『システム開発 火事場プロジェクトの法則―どうすればデスマーチをなくせるか? 』を読了。技術評論社さまからいただいた本、最後の1冊です(他の2つはコレとコレ)。「読書の秋」ではないのですが、最近面白い本に出会ってしまうことが多く、読み終えるのが遅くなってしまいました。
本書はタイトルの通り、「火事場プロジェクト/デスマーチを防ぐにはどうすれば良いのか?」を考えることがテーマになっており、大きく分けて2部構成になっています(ちなみにシステム開発を念頭に置いた話になっていますが、プロジェクト形式で進められる仕事であればどんな分野にも応用できるでしょう)。前半はすぐに使えるようなテクニックが短い文章で纏められ、お医者さんが出してくれる処方箋といったところ。後半は一変して「そもそもなぜデスマーチが生まれるのか?」を考察することが目的となっており、著者である山崎敏さんの、根本的にプロジェクト運営を変える方法が模索されます。こちらはさながら、漢方薬や生活習慣改善指導といったところでしょうか。
もちろん第1部も非常に役立つ知識ではあるのですが、やはり本書の価値は、第2部にあると言って良いと思います。山崎さんは実際にデスマーチを何度もくぐり抜けてこられた方であり、様々なテクニックを提示してくれる一方で、現実は個人の力で対処できるほど甘くはないこともハッキリと述べてくれます:
細かい提案をいくつかしてみたものの、実際に行動には移されなかった。多くの人がいろいろなことを言うので、意見がまとまらず、具体的な行動に結びつかないでいた。だれの意見を聞けばいいのか、その優先度すらも決められないのだ。
「これはもう、どうにもならない」と強く感じた。実際、何もできなかった。
さじを投げた。
視野が広がればデスマーチは解決できると思っていた。しかし、実際は、自分ひとりの視野が広くなっても、まわりの共感を得られないとうまく動けない。「こうすべき」と言って、たとえそれがデスマーチを抜け出す最良の方法だったとしても、まわりの共感が得られなければ、それは実行されず、現状は何も改善されないのだ。
自分だけ視野が広くても、1人だけ意識のレベルが上がっても、それだけではデスマーチは解決しない。まわりの視野も広げ、意識を共有しないと意味がない。そのことを痛感した。強い敗北感だった。
誤解のないように改めて言っておくと、山崎さんは個人の力を軽視しているわけではなく、実際に一人でも実行できること・一人で様々な努力を重ねてこられた経験が本書では述べられています。しかし個人でどうこうできることならば、デスマーチがここまで問題になったりはしません。根本的な解決を目指すためには、やはり組織を変えていくしかないことが訴えられます(そのため本書の最後の方は、プロジェクト・マネジメントというよりも経営論に近い話で占められています)。
「組織を変えることなんてできないよ、オレはただの~だし」と考え、本書の第2部を読み飛ばしてしまうことは簡単です。しかしそれでは何も変わらず、たとえ1つのデスマーチや失敗プロジェクトをくぐり抜けたとしても、その後には別の火事場が待っていることでしょう。それが嫌で、しかも経営層が何かを変えてくれるまで気長に待てないという方は、自分から行動を起こすしかありません。たとえそれが自分の本職ではなく、意見の違う他人と深く関わるという、誰にとっても鬱陶しいタスクであるとしても。
いままさにデスマーチの最中にいるという方は、とにかく本書の前半を読み、使えるテクニックを片っ端から試してみることをお勧めします。そして修羅場が一段落しても本書を放り投げるのではなく、引き続き後半を読み、少しでも組織を変えていく努力をすること。そこまでして、この本の本当の価値を引き出したことになるのではないかなと感じた次第です。
コメント