先日も「映画のロケ地でスマートフォンを掲げると、そこで撮影されたシーンが再生される」というAR(拡張現実)利用のアイデアをご紹介しましたが、このように「過去の画像・映像とそれが撮影された場所を結びつける」というのは、ARの最も直感的な使い方のひとつでしょう。
今まではアートや観光、研究などといった目的で用いられることの多かったこのアイデアですが、また新たな意味を持つものとして実現されることとなりました。それがARブラウザ「セカイカメラ」の頓智ドットから今日発表された、こちらの取り組みです:
■ 『東日本大震災 写真保存プロジェクト』に寄せられた震災前の風景、復興に向かう姿など1万枚以上の写真を『撮影されたその場所で』セカイカメラで閲覧できる機能を公開 (頓智ドット株式会社)
これだけで説明は必要ないかもしれませんんが、改めて要点だけまとめておくと、Yahoo! Japanが実施している「東日本大震災 写真保存プロジェクト」を通じて収集された被災地の写真(東日本大震災で失われる前の街並みや風景、震災直後の様子などを収めたもの)にセカイカメラが対応(※ちょっと誤解していたのですが、位置情報についてはYahoo!側で対応しているとのことでした)。現場を訪れてセカイカメラで風景を見ると、その場所の付近で撮影された写真がエアタグとして表示され、タップで詳細を見ることができるというもの。実際のイメージとして、以下のようなサンプル画像が公開されています:
こちらがエアタグが表示されている画面ですね。そして以下がタグの1つを選んでタップしたところ(以下は「震災前の記憶」というカテゴリでまとめられているものですが、もう1つ「復興への記録」というカテゴリも用意されています):
個人的な感想で恐縮ですが、今回セカイカメラが追加した機能は、ある意味でモニュメントをつくるような行為のように感じました。デジタル版の追悼碑というか。
単に災害の恐ろしさや、復興に向けた動きをアピールする「だけ」ならば、通常のマスメディアやウェブサイトの伝達力にはかないません。なにしろその場所に行かないと見れないのですから。しかしある場所に赴いて「過去」の姿を見るという行為は、その空間に大きな意味を加えるものになるでしょう。かつてそこに平和な暮らしがあったこと。震災によって信じられないような被害が起きたこと。人々の力が再び集まって行ったこと――そうした記憶が、ユーザーのいる場所に付与されることとなります。それはかつて、記念碑や墓標が担っていた役割であり、さらにその役割を拡張するものになるのではないでしょうか。
もちろん、非常に残念なことですが、東日本大震災はまだ「記憶」にするという状態には程遠いでしょう。まだまだ避難所で生活されている方々も多いですし、原発事故の問題は現在進行形です。その意味で、この機能が持つ意義というものは、もしかしたら数年先・数十年先に初めて実感されるのかもしれません。
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