以前何度かご紹介した本"Predictably Irrational"の邦訳が、11月21日に刊行されることになりました。タイトルは『予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 』。直訳やん!というツッコミはさておき、早川書房の方から仮綴じ見本(プルーフ)をいただきましたので、改めて読み直してみました。
読み直してみて、改めて感じたこと。それは、あるモノの客観的な価値など存在しない、ということです。例えば、今日食べたお昼のメニュー。皆さん恐らく1,000円前後を支払ったと思いますが、食べたものに支払った金額分の価値があると思ったからこそ、そのメニューを選んだはずですよね。しかしあるモノに感じる価値は
- 比較する対象(700円のざるそばと、1,200円のカツ丼セットを見て、中間の1,000円のカツ丼単品を選んだのではないですか?)
- これまでの行動(いつも1,000円を出してるからお昼は1,000円で、という惰性だったのではないですか?)
- 周囲の意見(一緒に行った同僚全員がカツ丼を頼んだので、じゃあ僕も、という決め方だったのではないですか?)
……
などなどといった要素によって簡単に左右されてしまうことを、本書は様々な実験によって暴いてくれます。さらには払った金額(自分がこうだと決めた価値)によって、そのモノが本当に提供してくれる価値が左右されてしまう場合がある、などという恐ろしい指摘も(と言って想像できた方も多いと思いますが、その通り、本書ではプラセボに関する実験が登場します)。お昼に1,000円を払ってカツ丼を食べて満足していたとしたら、それは1,000円で良い食材と良い料理人が得られたからでしょうか?それとも「1,000円を払う」という行為が1,000円分の美味しさを脳に感じさせていたからなのでしょうか?仮に「食べる前に広告を10分間見てくれたら、Google がカツ丼をごちそうしてくれる食堂」があったら、出されたのが今日食べた1,000円のカツ丼とまったく同じものであったとしても、美味しさは減少するのでしょうか?
「0円で取れるコピー」や「0円で使えるワープロソフト」などなど、ただでさえ既存の概念から大きく外れたビジネスが登場してくる時代です。『予想どおりに不合理』は、一見不合理な行動を理解するだけでなく、新しいビジネスの仕組みを考え出すことにも役立つ知識を与えてくれるのではないでしょうか。ということで、11月21日をお楽しみに。
ちなみにこちらが、著者であるダン・アリエリー教授が開設しているブログ:
また本書について、シロクマ日報でもちょっとだけ取り上げたことがありました:
こんにちは、YO-SHIといいます。読書ブログをやっています。
この本を、私もプルーフ版で読みました。おもしろかったです。
私は、数々紹介されている実験結果が、1つ残らず「予想通り」であって意外なものがないことに、逆に魅力を感じました。
"Predictably~"というタイトルをよくぞ付けたと思います。
誰もが予想する不合理な行動ですが、実験で証明することによって、予想は事実になります。
事実となれば、それを利用できるし、そうならないための対策もできる。
古典的な経済学には、実験や証明という感覚が希薄だったように思います。
経済政策がギャンブルのように、当たり外れがあるのはそのせいではないでしょうか?
投稿情報: YO-SHI | 2008/11/12 16:32