昨夜はこんなイベントに参加していました:
■ 8月28日(木)「インタレストマッチと広告の未来」ブロガーミーティングの開催 (Agile Media Network)
Yahoo! と Overture が発表した、新しい広告テクノロジー「<興味関心連動型広告>インタレストマッチ」をテーマにしたイベント。まずはこのインタレストマッチを解説していただき、その後「アドパートナー(Yahoo!版 AdSense のようなもの)を盛り上げるにはどうしたらいいか?」というテーマでグループディスカッション、という流れでした。個人的には「広告の未来」という点をもう少し深く掘り下げて欲しかったので、後半アドパートナーの話に終始してしまったのが少し残念なところ。
というわけで、以下ではちょっと「インタレストマッチ」について考えてみたいと思います。
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インタレストマッチには「興味関心連動型広告」という肩書きが付けられていますが、要するに行動ターゲティング広告の進化形だと思っていただければ結構です。クッキーや Yahoo! ID、検索履歴など様々な部分からネット上での行動履歴を取得、それに見合う広告を表示するというもの。実は Yahoo! のサイト上でユーザーが費やす時間(月間合計で約86億時間にもなるとのこと!)のうち、検索部分はたった6%なのだそうです。残りの94%は様々なコンテンツの閲覧。検索部分については「検索連動型広告」で最適な広告が出せるから良いが、それはほんの一部分であり、「閲覧」の部分でも広告の最適化が行われなければならない――そこで登場したのが、「キーワードを入れる」という能動的な行為がなくても、過去の履歴からユーザーが欲していることを推察するインタレストマッチ、ということですね。
ちなみにユーザーが何を欲しているかを判断するため、以下の4つの要素が盛り込まれているそうです:
- より詳細にコンテンツを分析できる仕組みを開発(コンテンツマッチ技術のさらなる進化)
- 過去そのユーザーが見ていたコンテンツを考慮(閲覧履歴を基にしたマッチング技術の開発)
- そのページにたどり着いた経緯(リファラーマッチ技術の導入)
- ページ毎にどの情報を重視するかを最適化(ながら見されやすいページは過去、趣味的なページであれば現在を重視)
個々の技術の精度がどれだけ高いか、は別にして、これらが行われれば「なぜユーザーはこのページ(広告が表示されるページ)を見ているのか」が把握できると。ただそれを把握した後で、どうやって個々の広告と結びつけるのか(例えば「北海道の観光案内のページ」->「コンサドーレ札幌のホームページ」という順序でネットを閲覧しているユーザーがいた場合、ANAの広告とチケット販売サイトの広告、どちらを出すのが適切なのか)?という点については疑問が残りますが。
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「ユーザーの行動からニーズを把握する」という発想自体はロジカルですし、そもそも現実世界においても「行きつけのお店の店主が、私が気に入りそうな○○を教えてくれた」などという行為は普通に行われているでしょう。個人を特定するわけではない、履歴をずっと保持するわけでもない、だから法律的な問題はない――という説明も(個人的には)納得できるものです。しかし一般のユーザー達は、この新しいネット広告を受け入れるのでしょうか?法律論は抜きにして、感情的・倫理的に許容できるという世論は形成されるのでしょうか。そして映画『マイノリティ・リポート』で描かれた世界のように、個人一人一人を判別して、それぞれにあった内容を表示するという「究極の未来像」へと広告は向かっていくのでしょうか。
ここから先は個人的な考えに過ぎませんが、恐らくインタレストマッチのレベルですらも、どこからか反発の声が挙がると思います。検索連動型広告の場合、広告が表示されるのは「ユーザーが何かを探している時」であり、しかも探している何かに関係する内容が表示されます。例えて言うなら、ビジネス書のコーナーで立ち読みしているお客に向かって、「新刊で良いビジネス書がありますよ」と売り込むようなものでしょう。しかしインタレストマッチでは、ユーザーが明示的に何かを探していない場合の行動もチェックされ、その結果がふいに広告として現れることになります。例えるなら、こんな状況ではないでしょうか:
