Science の7月18日号で発表された論文なので、既に他の報道でご存知の方が多いと思いますが。インターネットのおかげで過去の論文に簡単にアクセスできるようになった結果、学者達が自分の論文で引用する過去論文の数は――減少しているとのこと。さらに以前に比べ、最近の論文を引用する傾向が強まっているそうです:
■ Research Publications Online: Too Much Of A Good Thing? (ScienceDaily)
シカゴ大学の James Evans 助教授による調査結果について。3,400万件の論文を対象に調査したところ、オンラインで論文が読めるようになればなるほど、引用される論文の数は減少し、新しい論文が引用されるようになったとのこと。
"More is available," Evans said, "but less is sampled, and what is sampled is more recent and located in the most prominent journals."
「以前より多くの論文がアクセス可能になっているのに、参照される数は減っている」とエヴァンスは述べた。「そして参照される論文は最近出版されたもので、重要な学術誌に掲載されたものである傾向が強まっている。」
ちなみに結果は学問分野によって差があり、ライフサイエンスの分野でこの傾向が最も強く、逆にビジネスや法律の分野ではそれほど強くはないとのこと。また社会・人文の分野で「最近の論文が引用される傾向」が強かったそうです。
問題は「なぜそんな傾向が生まれるのか」という理由の話ですが。Evans 助教授自身はこう解説しています:
Evans has identified a few possible explanations. Studies into how research is conducted show that people browse and peruse material in a library, but they tend to search for articles online searches tend to organize results by date and relevance, which leads allows scholars and scientists to pick recent research from the most high profile journals. Some search tools like Google factor the frequency with which other users select an item during similar searchers to determine relevance. Online, researchers are also more likely to follow hyper-linked references and links to similar work within an online archive. Because of this, as more scholars choose to read and reference a given article, future researchers more quickly follow.
エヴァンスはいくつかの説明を見出している。オンラインで論文を探す場合、結果は日付と関連性でソートされるが、その結果研究者は最近の・知名度の高い学術誌に掲載された論文を選んでしまうというのである。Google のような一部の検索ツールでは、関連性を決定する際、他の人々がある論文を引用した回数を考慮に入れる。またオンライン上では、研究者はハイパーリンクされた論文を追い、類似論文を関連づける。その結果、さらに多くの研究者が特定の論文を参照することになり、将来の研究者もそれに倣うことになるのである。
つまり (1) オンラインで過去論文が探されると、結果が「日付が新しい順」「関連度の高い順」でソートされるためこれらの論文の参照率が上がり、(2) さらに参照回数の多い論文はますます参照される確率が高まるため、一部の論文に参照が集まる(引用される論文数が減る)、というわけですね。あくまでも仮説に過ぎませんが、学術論文以外での状況も考えると、この説明には説得力を感じます。
この状況について、Evans 助教授はこんな危険性を指摘しています:
"With science and scholarship increasing online, findings and ideas that don't receive attention very soon will be forgotten more quickly than ever before."
「研究や学問のオンライン化が進むと、発表されてすぐに注目を集めない発見やアイデアは、以前よりも速く忘れ去られることになる。」
また映画に例え、「公開されて最初の週末でお客が集まらないと、その映画は静かに消えていくことになる」とも表現しているのですが、確かにニュースサイトでの記事やブログのエントリでも同じことが言えます。その良し悪しは判断が分かれるでしょうが(発表されてすぐに支持を集めないようでは、内容もそれなりということだ、という議論も可能なはず)、研究論文の世界でも現代的な情報検索行動の影響をまぬがれない、というところでしょうか。
逆に考えれば、検索エンジンでは見つけられなくても価値のある情報が数多く埋まっている、ということですよね。様々な検索方法を組み合わせましょう、という警告として受け取れるでしょうか。
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