AMNさんから『トロン:レガシー』の鑑賞券をいただき、今日ようやく観てくることができました。ということで、ごくごく個人的な感想を少し。
恐らく説明は不要だと思いますが、本作品は映画『トロン』(1982年)の続編となります。一部にカルト的な人気を誇る(つまり興行面ではあまり成功しなかった)『トロン』が28年の時を超えて復活するということで、ニュースを聞いたときから公開が待ち遠しかったという方も多いでしょう。僕もその一人だったのですが……感想としては、ちょっと微妙なものとなってしまいました。
いや、確かに映像は素晴らしいものでした。Daft Punkの音楽をバックに展開されるアクションシーンや、ライト・サイクル(上の写真に写ってるバイク)が登場・疾走するシーンなど、気合いの入った映像美を堪能することができます(残念ながらあまり3Dである必然性は感じなかったけれど)。これが『トロン』の名前を被せた作品ではなく、ハリウッドSFX超大作!!的な心構えで臨める作品であれば、単なる娯楽作品としてスッキリ楽しめたことでしょう。
ではなぜ『トロン』の続編として観た場合には微妙になってしまうのか。それを整理するためには、前作『トロン』がなぜ特別な作品として位置づけられているのかを考える必要があると思います。
個人的な意見になってしまうかもしれませんが、『トロン』が(たとえカルト的にでも)評価されている1つの理由は、その革新性というか、未来性にあったと考えます。この点について、パンフレットに的確な解説があったので少し引用してみましょう:
1982年、1本の未来志向の映画がディズニーから生まれた。当時、CMやアニメーションの世界で活躍していたスティーヴン・リズバーガーが自ら企画を持ち込んで映像化にこぎつけた『トロン』である。商業映画の世界には素人でありながら、ゲームなどコンピューター映像への開発に情熱を燃やしていたリズバーガーは、2年をかけてパートナーのドナルド・クシュナーとテクノロジーを開発、膨大な量のコンピューター3次元映像を作品に挿入、「史上初のCG映画」とまで宣伝されたまったく新しい感覚の作品に仕上げた。その物語はひとりの天才プログラマーが、自分の開発したゲーム・プログラムが盗まれた証拠を手に入れようとサイバースペースに侵入し、そこに息づくプログラムたちとのサバイバル・ゲームを繰り広げるというもの。しかし、当時はビデオゲームが出はじめたばかりで、一般にパソコンはまだ縁遠く、「プログラム」や「ビット」という、いまではごく当たり前になった言葉すらほとんど知られていなかった。この作品に興味を示した観客は少数で、映画は興行的に失敗に終わったのだった。
さらに立体映画研究家の大口孝之さんが、次のような解説をされています:
この映画の前作に当たる『トロン』(82)が公開された当時、その意味するものをちゃんと理解できた人はほとんどいなかった。まだ個人がコンピューターを持つ時代ではなかったから無理もない。そのシナリオを書いたひとりであるポニー・マクバードは、当時世界最先端を走っていた研究所を取材して回り、多くのコンピューター・サイエンティストの助言を得ている。ちなみにマクバードは、取材中に知り合ったゼロックス・パロアルト研究所のアラン・ケイと結婚している。ケイは、現在のパソコンの概念となった「Dynabook」(東芝のノートPCとは無関係)を考案した人物だ。
こうして『トロン』には、天才科学者たちのアイデアがふんだんに取り込まれた。その核となった概念は、コンピューター内のプログラムたちにも人間のようなキャラクターがあり、その一部がユーザー(人間)の意志を離れて暴走していくというものである。このアイディアは、サイバーパンク小説や映画『マトリックス』(99)などに結実していった。さらに現在では、メタバース(インターネット上の仮想世界)内で生活するアバター(分身)たちや、医学や進化生物学で用いられるAライフ(人工生命)、日々進化を続ける困り者のコンピューター・ウイルスなど、『トロン』的な世界は日常的風景となっている。
後にアラン・ケイの奥さんとなる人物がシナリオを書いていたとは!『トロン』が当時誰も想像していなかった世界を描き、それ故に興行面での成功を収められなかったのも、ある意味で当然かもしれません。
しかし大口さんが的確に指摘されているように、『トロン』的な世界はその後様々な作品で模倣され、さらに28年後の現在、ある意味で「日常的風景」となったと言えるような状況が出現しています。従って、単に続編を作っただけでは『トロン』という映画に期待される革新性を再び生み出すことはできません。ところが『トロン:レガシー』は逆に、あまりに忠実に『トロン』のリメイクを作ろうとしてしまったのではないか――うまく表現できませんが、そんな複雑な心境になってしまいました。
若干ネタバレになってしまいますが、この作品の舞台となっているのはスタンドアロンの世界であり、ネットワークは登場しません。それも残念だった点の1つで、仮に旧『トロン』と同じアプローチでシナリオが創られていたとしたら、ネットワーク化されたコンピューター世界の未来像が描かれていたんじゃないかなーなどと勝手な感想を抱いています。あ、でも、ヒロインのオリヴィア・ワイルドは可愛らしくて一見の価値ありかも(笑)
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