先日セイコーエプソンから発表されたプレスリリースの中に、気になる部分がありました:
セイコーエプソン、収益力強化改革プランなど発表(日経プレスリリース)
気になったのは、「(4)インクジェットプリンタ」の以下の部分:
しかしながら、プリンタ本体の採算改善の遅れとインクカートリッジが想定ほど大きな伸長をしていないことにより収益性が低下しているため、今後、本体と消耗品トータルでの収益向上を図ることができるビジネスモデルへの転換が不可欠であると認識しております。
(中略)
また、インクカートリッジの純正率向上につきましては、従来からの施策に加え、買いやすさや画質などの顧客指向を徹底してまいります。
家庭用プリンタと言うと、本体の価格を抑える代わりに、インクカートリッジなど消耗品を高値で販売することで収益を上げるビジネスモデルが採用されています(参考記事:飯田哲夫/エンタープライズニュースの読み方「ヒゲソリはSchick、プリンターはCanon」)。プリンタメーカーはインクカートリッジの純正率(自社製カートリッジが使用される割合)を上げるために、リサイクル品を販売する業者を訴えたり、インクカートリッジの規格を自社独自のものにしたり、さらに本体のモデルチェンジに合わせてカートリッジの規格を変え、容易に模造できないようにしているわけです。その結果膨大な種類のカートリッジが販売される結果となっていることは、家電販売店のプリンタ関連用品コーナーに行ってみれば一目瞭然です。
ちゃんとしたデータに基づいた意見ではないのですが、エプソンが予想するよりもカートリッジ販売が低迷しているというのは、インクカートリッジのあまりの高さと買い辛さに対して、消費者が拒否反応を示している結果ではないでしょうか。僕の自宅にもエプソン製プリンタがあるのですが、青いインクが無くなりかけているので、最近はあまり使っていません。使い切ってしまうと、インクカートリッジの型番をいちいち紙に控え、少し離れた場所にある家電量販店まで、車で買いに行かなければならないからです。インクカートリッジを交換することに苦を感じている人は、意外に多いのではないでしょうか。
メーカーもこうした消費者の不満を感じていると思っていたのですが、エプソンのプレスリリースを見る限り、期待薄のようです。「本体と消耗品トータルでの収益向上を図る」という一文からは、相変わらず消耗品で儲けようという思想がうかがえます。また「顧客志向」の例として挙げられているのは「買いやすさや画質」で、決して「カートリッジの標準化と低価格化」ではありません。
こういったメーカーの態度が変わる日は来るのでしょうか。僕はこのままの現状が続けば、「印刷」という行為を「プリンタ」という製品によってではなく、サービスによって提供する業者が増えると思います。それにより、メーカーは消耗品の価格を下げざるを得なくなるのではないでしょうか。
これもきちんとしたデータがあるわけではないのですが、いま家庭用プリンタが主に使われる目的は、写真の印刷とハガキ(年賀状)の印刷でしょう。写真の印刷については、最近ではちょっと大きな家電販売店に行けば、セルフサービスで記録媒体からプリントアウトする機械(マルチメディアキオスク)が置いてあります。またFlickrはオンラインに保存されている画像ファイルを、写真に焼いて配送してくれるサービスを始めています(現在はアメリカ、カナダ国内に限定)。
またハガキの印刷についても、同様のサービスを実現することは難しくないでしょう。例えば年賀状を出したいと思ったときに、WEBサイト上からハガキのデザインを決定し、宛先をエクセルファイルでアップロードするだけで、そのデザインが美しく印刷された年賀状(もちろんお年玉付年賀ハガキ)を直接指定先に送れるWEBサービスなんてものが考えられます。こうしたサービスが一般化すれば、自分の家庭にプリンタを置いておく必要はどんどん薄れていきます。
ITの世界では、ソフトウェアのサービス化が進んでいるわけですが、サービス化の流れは他の分野にも進んでいくはずです。インクカートリッジのように、ユーザーを無視した仕組みが横行しているような分野は、そのターゲットとして狙われやすいのではないでしょうか。
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