シロクマ日報でも書いたのですが、最近『コンテナ物語』という本を読みました。コンテナという発明が、いかにロジスティクスの世界に革命をもたらし、ついには世界経済の構造を変えるまでに至ったのかという内容。コンテナとはまた地味な、と思いながら手に取ったのですが、ここ数ヶ月に読んだ本の中で最も学ぶものが多かったと感じたほどの良書でした。何かしらハイテクに関係した仕事をされている方は、読んでおいて損はないと思います。
で、本題なのですが、今日の ITmedia にこんなニュースがありました。なぜか住宅業界から、ロボット事業に乗り出す業者が現れたという話:
■ ロボットスーツを量産、50万円程度に 大和ハウスとサイバーダイン (ITmedia News)
その業者とは、大和ハウス工業。筑波大発のベンチャー企業・サイバーダインと資本提携して、ロボットスーツの量産・販売・レンタルを手がけるそうです。量産化でスーツ1体(1着?)50万円程度の価格を目指すとのこと。
この記事を読んで、「なんで大和ハウスなんだ?」とCMのようなことを思ってしまったのですが、以下の記事を読んで納得しました。どうやらロボットスーツが使えるような住宅を企画して、そちらの販売も目論んでいるようですね:
■ 着用ロボ向けに住宅開発 大和ハウス、ベンチャーと提携 (中国新聞)
■ 大和ハウス、ロボットスーツ事業参入を発表 (NIKKEI NET)
もちろんロボットのセールスで利益を上げることも考えていると思いますが、いくらスーツ1体が安くなったとしても、いきなり自宅で使えるわけではないでしょう。こんな機械を付けて歩くためには、廊下やドアの幅を広くし、強度も上げる必要があります。また突然電池切れで動かなくなった!ということを防ぐためにも、様々な場所で充電できるようにしておかなければなりません。そういった「ロボット・バリアフリー」な住宅を用意することで、ロボットの普及を促進しつつ、本体の事業にもプラスの効果をもたらす……そんな狙いがあるのではと思います。
冒頭で紹介した『コンテナ物語』ですが、実はコンテナそのものの発明ではなく、それを取り巻く「システム」全体の整備が革命をもたらしたことが解説されています。コンテナ登場以前、荷物の移動は様々なポイントで区切られ(トラックから船へ、船から鉄道へ等々)、そこで人力による積み込み・積み降ろし作業が発生するという非効率なものでした。巨大な箱に荷物を詰めて、それをシームレスに移動させることができれば、コストと時間の大幅な現象になる……ことは明らかですが、それを実現するには単に「箱」があってもダメですよね。コンテナの規格を統一したり、コンテナの積み降ろしに必要なクレーンを整備したり、全ての輸送手段でコンテナが使えるようにしたりといった「システム化」があって初めてコンテナの真価が発揮されるわけです。このシステム化がいかに行われたか、を解説するのが『コンテナ物語』のテーマの1つとなっています。
で、今回の「ロボットスーツ+ロボットスーツが使える家」ですが、同じ「システム化」の事例なのではないでしょうか。ロボットスーツという発明が単独で存在していても、それを十分に活かすことはできません。大和ハウスが提供する「ロボットスーツが使える家」は、システムとしてロボットスーツが真価を発揮することになる第一歩なのではないか、と思います。
ちなみに『コンテナ物語』の中では、コンテナ単独で見た場合にはイノベーターに先行者利益があっても、「システムとしてのコンテナ」という視点からは後発者にも十分にチャンスがある(先にコンテナを導入した企業が必ずしも成功しているわけではない)ことが示されています。例えば大和ハウスに先んじて、他の住宅業者が独自規格(ロボットスーツとロボットスーツが使える家に関連したもの)を開発・普及させてしまえば、サイバーダイン以外のベンチャー企業にもチャンスがあるでしょう。もしかしたら「家」だけでなく、「トレーニング施設(ロボットスーツ使用スキルの普及)」「アフターケア体制」といった環境要因が重要な要素になるかもしれません。こうした大きな視点から未来を見通せた企業が、ロボットスーツから利益を上げることに成功するのではないでしょうか。
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