」、という意見を述べたつもりです。極端な話をすれば、どこの部署からも反対されず、トップから歓迎されるような社内ブログ/SNSは「ブログ/SNS」ではない -- それくらいのつもりで取り組んで欲しいなと、勝手ながら考えた次第でした。
< 追記 >
オルタナティブ・ブログ『けんじろう と コラボろう!』にて、IBMの吉田さんに今回の講演を取り上げていただきました。
■ Business Blog & SNS Worldに行って来た (けんじろう と コラボろう!)
Business Blog/SNSと言いながらも、Notes登場時に語られていた価値・活用方法がほとんどで、Web2.0時代の「コミュニティ・個人の関係」を活用する話は小林さんとIBM意外には見つからず(RSSフィードのみが新しい)。
この部分、僕も賛成です(果たして僕が「コミュニティ・個人の関係を活用する話」を出来ていたかどうかは、お聴きになった皆さんのご判断に任せますが)。こんな使い方や目的なら、既存のグループウェアで十分じゃないか -- グループウェアベンダーの方々から、そんな反論がもっと聞きたいと思います。
一度、社内でブログを立ち上げて失敗事例を集めた事があるのですがうまくいきませんでした。皆集まった事例を見るのは好きなんだけど、自分で投稿はしたくないんですね。所謂ROMが多い。インターネットだと母数が多いから気にならないけど、社内だと母数が少ないから……
投稿情報: 赤枕十庵 | 2007/05/31 03:18
小林さん、こんにちは。
おっしゃることがびしびし伝わってきて、いい感じです!
今後もどしどし蒙を啓いてください!!
投稿情報: 今泉大輔 | 2007/05/31 12:27
> 赤枕十庵さん
コメントありがとうございます。会社の規模がある程度ないと、書き込みが少ない場合に盛り上がり辛いですよね。ただ様々な工夫を凝らすことで、ユーザー数100名程度の会社でも成功した例もありますし、まだまだ試行錯誤できるのかなと思います。
> 今泉さん
『シロクマ』で書こうかとも思ったのですが、けっきょく自分のナワバリで吠えてしまいました。今後もどしどし・・・頑張ります。
投稿情報: アキヒト | 2007/05/31 13:07
こんばんわ
Business Blog & SNS World 07に行って来ました。
僕も某社(多分H社ですよね)の講演を聴きましたが、かえって新鮮に感じました。
弊社もそうですが、ほとんどの企業が既存のツールであるメール、掲示板、日報ツールで上手くいっていない(または上手くいってないことに気づいていない)とうのが実態だからです。
要するにメールは履歴残らないし、探せないし、掲示板で上司に業務報告はできないし、日報ツールは使いづらくて使わない、そのためメールを使うから結局履歴(ノウハウ)が残らない蓄積されない。
これは既存のツールを改造というレベルでは無理で、そこにブログのアーカイブ、カテゴライズ、タグ、コメント、トラックバックという機能(もちろんRSSもパーマネントリンクも)が活きるのだと思います。
実は弊社は社長の命を受けて2年前に社内SNSを導入していますが、活性化のために、やれインセンティブだ、やれコメントコンテストだとやってきましたが、いまだに利用者は増えません。
ミクシイやグリーならともかく会社の中でSNSは無理があるように感じていた中、出会ったのが某社の業務ベースでの利用でした。
少なくても僕にとっては「オフィス2.0」「オフィス革命」でありました。
投稿情報: すぎやん | 2007/06/05 23:34
すぎやんさん、コメントありがとうございます。
某社がどこかについては、ノーコメントとさせて下さい(笑)
ただH社は、社内ブログの目的を「業務システムを置き換えること」に限定してしまった点で、かえって画期的なのかもしれませんね。パーマリンクやRSSを既存システム上に追加できるかどうかは別として、「新しい業務システム」としてブログを使うというのもありだとは思います。
