「大学のテキストは高い、なのに使うのは少しの間だけ(単位が取れるまで)」という問題に対して、出版社の側からは電子書籍やオープン(無料)・テキストといった解決策が登場していることを書いてきましたが、一方若者の側ではもっと「なじみ深い」方法が一般化しつつあるようです:
■ First It Was Song Downloads. Now It’s Organic Chemistry. (New York Times)
CDのリッピング、ファイル共有によって「コンテンツを無料で手に入れる」ということに慣れた若者達が、大学のテキストに対しても同じアプローチを始めて……という記事。そう言われれば当然の話なのですが、PirateBay にもテキストをスキャンした画像がアップされているとのこと。例えば普通に買えば日本円で2万円以上もする"Organic Chemistry"という本が、全ページ無料で閲覧できるようになっています。
確かに「大学のテキスト全ページを画像化する」というのはCDのリッピングよりはるかに手間のかかる話ですが、性能の良いスキャナが安価で手に入る時代になりました。仲間内で金を出してテキストを1冊買い、スキャナを持ってる奴の家に行って(時間がかかるけど)全ページを画像化、なんてことは既に普通の話になっていそうです。格安コピー店が高性能スキャナを導入して、画像化サービスを始める、なんてのもありそうだし(すみません、合法かどうかは別の話ということで)。そもそも自分の手で画像化しなくても、上記のようにアップロードサイトやP2Pソフト経由で入手できるっていうケースも増えそう。
これに対して出版社の側では、当然ながら違法なアップロードに対して削除申請をしつつ、「テキストを買う」という発想自体を変えようという動きがあるそうです:
Used book sales return nothing to publishers and authors. Digital publishing, however, offers textbook publishers a way to effectively destroy the secondary market for textbooks: they now can shift the entire business model away from selling objects toward renting access to a site with a time-defined subscription, a different thing entirely.
古本が売れても、出版社と著者には何の見返りもない。しかしデジタル出版は、テキストの中古市場を破壊する手段となりうる。いまや出版社は、モノを売るというビジネスモデルから、全く異なる姿――期間限定でサイトへのアクセス権を貸すというモデルへと転換することが可能だ。
また「プリント版のテキストが無くなることはあり得ないが、それぞれの得意分野でプリント版/電子版が棲み分けられていくのではないか」といった予測が紹介されています。
授業の形態にも依存しますが、確かに電子版+DRMでテキストを提供できれば、プリント版よりもコピー/譲渡を厳しく制限することができるようになります。そして大学テキストは一般書籍よりも中古市場が活発な分野、となれば、上記のような若者によるファイル共有の動きに対向して、電子化を進めようという出版社・大学教授が増えてくるかもしれません。授業の履修条件に「PC必須」の一言を加えれば、「テキストは電子版しかありません」と言っても問題がないし(生徒の感情は抜きにして)。電子化によって浮く紙代、流通コスト、中古販売による機会損失の分を先生に還元しますよ――と言えば、なびく教授は多そうだし。
ということで、大学テキストがファイル共有される時代には、テキストの電子化が進むのではないかなぁと空想した次第。授業で使われるテキストそのものだけでなく、関連する参考書とかも危ない(~が分からない人はこれを読むといいよ、てな感じでファイルが共有される)のかなぁと思います。
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