またまた Amazon.com の電子ブックリーダー"Kindle"ネタで。
個人的にはシロクマ日報でも書いた通り、「文章を読む」という行為に変化はないという意味で、Kindle を「グーテンベルク以来の大発明」と呼ぶのは早いのではないかと思います。それより新聞やブログの購読(RSSによる記事配信)に料金を設定しているという点で、「課金システムとしての Kindle」という方に注目したいと感じているのですが、「Kindle が新聞業界を救う」と主張されている方もいらっしゃいました:
■ The Amazon Kindle and paid content (Media Nation)
(フィジカルな)本よりも優れたコンテンツ配信システムがあるだろうか?と述べた上で、こう書かれています:
Instead, what I find intriguing is that it can be used as a portable, always-on virtual newspaper with — get this — paid subscriptions. If the Kindle succeeds, we may finally have a solution to the devastating revenue problem that newspaper and magazine publishers have created for themselves in giving away their content for free.
それより面白いと感じたのは、Kindle がバーチャル新聞になるかもしれない――しかも有料購読の、という点だ。Kindle が成功すれば、私たちはついに収入減少という深刻な問題(それは新聞や雑誌の発行者たちが「コンテンツを無料でバラまく」という行為によって自らが招いたものだ)に対する解決策を手にすることとなる。
ご存知の方も多いと思いますが、海外では日本以上に新聞の発行部数減少が進んでいます(参考記事)。その原因は言うまでもなく「紙からネットへ」であり、上記で指摘されているような「無料でコンテンツがバラまかれる」という状況が進行しているわけです。
しかしデジタルコンテンツを提供するという点では同じでも、Kindle 経由の配信ならどうなるでしょうか。
- 料金を設定することができ、請求/回収を Amazon.com が代行してくれる。
- 無料のワイヤレス接続を経由して自動配信されるため、「朝配達された新聞をカバンに入れて出かける」という行為に近い体験を実現することが可能。
- Kindle は「クローズド・ネットワーク」。以前のエントリにもあった通り、実は Kindle 自体で読めるファイル形式は.AZW(Kindle 独自のフォーマット)と.TXT だけで、コンテンツの出し入れには障壁がある。従って配信したコンテンツがコピー&ペーストされてネットで無料公開される、という危険が少ない。
という利点が考えられます。つまり現状の(紙ベースでの)「新聞を購読する」という行為に近い形で、しかもコンテンツを転用されるリスクの低い状況を実現できる(かもしれない)わけですね。
しかも、これも日本でも大きな問題になっていますが、新聞というモデルでコストがかかるのは「届ける」という部分。コンテンツを紙に印刷し、形を整え、折込チラシをはさみ、配達員が自転車やバイクに乗って早朝に配達する……というコストが圧縮できれば、「月額5.99~14.99ドル」(正確なリストはこちら)という料金設定でも十分やっていけるでしょう。さらに料金が低く抑えられれば、やっぱり新聞を有料購読してみようかという人が増えるかもしれない、という期待もできるかもしれません。
ということで、特に販売店との利害関係が複雑に絡み合っている(この辺は以前も紹介した『新聞社―破綻したビジネスモデル』という本に詳しいです)日本において、Kindle 的なシステムはまさに待望の救世主、となるのではないでしょうか。もちろん話はそれほど簡単ではないと思いますが、Amazon が日本で Kindle を立ち上げようとしたときに、大手新聞社と組んで事業を進める(「○○新聞を Kindle 経由でご契約の方には、端末を無料提供!」キャンペーンとか)なんて話が出てきてもおかしくないかなと感じています。
もし配達所が減ったりしたら、新聞奨学生制度で学校に通っている若者の経済サポートってどうなるんでしょう。
投稿情報: あ | 2007/11/22 12:34
あさん、コメントありがとうございます。
新聞奨学生制度については、別に議論されなければならないところでしょうね。極端な話、Kindle があろうがなかろうが「新聞」というシステム自体が崩壊の危機に立たされているわけですから、奨学生制度について広い議論が巻き起こってもいいと思います。
投稿情報: アキヒト | 2007/11/26 12:06