エストニアといえばスカイプ発祥の地、そしてヨーロッパにおけるオフショア開発の中心地の一つですね(そんなの知るかという方は、こんな本はいかがでしょうか)。IT系の産業で国力を維持するという方針を打ち出しているわけですが、その流れを受けて、小学校からプログラミングの授業を導入することが決まったそうです:
■ By next year, all Estonian schools will be able to offer programming classes (The Next Web)
ちょっと気になったので、他の報道も参照しつつどのような内容なのかまとめてみました:
- エストニアで"ProgeTiiger"なるプログラムが進められている。小学校1年生から高校3年生に相当する生徒たちが、学校でプログラミングを学べることを可能にしようというもの。
- このプログラムのパイロット版が、いよいよ今年から開始される。当初は小学校を中心に対応が進められ、教師に対するトレーニングの進捗に応じて、中学や高校にも展開する。対象となる学校はすべての公立校。
- 教科書などのマテリアル類は独自開発のもの。
- どこまで強制力を持つものになるのか(選択科目なのか必修科目なのか)は不明だが、将来的には「国語」「算数」といった一般的な科目と同じレベルの存在にすることを目指している。
- どの程度のプログラミングを学ばせるつもりなのかも不明。ただウェブアプリケーションやモバイルアプリの開発が課程の中に組み込まれている模様。
- 当然ながらエストニアのIT系企業はこの動きを歓迎しているとのこと。マテリアル作成や教師のトレーニングといった形で、プログラムに貢献する企業も。
こんな感じでしょうか。私立の学校であれば、早い段階からプログラミング技術を学ばせる(希望者に)という話は既に出ていますが、すべての公立校を対象にしたプログラムというのはなかなか野心的かもしれません。
高校生ぐらいになれば話は別として、果たして小学校低学年レベルからコンピュータのことを教えるのが得策なのかどうか。国語や算数など、基礎的な学力を身に付けさせた方が良いのではないか。技術の発展が日進月歩であることを考えると、5年後10年後には新たな技術を覚えなおすことになるのではないか。それに(エストニアの状況が特殊だとして)誰もがプログラマーを目指すべきではないだろう――など、「義務教育でプログラミングを」には多くの反対の声があると思います。プログラミングを教えられる先生を用意するだけでも、莫大な投資が必要でしょうし。
ただ個人的な経験で恐縮ですが、子供のころBASICでプログラムを組んでいたことがある(MSXで!)身からすると、その時に学んだ「アルゴリズムを考える」という姿勢は、プログラムを組んでいない今でも様々な面で役立っていると思います。少なくとも算数・数学で学んだことが何かしら役立っている、というぐらいには。なのできちんとした授業さえできれば、小学校でプログラミングを教えてもまったくの無駄になることはない、という感覚を抱いています。
それよりも考えるべき点は、もしかしたら「小学校の授業という形でプログラミングを教えることが効率的か」という点かもしれないですね。特に米国を中心に効果的なオンライン教育の発展が加速していること、そしてその中で多くのIT系・プログラミング系コースが展開されていることを思うと、例えば早いうちから英語を学べる環境+ネットが自由に使える環境を用意して、生徒自らが自分に合ったオンラインコースを探す、という方が良いのかもしれません。
ともあれエストニアは、小学校でプログラミングを学べる環境をつくるという施策に賭けたわけで。その成否は別として、新しいことに取り組んでみるという姿勢、そして新しいことに取り組めるエネルギーの存在が羨ましかったりします。
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