"Groundswell: Winning in a World Transformed by Social Technologies"を読了。AMNブログに先を越されてしまったのですが、米国のIT系調査会社として有名な Forrester Research のアナリスト達が書いた本です。結論から先に言うと、内容的にもタイミング的にも今まさに必要とされている本といった感想でした。
"groundswell"とは「うねり」や「高まり」といった意味の単語で、ここではソーシャル技術が可能にした「集団としての人々の力(が高まりつつある状況)」のことを示しています。その力と向き合い、あたかも柔術のように自分たちの力として活用するにはどうすれば良いか、がテーマ。具体的にはブログやSNSなどをどう使うか?というお馴染みの話になるのですが、技術を解説するのが目的ではなく、あくまでも groundswell という状況にどう対応するかに主眼が置かれています。「YouTube で売上げアップする10の秘訣!」や「Mixi で10倍稼ぐ方法!」などという戦術レベルに特化した類の本ではありません。
その姿勢を端的に示しているのが、最初に登場する"POST"というメソッド。groundswell に対応する計画を立案する際のステップを示したものなのですが、以下の4段階の頭文字を取ったものです:
1. People (人々)
(戦略の対象となる)消費者や社員はどのような人々なのか?ソーシャル技術に対してどんな動きを見せているのか(積極的にコンテンツを投稿する傾向にあるのか、はたまたROMだけの人が多いのか etc.)?を正しく理解する。
2. Objectives (目標)
ゴールは何か?人々の意見を聞きたいだけか、それとも積極的に自社製品を売り込んでくれるような人々を増やしたいのか?など、目標を明確にする。
※ちなみに本書では、具体的な目標を
- Listening to the groundswell (耳を傾ける)
- Talking with the groundswell (語りかける)
- Energizing the groundswell (盛り上げる)
- Helping the groundswell support itself (お互いを助け合うようにさせる)
- Embracing the groundswell (groundswell を自分の組織の一部として組み込む)
の5つに分類し、それぞれ詳細な解説と事例紹介を行っています。
3. Strategy (戦略)
目標を達成するためにはどのような戦略が必要か、戦略の効果をどうやって計るか、また戦略を遂行するためにどんなことをすべきかを考える。
4. Technology (技術)
立案した戦略に見合う技術を選ぶ。
……以上4つで"POST"。注意すべきは、「人」が最初に来ていて、「技術」が最後に置かれている点です。あくまでも、いま自分たちが対峙しようとしている groundswell を構成する人々のことを考えるのが最優先の課題で、技術は目標を解決するための手段に過ぎない。この姿勢は、本書を通じて首尾一貫しています。
従ってこの本は、これからの時代にビジネスを続けるための体質/心構えを作るための、漢方薬のような存在と言えると思います。もちろん「ビジネスブログを成功させるには」「ユーザーコミュニティを運営するには」といった具体的な話+実例解説も多いので、何らかの具体的な課題があるんだけどという場合にも役に立つでしょう。また扱っている範囲もブログ/SNSだけでなく、カスタマーレビューの活用法、消費者参加型商品開発、社内SNS/社内Wikiなど広範囲に及びますから、リファレンス的に使うこともできるかも。しかし個人的には、この本を手にする価値は、単なる技術のはやり廃り(もうブログは古い、これからは Twitter だ、いやいや YouTube を活用しないと etc.)に右往左往しない考え方を身につけることにあると思います。
では、groundswell の時代に生き残るための考え方とはどんなものか。今度は本書の終わりに登場するアドバイスを引用しておきましょう:
1. groundswell が人と人との交流であると忘れないこと。
自分自身、一人の人間として顧客に対峙すること。ブログを書く、コミュニティに参加するなどどんな手法を取るにせよ、それらが個人としての行動であることを忘れない。
2. 良い聞き手になること。
マーケティング担当者は聞くのが苦手だ。しかし groundswell で成功するためには、聞くことがかかせない。顧客だけでなく、社員や他の関係者の話を聞くこと。最も良い聞き手が、最も賢くなる。
3. 忍耐強くなること。
技術の動きは速く、自分たちが時代遅れになってしまうのでは?と不安になるが、人々が参加してくるのには時間がかかる。施策を実行したら、辛抱強く続けること。
4. 日和見主義になること。
最初は小さく、発展が望めるような場所で始めよう。そして機を見て拡大しよう。そのチャンスを逃さないこと。
5. フレキシブルになること。
groundswell と対峙していると、予想もしていなかったことが起きる。そこから学び、変化を続けること。
6. コラボレーションすること。
あなたの会社の中には、あなたと同じように考えている人がいるはず。目標を達成するためには、彼らの協力が必要だ。
7. 謙虚でいること。
ソーシャル技術でつながった人々は、強力な存在だ。groundswell から何らかの利益を得ることは可能だが、groundswell はあくまでも人々のためのものであると忘れないこと。あなたはその一部になろうとしているのだ。謙虚な姿勢でいなければ、力を手にすることはできない。
……これらはいずれも、奇をてらったアドバイスではありません。ごく基本的なことですが、これらを守って成功した例、守れなくて失敗した例が本書では解説されています。どこまでこの基本を徹底できるか、そして他の人々にも徹底させることができるかが重要になってくるのでしょうね。
ということで、間違いなくどっかから邦訳が出るはず(Harvard Business Press だからダイヤモンド社あたり?)。出版されたら、一度手に取ってみることをお勧めします。しかし非常に分かりやすい英語で書かれていますので、先に原書を読んでしまうというのも全然ありだと思いますよ。
ちなみにこちらが公式サイトになります。本書で紹介されているツールなども紹介されているので、興味のある方はご確認を:
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