技術評論社の傳様より、新しく発売される『人は勘定より感情で決める ~直感のワナを味方に変える行動経済学7つのフレームワーク』という本をいただきました。ありがとうございます。というわけで簡単に書評などを。
最近、行動経済学やその周辺分野を扱った本が流行っています。僕も過去に『予想どおりに不合理』や『人は意外に合理的』などといった本を紹介していますが、サブタイトルにばっちり書かれている通り、本書もその1つ。内容は初歩的で具体例も多く、肩肘張らずに読めると思います(行動「経済学」とはいえ人間心理の側面に焦点が当てられていますので、数字の話は苦手という方でも大丈夫)。
本書の最大の特徴は、本書自らに語ってもらうとしましょう:
行動経済学に関するほかの文献は、個々のバイアスを“点”で紹介するだけのものが多数です。しかし、それでは“点”の理解が“線”や“面”に結びつきません。結果として。そこから発展しないままで終わってしまうのはもちろん、すぐに忘れ去られてしまいます。
そのフラストレーションを解決すべく作成したのが、本書の見返し(表紙の裏)に掲載した体系図です。
流石に体系図を転載するわけにはいかないので、ご興味のある方は本書を手に取ってみて下さい。確かに行動経済学(に基づいたエッセイ)の本というと、「実験の結果、こんな面白いことが分かりました」という話が続くだけで、それらが全体としてどんな関係を持つのか?という点まで解説されているものは少ないという印象です。本書ではこの体系図があるため、ある現象(フレーミングやヒューリスティックなど)に類似した現象があるか、他の現象とどう関係しているか等を把握することができ、知識を覚えて役立てることがしやすくなっています。類似書に比べて内容量は少ないため、掘り下げという点では弱いですが、「読んだだけで満足はしたくない」という方には最適でしょう。
(※ただしこれも本書自ら述べている通り、「行動経済学の範囲をどこまでと捉えるか」「バイアス間のつながりをどのように捉えるか」については様々な考え方があるため、この体系図を「唯一絶対的なもの」とは捉えず、行動経済学全体を理解して頭に留めておくためのツールとして使って欲しいとのことです。)
もう1つ実践派にとって嬉しいのは、「この知識は現場でこう役立てられるのではないか」という具体例が挙げられていることです。例えば保有効果(人は自分が所有するものに、そのものの実際の価値よりも高い価値を感じてしまうこと)に関する部分で、こんなアドバイスが述べられています:
たとえば、車の乗り換えを検討している顧客に対して、次の条件で下取りまで含めて価格の見積もりを出すとします。
- 新車価格(税金・諸費用込) 200万円
- 値引き額 20万円
- 下取り価格 80万円(市場価格)
(中略)
しかし、保有効果をふまえてこれに手を加えると、次のようなアプローチが考えられます。
- 新車価格 200万円
- 値引き額 5万円
- 下取り価格 95万円
(中略)
このアプローチでも、差し引き100万円になる点は同じです。しかし、顧客の車を「95万円」と市場価格である80万円から15万円も高く見積もっている点に注目して下さい。これによって顧客の保有効果によるバイアスを(意図的に見積もり内容を変えることで)補正し、下取りに出す心理的抵抗を下げることで、新車を購入する確率を上げているのです。
非常に単純化された話ですが、理論をどうやって仕事に役立てることができるのか。こういったサンプルがあることで、ひらめきがグッと出やすくなるでしょう。
ということで、最近話題の行動経済学をサッと把握したいという方、また「もう行動経済学の本は何冊も読んでるよ(けれど仕事で活用はしてないなぁ)」という方にお勧めの一冊だと思います。もちろん理論を活用したワナ、あるいは自分の頭が作り出す幻想にはまるのを防ぎたい、という方もどうぞ。
コメント