ということで、タイトルに釣られて読んでしまいました。夏野剛さんの『グーグルに依存し、アマゾンを真似るバカ企業』。以下、感想などを少し。
本書のメッセージはいたってシンプル。一言で言えば、「ネットビジネスがうまくいかないのは、やっている側に問題があるのだ」といったところでしょうか。「ネットビジネスなんて儲からない」という世の中の声に対して、夏野さんが「そりゃお前たちの責任だろ!」と真っ向からダメ出しすること。それが本書が書かれた理由の1つという印象を受けました。
具体的に、「バカ企業」はどんなことをしているのか。本書で指摘されている問題点をいくつか挙げてみると:
- 自分でネットを使っていない人がネット戦略を統括している。
- 企業側の都合でサービス設計されており、ネットユーザーの視点に立っていない。もしくはネットの特性等を理解しないまま「魔法の杖」的に使おうとしている。
- 自分が定年するまでアナログビジネスで持つだろう、という50代以上の経営者が企業を仕切っている。
- デジタルコンテンツの分野では、プライシングに失敗している企業が多い。フィジカルな媒体と同じ価格で売れるはずがない。
- ウェブ広告が流行らないのは、担当者がこれまでのやり方を変えて手間暇がかかるようになるのを嫌がるから。
- 皆で議論を尽くす、和を作るというこれまでの日本のやり方は今の時代には合わない。それを理解していない、理解していても変えようとしない。
……などなど。で、ところどころに夏野さんの「iモード/ニコニコ動画ではこんな風にやって成功した/成功させようとしている」という体験談が挿入されるという構成です。ただ大学教授的な分析をするのが目的の本ではないので、裏を読むようなロジックや、ここでしか得られないようなデータを期待して読むと肩すかしを喰らうかもしれません。「当たり前のことを当たり前にやれば良い」というのが、本書のもう1つのメッセージですし。
で、この本はどんな読者をターゲットとしているのか?実はその点が最も疑問に残る本でした。仮に本書が批判しているような「アナログで逃げ切りを狙う50代以上の経営者」に自省を促すのであれば、もうちょっと書き方を変えなければいけないでしょう。いきなりバカ会社と言われて、良い気分がする人は少ないはず。「お前ら逃げ切り狙ってるだろ?」というメッセージも、仮に事実だとしても「ハイそうでした、明日から若手に任せます」という行動に結びつくようには思えません。
この辺り、夏野さんが以前出演したNHKスペシャルを思い出しました。確かに夏野さんの言うことには一理あると感じるものの、意見の異なる相手に向かって「なんで僕の言うようなことをしていないのか理解できない」というような態度を取っているように感じられ、あれでは相手も素直にハイとは言えないだろうなぁと感じたものです。うーん、これは批判ではないのですが、何か他の接し方があるんじゃないかなぁと思うのです、個人的に。
ではこの本を若手や、ネットビジネスを実現する側の人間が読んで明日の行動につなげられるかというと……「うんうん、夏野さんの言うとおりだよなー。分かってない奴らが多すぎるぜ!」というような居酒屋の愚痴レベルで終わってしまうような恐れも感じます。まぁそれはそれでカタルシスになるのかもしれないけれど、抵抗を前提とした上でどう行動するか?という方向にならないと。ウェブに限らず、新しい技術や仕組みを導入しようとすれば、理不尽な理由で現実が動かないなどということは当たり前の話なのですから。
ということで、この本はさりげなく部長の机の上に置いておくというのが適切かもしれません。もしくは彼/彼女がウェブ系の仕事をしている方なら、彼/彼女の愚痴を理解してあげる(そして「そんなの相手の部長の方が間違っているよ!」という嬉しい一言を言ってあげる)ために使えるかも。
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