ということで、昨日に引き続き、参加中のイベント”Solid”についての覚え書きを少し。ざーっとまとめただけなので乱文ご容赦下さい。Solidですが、昨日はTutorialの日という位置づけなので、正式には今日が初日となります。
これは完全に個人の感想になるのですが、日本人がけっこう多かったという印象。Strataは圧倒的に中国人、インド人の数が多いのですが、Solidでは日本の方とすれ違うことが多かったです(あくまでも主観でってことで)。この辺はモノづくり大国日本ってのが影響してるんでしょうか。
キーノート
Takao Ikomaさんもツイートしてましたが、今日のキモはJoi Itoさんのこのスライドに尽きるかも。
Computational Design/Additive Manufacturing/Materials Engineering/Synthetic Biologyが重なり合った部分で面白いことが起きてるのよ、的な図。Synthetic Biologyは合成生物学と訳されていて、日本のビジネス界隈では(と書くと怒られるので自分の観測範囲内では)まだそれほど注目されていませんが、Joiさんが”Why bio is the new digital”とキーノートのタイトルにつけてしまうほどNext Big Thingなテーマです。Solidでも1トラックがまるごと合成生物学に割り当てられているし(24日だけだけど)、いま翻訳中のとある洋書(もうちょっとで予約開始になるかも!)でも取り上げられているので、気になる方はチェックを始めた方が良いかもしれません。
ちらりと引用しておくと、
■ 合成生物って何? 国際的な規制・管理は必要か? 生物多様性会議で検討始まる (FOOCOM.NET)
合成生物(Synthetic Biology)とは社会一般ではあまりなじみのない言葉だが、もともとは合成生物学と訳され、コンピュータ工学を使って、生物のゲノム(全遺伝子情報)を人工的にデザインすることを目的とした異分野融合の学問分野だ。今でも合成生物学と訳されることも多いが、今回とりあげるのは、人工(合成)ゲノムを利用して細菌や藻類に香料、医薬品、バイオ燃料などを作らせる合成生物応用技術だ。
いわゆるバイオテクノロジーの範疇に入るもので、デジタル技術が応用可能なため、コンピューター工学の専門家がこぞってこの分野に取り組み、飛躍的な発展が生まれつつあるって感じでしょうか。こちらの資料(PDF)によれば、米国では合成生物学に関する研究開発を行っている機関は、2011年時点で既に200 以上に達しているとか。あと洋書だと”Regenesis”や”Life at the Speed of Light”などが紹介されてました。2012年と2013年の本だけど、どっちも邦訳されてなさそう……翻訳したいな……(邦訳出版済みだったらごめんなさい)。
ともあれ、こういうテーマが守備範囲に含まれてるのがSolidですよ、と言えばこのカンファレンスの性質が良く分かるかもしれません。
象徴的という点では、こっちも象徴的かもしれません。Joiさんの後にキーノートを行った、Divergent MicrofactoriesのKevin Czingerが発表した「3Dプリンターで製造されたスーパーカー」、その名も”Blade”。近くで見るとこんな感じ:
Forbesでも紹介されてます:
■ Kevin Czinger's Ideal Sports Car Just Emerged From A 3-D Printer (Forbes)
そしてTechShopのマーク・ハッチ!以前日本でセミナーが開催された時、ドタキャンで会えなかったので、数年越しに生マーク・ハッチが見れて良かった良かった。
やたら元気の良いおじいちゃんといった感じで、TechShopを通じて成功を収めたMakerたちを次々紹介するといった内容。で、紹介が終わる度に会場のみんなに呼びかけて「ワン!ツー!スリー!ブーン!!」と唱和するという、猪木顔負けのパフォーマンス。良かった良かった。あと『Makerムーブメント宣言』をみんな買え!と言っていたので、リンクしておきます。
Makerムーブメント宣言 ―草の根からイノベーションを生む9つのルール (Make: Japan Books) Mark Hatch 金井 哲夫 オライリージャパン 2014-07-24 売り上げランキング : 51697 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
