シラノ・ド・ベルジュラックとは歴史上の人物なのですが、戯曲『シラノ・ド・ベルジュラック』として有名ですよね。剣豪でありながら文学の才能も抜群、しかし醜い大鼻の男・シラノ。ロクサーヌという女性に恋心を抱いていたが、彼女はクリスチャンという美男子に恋していた。シラノは口下手なクリスチャンに成り代わって、ロクサーヌへのラブレターを書き続けるのだが……という話。
で、それが2.0とは何ぞやという話ですが、イギリスで「本人に成り代わってネット上の人格を演じてくれるサービス」なるものが登場しているそうです:
■ Are my online friends for real? (BBC News)
実は本当かどうか確認は取れていないのですが、「僕は1ヶ月1,000ポンド(約25万円)払って、別の人にオンライン上で『僕』を演じてもらっている(ブログを書く etc.)」という男性に会って……という話。まさしく口下手なクリスチャンが、シラノの話術で魅力的なネット人格を作り上げているといったところです。彼の話によると、そんな「商売」に携わっている人が既に無数にいるのだとか。以前「SNSでウソ友達をレンタルできるサービス」なんてものがあることをご紹介しましたが、それと組み合わせれば「毎日華やかな日記を書いていて、魅力的な友達も多いネットセレブ(そんな言葉があるかどうか知らないけど)」を演じることが可能でしょう。
確かに「部長のメールを秘書が代行して管理する」「社長ブログをゴーストライターが書く」「自動足跡ツールを使う」などといったレベルの話は以前からあったわけで、それを総合して進化させたのが「オンライン人格代行サービス(仮称)」なのでしょう。リアルだけでなくオンライン上の人格も重要になり、しかもオンラインではいくらでも偽れるということであれば、何らかの理由(忙しくてオンラインになる暇がない、オンライン上のネットワークをもっと広げたい、現実以上にオンライン人格を良く見せたい etc.)でこんなサービスを利用したいという人がいても不思議ではありません。
例えば以前、シロクマ日報でこんなエントリを書いたことがありました:
ネット上で実名を晒すと、過去の恥ずかしい行為がバレてしまうというリスクがあるけれど、プレゼンスがまったく無いと逆に「この人はネットに疎い人物」と見なされてしまうリスクもある……という話。「面接相手の情報を事前にネットで検索」などという行為は今でも行われていると思いますが、ネット上の情報・プレゼンスが重視されるようになれば、一時的に偽ってでも自分を良く見せたいと考える人は増えるはずです。
例えばあらかじめいくつかの匿名ブログ(「20代プログラマのブログ」「30代マーケターのブログ」etc.)を用意しておいて、依頼主が現れたら高値で売りつけるとか。で、依頼主は面接に行って「いやー id:xxxxx のブログは僕が書いてるんですよー」と言うと。mixi や GREE にも「それっぽい」ダミー人格をいろいろ取り揃え、依頼主が希望するイメージに合う人格を友達登録させたら効果大ですね。そして昨日ご紹介したサービスを併用して、ウソがバレそうな書き込みやブログは検索下位に沈める、と……いやぁ、重ね重ね悪ですな。また、僕の Polar Bear Blog は既に「小林啓倫という人間が書いている」ということがバレているので無理ですが、「あなたが書いている匿名ブログは魅力的なので、僕に○○万円で売ってくれないか」なんてオファーが来たらちょっと考えてしまうかも。ついでに「あなたがマイミクになってくれて、好意的な紹介文を書いてくれたら○万円払う」なんて言われたら心が動いてしまうかも(いずれも元の持ち主が口を滑らすというリスクはありますが)。
しかしそんなオンライン人格粉飾サービスが流行ったら、今度は見破りサービスが出てくるかもしれませんね。企業の人事部と契約して、応募者のオンライン人格に偽装がないか調査するとか、「Second Life 面接」実施中に、アバターを操作しているのが応募者本人なのか見破ってくれるとか。戯曲『シラノ・ド・ベルジュラック』では、ロクサーヌは最後に「自分を虜にしていたラブレターは実はシラノが書いたものだった」ということを知るのですが、同様に「魅力的な人格を演じていた、話術が巧みな誰か」を探し出してその人を社員として採用する……なんてケースも生まれたりして。
コメント