"Predictably Irrational"を読書中。少し前に買って放置していたのですが、先日読売新聞の書評欄で紹介されていたのを見てようやく読み始めました。タイトルは「予測可能な不合理」といった意味で、副題に「我々の決断を左右する隠れた力」とあるように、一見したところ不合理に見える行動の裏側にはどんな心理が隠れているのかを解き明かす本。著者の Dan Ariely さんはMITの行動経済学者で、本書でもMITの学生達(不合理な行動などするわけがない、と信じられている人々)を被験者にした実験が数多く紹介されています。
ちなみにこのブログでも、そんな実験の1つを以前紹介したことがありました:
■ ドアを閉めろ!
こんな感じのユニークな実験を基に話が進むので、モルモットになった学生達は大変だなぁと思いつつも、面白おかしく読んでいます。たぶん、というより確実に邦訳されると思うので、覚えておくと良いかも(日本訳のタイトルは何になるんだろう)。
で、この本の最初に取り上げられている事例に「人は比較可能が好き」という話があります。例えば薄型テレビを買いに行ったとして、以下の3つの選択肢があったとします(値段はあくまでも適当に付けたものです):
- 液晶 18万円
- 液晶 20万円
- 液晶 22万円
この中でどれが選ばれやすいかというと、ご想像の通り、2.の20万円のテレビなわけですね。これは中庸なものを選びがちという人間の性質が表れたもので、似たような話はどこかで聞いたことがあると思います(松竹梅の3コースがあると、竹コースが一番人気になるとか)。
では次の場合ではどうでしょうか:
- 液晶(録画機能付き) 18万円
- 液晶 20万円
- プラズマ 22万円
この選択肢の中でどれが一番人気になる可能性が高いのかというと、実は1.の18万円のテレビ(もちろん「プラズマで22万円なのは超お買得!」のような前提知識があれば別ですが、ここではそういった知識が無いと仮定して)。その理由はというと、「人間は比較不可能なものは無視して、比較可能なもののなかから選ぼうとする傾向がある」からなのだそうです。
"Predictably Irrational"ではさらに、こんな実験を行っています。学生達に顔写真を提供してもらい、
- Aさん(無修正)
- Aさん(ブサイクに見えるように修正)
- Bさん(無修正)
という3枚のセットにして、全然関係のない人に「この3人の中でデートしなければいけないとしたら、誰を選ぶ?」と聞いたそうです。その結果……前述の「人は比較可能な選択肢の中から選んでしまう」という傾向が原因で、1.のAさん(無修正)を選ぶ人が最も多かったのだとか。「それってBさんがすごくブサイクだったんじゃないの?」と思いきや、AさんとBさんを入れ替えた場合でも、「『ブサイクに修正された写真』という比較対象がある人物」が選ばれる可能性が最も高かったそうです。
もちろん日常生活での決定は実験とは違いますし、普段からもっと慎重に考えているという人も多いでしょう。しかし「なぜこの○○を選んだのか?」と考え直してみたときに、「近くに比較できる対象があって、それよりも良く見えたから」という場合がなかったかどうか、振り返ってみる価値はあるのではないでしょうか。また悪用をオススメするわけではないですが、家族や友人に選んで欲しい選択肢がある場合(例えば本書では、ハネムーンの行き先として、ローマとパリのどちらかを選ぶというシチュエーションが登場します)、その選択肢の劣化バージョンを与える(ローマ vs. パリの例で言えば、ローマを選んで欲しい場合、「ローマ・豪華ホテルに泊まるバージョン」と「ローマ・安ホテルに泊まるバージョン」を用意する)という活用法が考えられます。いずれにしても「人は比較可能が好き」という話、心の片隅に留めておくと面白いのでは。
< 追記 >
早川書房のご担当者の方からメールをいただき、"Predictably Irrational"の訳書が年内に早川書房から刊行予定であることを教えていただきました(ありがとうございます!)。ということで、気になった方は早川書房の刊行予定をチェックしてみて下さい。米国では様々なメディアで取り上げられた本ですので、日本でも話題を呼ぶと思いますよ。
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