ブログの良いところの1つは、様々なブロガーによって過去の知識が掘り起こされることだと思うのですが、今日もそんなエントリがありました。
■ Three-dozen knowledge sharing barriers (Anecdote)
Gabriel Szulanski という方(INSEAD の教授?)が1996年に発表された「知識共有を阻む壁」を紹介しているエントリ。様々な阻害要因を網羅&個人・組織・技術の3つのレベルに分類してくれていて、参考になります。というわけで自分用に翻訳&メモ。
※訂正
下のリストは Gabriel Szulanski 氏の論文からの 出展 出典(9/6 再修正しました -- ご指摘ありがとうございました!)ではなく、Andreas Riege 氏の論文、"Three-dozen knowledge sharing barriers managers must consider"(2005) でした。お詫びして訂正します。(誤りを指摘していただいた通りすがりさん、ありがとうございました。)
【個人レベル】
- 知識を共有する時間、もしくは他人が特定の知識を探していることに気づく時間がない
- 共有した結果、自分が職を失うのではないかという恐怖がある
- 自分の知識の価値に気づいていない
- 共有に手間のかかる暗黙知よりも、形式知を共有することに重きがおかれてしまう
- 組織上の特権をふりかざす(※知識の共有はヒエラルキーを超えて行わなければならないので、組織構造が悪影響を及ぼすことがある、という意味か?)
- 個人および組織の学習効果を高めるような、過去の失敗を把握し、評価し、そこからフィードバックを得ることが十分に行われていない
- 個人ごとに経験値が違う
- 知識の提供者と受領者の間に触れ合いや交流がない
- 口頭あるいは文章によるコミュニケーション・スキルが不足している
- 年齢による違いがある
- 性別による違いがある
- 人的ネットワークが欠如している
- 学歴による違いがある
- 他人から所有権を認められないことを恐れて、知的財産を手元に置き続ける
- 「誤った使い方をするのではないか」「手柄を横取りされるのではないか」という考えから、他人を信用しない
- 知識の正確さや信頼性を疑う
- 文化や人種的背景による違い、またそれに付随する価値観等の違いがある(言語もその一部)
【組織レベル】
- ナレッジ・マネジメント戦略を企業戦略・目標にどう統合するかが明確になっていない
- 知識共有の価値を明確に伝えることについて、リーダーシップが不足している
- 知識をシェアし、考察し、新しい知識を生み出す公式/非公式の場が不足している
- 人々が知識を共有することに対するモチベーションとなるような、評価・表彰制度が不足している
- 知識共有活動をサポートするような社内文化になっていない
- 企業内に、知識共有の機会を増やすためのリソースが不足している
- 社内の他部署・他部門との競争が激しい(「ここで開発されたのではない」症候群"not invented here syndrome"など)
- トップダウンなどの理由により、コミュニケーションおよび知識共有のフローがある一方向のみに規定されている
- オフィス環境の物理的なレイアウトにより、効果的な知識共有が妨げられている
- 同部署・同部門内での社内競争が激しい
- 組織のヒエラルキー構造により、知識共有活動が阻害される
- 組織単位が大きすぎて、知識共有を十分に管理・促進できない
【技術レベル】
- ITシステムとプロセスが統合されていないために、ワークフローが阻害される
- 内部/外部の技術サポートの不足により、ワークフローやコミュニケーションフローが阻害される
- 技術にできること/できないことに対して、従業員の間に非現実的な期待がある
- ITシステムとプロセスの間にコンパティビリティが無い
- 個人のニーズとITシステムの間に整合性が無く、知識共有プロセスに制約が課せられる
- 従業員がITシステムに慣れていないため、それを使うことを躊躇する
- 新しいITシステムとプロセスに関するトレーニングが不足している
- 新しいシステムの利点を披露し、伝えることが不足している
例によって意訳している部分や、明確に語られていないところを補っている部分があるので、「?」という部分は原文をご参照下さい。
当然のことながら、システムを導入しただけでは知識共有が成功しないということがよく分かります。しかしあえて社内ブログ/SNSで解決できる部分を挙げるとすると、
- 個人レベル[1](簡単にエントリできるので、これまで出てこなかったような疑問や知識が表面化する)
- 個人レベル[4](書き込まれた何気ない内容から暗黙知が共有できる)
- 組織レベル[3](当然ブログ/SNSがその「場」として機能する)
- 組織レベル[8][11](ブログ/SNSの構造次第では、ヒエラルキーやトップダウンの流れを突破できる)
- 技術レベル[7](比較的少ないトレーニングでシステムを操作できるようになる)
辺りが考えられるでしょうか。しかしこのリスト、見てるとなんかめげてきますね・・・提案書の作成が滞りそう。
「Gabriel Szulanski という方(INSEAD の教授?)が1996年に発表された「知識共有を阻む壁」を紹介しているエントリー」ではなくて,Szulanskiの論文が抜けているということがエントリー中に指摘されていたのでないでしょうか?以下原文です。
The lit review has one major omission I noticed; there is no mention of Gabriel’s Szulanski’s work on knowledge sharing barriers (see references below).
anecdoteのエントリーはRiegeの論文の紹介だと思いますが。
投稿情報: 通りすがり | 2006/09/05 22:36
あ、本当ですね。失礼しました。リストの方に目を奪われて、本文の方をきちんと読まずに間違えてしまいました。
通りすがりさんの仰る通り、リストは Andreas Riege 氏の論文、"Three-dozen knowledge sharing barriers managers must consider"(2005) でした。
投稿情報: アキヒト | 2006/09/05 22:53
よく、「人・物・金・情報」といいますが(個人的には時間も入れたい)、
案の定というか、「カネ」の概念がすっぽり抜け落ちてますね。
投稿情報: itochan | 2006/09/06 19:56
「カネ」の部分に関しては、「○○が不足している」という理由の裏の理由として考えられるかもしれませんね。「お金が無いのでシステムのカスタマイズが十分にできなかった」とか。ここに挙げられている要素は、直接的に知識共有の阻害要因になっているもの、と感じています。
投稿情報: アキヒト | 2006/09/06 20:12