しかし「業務システムとして使えば利用率100%だ!」というのは「日報システムの利用率が100%になりました!」というようなもので、とても「革命」とは呼べないと思います。せっかくブログ/SNSが本当に革命を起こす力を持っているのですから、簡易CMSという側面だけにフォーカスを当てるのは「もったいない」のではないでしょうか。
もちろん単なる業務システムを超えるものとして位置づけた場合、どの企業でも導入が成功するとは限りません。講演で述べたのはそういった失敗例で、すぎやんさんの会社でも現に失敗しているわけですよね。だからといって、ブログ/SNSを「やっぱり上手くいかないものだ、既存の業務システムと同じ使い方をしよう」というのでは、せっかくブログ/SNSを選んだ意味がなくなってしまうのではと思います。成功している企業もあるわけですし、本当の意味での「オフィス革命」を目指してみては、というのが僕の意見です。
投稿情報: アキヒト | 2007/06/06 10:20
回答ありがとうございます。
アキヒトさんの「ただH社は」に笑いです。
ひとつだけ認識してもらいたい点です。
H社の言っている「オフィス革命」は社内ブログのことではありません。
社内ブログや社内SNSだけではオフィス革命は起こらないと言ってました。
RSSリーダーとエンタープライズサーチを一体化させコミュニティ機能を持った製品を利用し、既存のドキュメントもWebサイトも社内ブログも一括で検索して、ヒットした情報が有効であればコミュニティ内で共有してしまおうというダイナミックなものでした。
しかも共有した情報はRSSフィード化し、新着を自動収集できるという画期的なものです。
この環境をオフィス革命と呼んでましたよ。
最近感じていることは、ブログのベンダーさんに現状困っている既存の業務システムの問題を相談しても、ブログ/SNSで「個人知識の可視化・共有」というテーマにすり替えて課題に正面から取り組もうとしていません。
既存の業務システムベンダーさんも高価な別製品を提案するばかりです。(内容も従来と変わらず、効果は見込めない)
という状況のなか、H社は現状業務の課題をクローズアップしブログのよさを取り入れ(個人知識も取り入れてます)、RSSと検索を活用したバランスは絶妙でした。
(ほめすぎですよね)
いろいろと偉そうなことを言って申し訳ございません。
ブログ/SNSの可能性はアキヒトさんの言っている2種類だけではなく、まだまだあるかもしれません。
ブログ/SNSを研究している専門組織だからこそ期待しています。
これからも頑張ってください。
投稿情報: すぎやん | 2007/06/06 22:37
すぎやんさん、ご回答ありがとうございます。
H社は、まぁ、そのままH社ということで(笑)。
追加の情報、ありがとうございます。
「社内ブログや社内SNSだけではオフィス革命は起こらない」
というのがH社の前提であれば、ますます「社内ブログ/SNSを既存業務ツールの代替として使おう」と提唱して欲しくないように思います。そんな使い方に限定したら、ますます革命は遠ざかりますよね。
またH社がRSSリーダー「S(笑)」と組み合わせた提案をされているのは理解していましたが、それじゃ「革命」のカギを握るのはRSSリーダーということになってしまうでしょう。確かにRSSリーダーは効率的な情報収集に向いていますが、「情報を効率的に収集・共有できるようになれば良いのだ」というのは、既存の発想の延長線上にしかないと思います(繰り返しますが、それはそれで良いことだと思いますよ)。またそれは、本当にRSSリーダーでしか解決できないことなのでしょうか?もしくはRSSリーダーがあれば解決することなのでしょうか?
ただこの話はH社だけが考えれば良いというわけではなく、すぎやんさんも仰られている通り、社内ブログ/SNSベンダーと既存システムベンダーの両者が考えなければいけない問題なのでしょうね。既存のツールと新しいツール、両方の良いところが活かされる新しい発想が生み出されて欲しいと思います。iUG が少しでもその力になれれば良いのですが。
投稿情報: アキヒト | 2007/06/07 10:30