ご大層なタイトルを付けましたが、中身はあやふやです。一応お断りを。
【ソーシャル・ラーニングの台頭】
何かを教える/教わるという場合に、従来のように「先生/生徒」という役割を明確化・固定化した形で行うのではなく、集団の中にいる全員が教える・教えられるという関係を持って行うことを、仮に「ソーシャル・ラーニング」と呼んでみたいと思います。そこでは人々がよりアドホックな関係で結ばれ、「誰が教えるのか/教わるのか」「何を、いつ教えるのか」といった要素は流動的です。「選抜を勝ち抜いて合格した生徒たちが、大教室に集められ、教授からの講義を一定期間受ける」というイメージとは対極にあります。
具体的に頭に浮かんでいるのは、まさしくブログです。「誰かに何かを教えてやろう」という姿勢のブログももちろんありますが、多くのエントリは「こんな面白いことがあったよ」「僕はこう思うんだけどみんなはどう思う?」という意識から書かれているでしょう。誰かがそのメッセージから何かを学び、さらに自分のブログに書き込みを行うことで、また別の誰かが何かを学ぶ……そこには「先生/生徒」と呼べる関係が存在していますが、固定化されているわけではなく、また意識的に構築された関係でもありません。
一方、Q&Aサイトなども「ソーシャル・ラーニング」の範疇に入れられるでしょう。そこではより明確な形で「先生/生徒」という関係が構築されます。しかしその関係はやはり一時的で、質問をした人(生徒)が別の機会には回答する人(先生)にもなる、という役割の流動性もあります。また以前このブログでも紹介した"Ether"というサービスのように、ネットを通じてナレッジを売り買いするというサイトも登場していますし、ソーシャル・ラーニング的なものは今後も増加していくでしょう。
【おしえるまなべる】
とこんなことを考えたのは、昨日の日経MJで「おしえるまなべる」というサービスが紹介されていたのを読んだためです。ちょうど日経のサイトで関連記事があったので、そちらをリンクしておきたいと思います:
■ 「逆上がり」から「Officeのスキル」まで、教えてくれる人を探せるサイト (日経トレンティネット)
これはリクルートが11月27日からスタートさせるサービスで、個人が自分の得意な分野で「先生」として登録してもらい、それを「教わりたい」と考えている人々とマッチングさせるというもの。「先生」として登録するには「教えられること」は当然として、「教えられるタグ」「こんな人向け」「教えられるエリア/時間帯」「料金目安」など様々な項目を入力しなければなりません。さらにサイトでの登録完了後、本人が確認できる資料の郵送も必要。また「先生」と「生徒」の間で契約が行われた時点で「先生」側に5,000円が課金される(※)という仕組みになっており、先生側の質をキープしようという意図がうかがえます。
※ただし「授業」が終わった後に「生徒」からの評価が行われ、その評価が高くなれば課金はゼロ円になる(逆に「生徒」側に5,000円課金する)そうです。
仮に質のいい登録者が集まり、また「リクルート」というブランドで利用者も集まれば、このようなサイトを通じて「個人が個人に学ぶ」という行為は急速に定着していくのではないでしょうか。しかもここでは「お金を払う」ということが前提となっています。それが良いか悪いかは別にして、先生として登録する大きなインセンティブとなるでしょう。(逆に生徒に対しては、「お金を払わされるぐらいしっかりとした先生だ」という感情を抱かせる効果もあるかも。)
【ブログはソーシャル・ラーニングの場であり続けるか?】
さて、ここでもう1つ別の関心が生まれます。実はその関心も、ある記事を読んでのものだったりします:
■ ブログがキャズムを越えるには新種のインセンティブが必要だと本気で思う (シリアルイノベーション)
メディアプラネッツの今泉さんが、ブロガーが得る金銭的なインセンティブの少なさについて指摘されています。個人的には、ブロガーは金銭的なインセンティブだけでブログを書いているのではないだろうと思うし、それは今泉さんも理解されていると思います。しかし以下の一文には納得させられるものがあります:
ブログがつまらなくなったという議論が最近行われていますが、私の考えでは、ここで述べている金銭的なインセンティブが実質的に「ない」という状況で(無形のリスペクト等の報酬だけという状況で)、相当の見識や能力や知識等々がある方がブログを書き続けられるのは2年程度である、従って2年を過ぎるあたりから急速に更新欲が薄れてきて、それが今現れている現象なのではないか、というところです。
ブログで知見を披露しても、それに対する金銭的なインセンティブは「ない」。そのことでブロゴスフィア全体に注がれる知識の総量が減っているのではないか。確かに、「ブロガーはお金だけのために書くのではない」とはいえ「無形のインセンティブだけでも多くの労力をつぎ込むことができる」わけではありません。ブログというプラットフォームに知識が溢れる状況を作り出したければ、金銭的なインセンティブの必要性は明らかでしょう。
仮に現在の状況のままで、「おしえるまなべる」が大成功したらどうなるでしょうか。ブログと「おしえる~」では出来ることが全く異なりますが、知識を売って収入を得たいという人は、「おしえる~」型サービスに流れるのは明白です。そうなると、「ブログで知見を無料で披露する」という人はさらに少なくなるはず。「ブログに書かれているのは日記かスパムだけ」という状況が生まれる、というのも悲観的過ぎるとは言えないのではないでしょうか。
もちろん「ブログがソーシャル・ラーニングの場になる必要はない」という意見もあると思います。また「日本は憲法改正すべきだ!」のような論争系については、ブログ以外に効率的なソーシャル・ラーニングのプラットフォームが生まれるか否かを問わず、今後もブログ(or ブログ的なもの)の上で続いていくことでしょう。しかし、「ブログで知識を披露することでお金を手にしたい」という人が存在できるようなオプションがあってもいいのではないでしょうか。僕個人はこのままでもブログを書き続けると思いますが(もちろんお金に興味がないと言っているのではありませんよ)、そんな多様性が残って欲しいと感じます。
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