幻冬舎さんの本が2冊続いてしまいますが、『ヒットの神様―伝説のマーケッターに学ぶ、不況に勝つ知恵』を読了したので感想などを。ヒウィッヒヒーなあの人のあの曲じゃないですよ。
本書のタイトルにもなっている「ヒットの神様」とは、内田耀一さんという方。1960年代、まだ「マーケティング」などという言葉がない時代からマーケティングに携わってこられた方で、誰もが知っている数々のヒット商品の裏方として活躍されてきたそうです。特にグループ・ディスカッションについては第一人者で、『グループ・ディスカッション調査マニュアル』という本もまとめられており、本書の中でも様々なエピソードが語られています。
しかし残念なことに、内田さんは2008年、本書の出版を目にすることなく亡くなられてしまいました。ギラン・バレー症候群という難病(先日他界されてしまった、女優の大原麗子さんも罹かっていた病気です)に罹り、一時は奇跡的に回復されたものの、本書を準備されている間にガンが見つかり、放射線治療を受けられていたとのこと。場違いではありますが、内田さんのご冥福をお祈りしたいと思います。
さて本書ですが、最初に断ってしまうと、最新のマーケティング手法を学ぶといった類の本ではありません。また何しろ昭和の大ヒット商品/サービス等が目白押しですから、まだ知られていない消費者心理をコッソリ教えてくれるといった本でもありません。しかし、今では当たり前のように感じられるものごと――「ヴェポラップは塗る風邪薬」「サザエさんのスポンサーは東芝」「コーラックはピンクの小粒」等々が(いまでは当たり前となったマーケティング手法も無い中で)どのようにして、どのような発想から生まれたのかが、当事者である内田さんご自身によって解説されます。その種明かしは、まさに目から鱗といったところ。
例えば便秘薬のコーラック。「ピンクの小粒」というキャッチフレーズで有名ですが、なぜ「ピンクの」「小粒」なのかご存知でしょうか。実は内田さんたちの調査によって、当時女性たちの間に「クスリを飲んでしまうと病気だということになってしまうので、なるべくクスリは飲みたくない」という心理が存在していたことが明らかになります。そこで、クスリでありながらクスリだと感じさせないような仕掛けとして編み出されたのが「ピンク色(白では病院や医者を連想させてしまうため)」「小粒(小さければクスリのイメージが和らぐため)」だったとのこと。種明かしをしてしまえば何の驚きもないのですが、コロンブスの卵と同じで、深い発見は一度明らかになると当然としか感じられなくなってしまうものなのでしょう。
本書にはこういった事例の解説とともに、内田さんご自身がどのような心構えで仕事に臨まれたかが、読者へのアドバイスとして解説されます。恐らくそれは、流行りのツールといったものではないだけに、逆に時代や場所を超えて通用するものでしょう。「いまさら昭和のヒット商品を紹介されたからって……」と思わずに、目を通してみると何らかの発見がある一冊だと思いますよ。
お終いに、個人的に気に入った箇所のひとつを:
商品の特徴や魅力が、きちんと消費者や市場に届くように、メッセージを伝えてアピールする。――それができなければ、たとえどんなに価値のある商品でも、埋もれたまま、日の目を見ることはありません。
そのためには、どんな商品においても、必ずそのPRすべきポイントやよいところを見つけていく"眼"を養うことが必要になります。
この"眼"は、日頃の努力で鍛えられます。訓練の対象は、商品でなくてもかまいません。常日頃から、いつ、どんな所で、どんな人に出会っても、必ずその人のよいところを見つけ出すことを心がけていくことでも、かなりのレベルまで「いいとこ発見眼」は鍛えられるはずです。
「いいとこ発見眼」、身につけるように日々努力しなくては……。
内田さんて調べてみたら万年社からASIと純日本の
広告会社から外資のマーケティングリサーチ会社
に行った人で、同じくグルインで有名だった油谷さん
と似た経歴のように感じました。
この本、買います。
投稿情報: Graucho | 2009/08/14 11:53