シロクマ日報でも書いた通り、昨夜はIBM(というよりIBCS)のイベントに参加していました。IBM が世界各国のCEO1,130名に直接インタビューした調査報告書"IBM Global CEO Study 2008"が完成したそうで、そのお披露目ブロガーイベント。残念ながら現物の日本語版が未完成なため(英語版も配布されず)、サマリーの解説のみでやや不完全燃焼といったところ。議論の大半は「“IBMが考える”これからの時代に企業に求められる姿勢」に費やされてしまい、店主とのおしゃべり「も」楽しめる喫茶店に行ったのに、コーヒーは出ずにおしゃべりだけされて帰ってきた……という印象でした。
しかし所々面白い議論もありました。例えば、プレスリリースでもタイトルとして取り上げられていたこの部分:
今回の調査では、企業が競争に勝つために抜本的なイノベーション(変革)が必要と考えているCEOは、世界全体では83%であるのに対し、日本では96%と、日本が世界で最もイノベーションに積極的な地域のひとつであることがわかりました。
笑うところ……ではありません。日本企業では実に96%のCEOが、イノベーションに積極的という回答を示したとのこと。ただし、
- 調査の対象となった日本企業は121社に過ぎない
- 121社を選んだ基準、また個々の企業の具体名、規模、業種等は明かされていない(冊子では明かされている可能性あり)
- インタビューによる調査で、さらに会話の内容が全て公開されているわけではないため、インタビュアーの印象・言葉遣い等によって(意図的かどうかを問わず)回答に影響が出た可能性を考慮しなければならない
という点には注意が必要ですが。これらを脇に置いておいて「96%」という数字が正しいとすると、実に世界平均と10ポイント以上の差があることになります。果たしてこの差はどこから生まれているのでしょうか。
その辺の解説が一切行われなかったため、ここから先は個人的な感想というより空想になるのですが、日本では「イノベーション(あるいは『変革』)」という言葉があまりに空虚であるという点に理由の一端があるのではと思います。
最近読んだ本の中で、「キティちゃんが世界中でウケた理由は、それが何かを表していたからではなく、何も表していなかったからだ――そのため人々は自分の思いを自由に投影することができた」という議論がありました。同じことが、日本語の「イノベーション/変革」という言葉にも言えるのではないでしょうか。何となく良いものであることは間違いない。しかし具体的な定義があるわけではないため、人々は思い思いの期待をそこに寄せることができる、と。小泉元首相が「改革!」という言葉だけをひたすら叫び、それに人々が酔ってしまった状況と似ているかもしれません。
とりあえずイノベーションと言っておけば、誰も文句は言わない、というより言えないという状況。極端な表現を許していただければ、もはや日本には「イノベーション」は存在せず、「イノベーション(笑)」だけがあるのではないでしょうか。96%のCEOがイノベーションが重要だと言っている。それは何かを示しているというよりも、何も示していないと考えるべきでしょう。この調査を行ったインタビュアーには、ぜひ「それじゃ、御社が考える『イノベーション』は何ですか?」と突っ込んで欲しかったところです。
ただ末端で働く僕らにとっては、この調査からは「イノベーションという言葉でトップを惑わすことができるのだ」という教訓を導き出せるかもね。
「社内SNSなんて認められない?あ、これイノベーションなんですよ」
「ブログなんて書くなって?でも、これイノベーションなんですけど」
とかね。とりあえず困ったらイノベーションって唱えとけ、みたいな。こんな便利な言葉、CEOやコンサルタントだけに使わせておくのはもったいないでしょう。
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