「あなたは起業家のインタビュー番組を観てるけど、さっき旅行代理店で京都のパンフレットを見ていたよね?だから私は、君が京都で起業しようとしてると思うんだ――さあ、『「へんな会社」のつくり方』を読みなさい」
ちょっと誇張して書いていることは認めますが、検索連動型広告には無かったリスクが存在していることが分かります。「さっき旅行代理店にいたのを見ていたのか、気持ち悪い」「京都は観光で行きたいだけであって、インタビュー観てるのはこの人が面白いからだよ!」などといった形で気分を害したとしても、「インタレストマッチで広告が出ても良い」と考えるユーザーがどれくらいいるでしょうか。
話はそれますが、Google ストリートビューの問題では、サービスを提供する Google と先進的なネットユーザー達の意識と、「一般人」の意識の間に差があることが浮き彫りになりました。ストリートビューに限らず、あまりに技術に近づき過ぎてしまうと、その影が見えなくなってしまうのではないでしょうか。もちろん影は影ですから、本当は恐れることはないのかもしれません。しかしその影を恐ろしく感じる人がいると理解しないと、無闇に技術を人々に近づけようとして、無用な反発を招いてしまうような気がします。
ここまで書いてきて何ですが、個人的には行動ターゲティング広告は面白い技術だと感じていて、正しい方向に発展して欲しいと思っています。それだけに、Yahoo! さんには慎重になってもらって、「インタレストマッチは無害であり、それどころか必要な情報を手に入りやすくするものだ」という認識を人々が持つよう、啓蒙的な活動にも注力して欲しいと感じた次第です。
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ちなみにこのインタレストマッチ、アドパートナーでも9月から実施されるとのこと。興味のある方は、ご自身のブログに貼られて、表示される広告の変化を確認してみても面白いかもしれません。
【関連記事】
昨日はお疲れさまでした◎
キムタクドラマ案を提案した者です・・。。
昨日のプレゼンを聞きながら、私もマイノリティリポートを想起していました。
ああいう未来って怖いような気もしますが、いざなってしまえばすぐに慣れて、怖いという感覚が麻痺しちゃうような気もします。ふむむ・・
これからもblog拝見させていただきますね。
ありがとうございました。
投稿情報: mogu-girl | 2008/08/29 17:01
はじめまして、futureeye と申します。行動ターゲティング広告の進化に期待している者です。
行動ターゲティング広告の負の部分であるプライバシー問題について、以前からなにかよい解決策はないかと、考えていました。1つ考えられるのが匿名化技術です。以下のブログを参照してください。
http://d.hatena.ne.jp/futureeye/20070224
もう1つ考えられるのが、ユーザエージェントの利用です。システム側がユーザの行動履歴を収集して広告を提供するから気持ち悪がられるのであって、ユーザの持ち物(ユーザエージェント)がユーザ(ご主人様)の行動履歴を記憶しておき、ユーザエージェント自身がご主人様にマッチする商品情報(広告)を探し出してくるのであれば、プライバシー問題は起こらないように思うのですが、いかがでしょうか。例えば、ソニーのHDD/DVDレコーダのコクーンやスゴロクは、“おまかせまる録”という機能が付いています。ユーザ(ご主人様)の視聴履歴や録画履歴からご主人様の嗜好を抽出し、その嗜好にマッチする番組を自動録画する機能です。この“おまかせまる録”が気持ち悪いという意見を私はまだ聞いたことがありません。
しかし、1つビジネスモデル的な問題が推測されます。このユーザエージェントによるユーザの行動履歴の収集活用が普及するということは、とりもなおさずシステム側でのユーザの行動履歴の収集を放棄することになります。ヤフーやグーグルにとっては大きな痛手となるのではないか? その結果、ユーザエージェントを利用したユーザの行動履歴の収集活用は普及しないのではないか? いやいや、ヤフーやグーグルに対抗する対抗勢力側が頑張って普及させる可能性が高い。などなど、色々な可能性が考えられますが、小林様は、いかがお考えになりますか。
なお、ユーザエージェントを利用したユーザの行動履歴の収集活用の先駆けとなるものが市場にお目見えしています。ネット上で行動するもう1人の自分、CLONです。以下のURLをご参照下さい。
http://www.clon.co.jp/
投稿情報: futureeye | 2008/10/12 09:14