あと最近”Enchanted Objects”を出版した、MITメディアラボのDavid Roseさんのキーノートも面白かった。こっちは日本でも版権が取られたっぽいので、もう少ししたら邦訳も出版されるはず。彼が設立したdittoって会社は、大量の画像を解析することで、そこから様々な知見を引き出すサービスを提供してます。たとえばインスタグラムに投稿された大量の画像を解析して、マクドナルドに行く人とバーガーキングに行く人の間でどんな差があるのかを確認するとか。ケータイやスマホを通じてカメラが普及し、至る所で写真が撮影されるのが当たり前になった世の中に、「強力な画像解析」という技術が加わるとどうなるのか。ちょっと恐ろしい感じもするのですが、IoTが当たり前の世界では他のセンサーでも同じことが起きるはずで、未来を垣間見るという点でもdittoに注目すると面白いかもしれません。
あとRobert Brunnerさんのキーノートによれば、画像解析で直接料理の仕上がりを確認する”JUNE”というオーブンがあるとか。すごい。オーブン+画像解析って……検索したら4Gamer.netで紹介されてた:
■ GPUで上手に焼けました。世界初の「Tegra K1搭載オーブン」が登場(4gamer.net)
これクラウドにつながってディープラーニングまで活用してるってことで、いったいどうなるのという感じ。家電+画像解析が当たり前の時代になったら、日本国民全世帯の食事事情とか解明されちゃうんだろうか。
Beyond the hype
MGIのMichael Chuiさんによるセッション。MGIが最近発表したレポート”Unlocking the potential of the Internet of Things”の内容をかいつまんで説明する、という感じでした。印象的だったのは「IoTはハイプ(新技術に対する期待が過度に膨らんでいる状態)かもしれないけど、ハイプの後に数年かけてギャップが埋まる(当初の期待通りの価値を実現する)というパターンが他の技術でも見られたので、IoTもそうなる可能性はある。その場合、上手く使いこなすワザをいち早く見つけた企業が成功する」と指摘していた点。
Getting it there
HavenのRenee DiRestaさんによるセッション。3PLの世界でいま何が起きているか、という話でした。言いたいことは次のスライドでまとめられているかも:
FedExが一社ですべて担っていた物流機能が、次第にアンバンドルされつつあって、それぞれの機能において優れたサービスを提供するベンチャー企業(もちろんデジタル技術をフル活用するもの)が登場してきているよという話。で、かつてのコンテナ業界のように、やり取りされるデータが標準化されつつあるので、それぞれのサービスを組み合わせてより良い物流が実現できるという。フィジカルなレイヤーにデジタルのレイヤーが加わることで、こういうことが起きてくるよね、という結論でした。確かに前述の翻訳中の某洋書でも、金融業界におけるアンバンドル+特化型ベンチャーの登場が描かれていて。探してみれば、似たような状況の業界はもっと見つかるかもしれません。
Interacting with a world of connected objects
Thigton Inc.のTom Coatesさんによるセッション。IoTでいろんなモノがネットにつながるからといって、冷蔵庫にツイート機能が付くばかりじゃ意味ないよね!という話。「ソフトが世界を食い尽くす」(by マーク・アンドリーセン)じゃないけど、なぜかソフトとハードが融合すると、ソフトの世界のロジックが上に立つことが多いという。その結果、たとえば顔を洗いながらでもタッチスクリーンで水流を調節しなければいけないといった、バカげた状況が本当に起きるかもしれないくて:
それって違うよね、という話。この辺は、前にシロクマ日報で紹介した、”The Best Interface Is No Interface”という本の主張に近い感じでした:
■ 【書評】インタフェースがないのは良いインターフェース"The Best Interface Is No Interface"
ただハード側に全ての機能が寄せられてしまっても使いづらいので、デバイスとサービスレイヤー、それぞれバランス良く機能を配置するのが良いよね、という結論でした。この辺は、「IoT時代にはモノが持つ機能が分散し得るので(たとえば空調で実際に部屋を涼しくする/暖かくするのは自宅にある機械、細かな温度調節をするのはクラウド、その設定変更を行うのはスマホ上など)、新しいデザインアプローチが必要になる」という話に通じるのかも。
余談
書き出したら止まらない感じになって、そろそろ寝ないといけないのでこの辺で。それから完全に余談ですが、「IoTのセキュリティをどう守るか」というセッションが多い印象。で数えてみたら、キーノートを除く69セッション中、IoTセキュリティをテーマにしていたのは6つ。うーん、そんなに多いというほどでもないか。でもやっぱりセキュリティはIoT語る上で外せないテーマになっているよね、という印象でした。
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