早川書房様より、『リスクにあなたは騙される―「恐怖」を操る論理』という本をいただきました。ありがとうございます。最近「脳(とそれを持つ人間)の行動は不条理である」というテーマの本が増えてきているように感じますが(これも僕の脳が誤解している可能性があります)、本書もそのひとつ。様々な研究結果が紹介されていて、なかなか面白いです。いまのインフルエンザ騒動に関連してくる部分もかなりあるかも。
で、ちゃんとした書評は読み終わってからにするとして、1つだけ面白い調査結果を。色が人間に様々なイメージを与えることは、別に科学者でなくても分かりますが、その力は想像以上に強いのではないかという話です。名付けて「黒のユニフォームはペナルティを取られやすい」説:
情動に関する研究の多くは実験室で行われたが、心理学者のマーク・フランクとトーマス・ギロヴィッチは、黒のユニフォームに対して強く否定的な無意識の反応を人が示すという証拠を実験室における実験で発見すると、現実世界でもそれを裏づける証拠を見つけ出した。ナショナル・フットボール・リーグの中で黒のユニフォームを着た5チームがすべて、1970年から1986年のあいだの1シーズンを除くすべてのシーズンで、リーグ平均を上回る罰退距離を科せられた。ナショナル・ホッケー・リーグでは、黒のユニフォームを着た3チームがすべて、同じく1970年から1986年のあいだのすべてのシーズンで、リーグ平均を上回る退場時間を科せられた。非常に興味深いのは、これらのチームが別の種類のユニフォーム(白地に黒の縁取りが入っているもの)を着たときも、黒のときと同じ程度の罰則を科されたことである。これはまさしく感情と判断の研究から予想されるであろうことだ。黒のユニフォームが否定的な感情のラベルをチームに貼りつけ、そのラベルはチームが黒を着ていないときでさえもくっついているというわけだ。ギロヴィッチとフランクは、ピッツバーグ・ペンギンズの1979年から1980年にかけてのシーズンを用いて理論の実地テストを行い、ほぼ完璧な結果すら得ている。シーズン前半の44ゲームで、チームは青のユニフォームを着た。この期間、チームの退場時間は1試合につき平均8分だった。しかし、シーズン後半の35ゲームで、チームは新しい黒のユニフォームを着た。コーチと選手はシーズン前半と同じだったが、ペンギンズの退場時間は50パーセント増え1試合につき12分になった。
とのこと。そうでない場合も多いですが、審判は公平なジャッジ、つまり理性的な思考を要求されているはずです。にもかかわらず「ユニフォームの色」という要素にジャッジを左右されている可能性があるということは、いかに人間がとっさの判断を下す際に「感情」を含めてしまっているかということかもしれません。
ちょっと気になったので、Jリーグ(J1)のデータでも確認してみました。第13節(5月23日)までの試合結果と、各チームのユニフォームに含まれる色をJリーグ公式サイトから取得し、評にしてみたのが次の画像です:
< ※訂正! 試合数を考慮するのを忘れていたので、数値を若干修正してあります >
乱暴なのですが、機械的に「第1もしくは第2ユニフォームの中に『黒』が含まれているチームとそうでないチーム」に分け、平均を取ってみました。すると、
- 「黒」チームの1チーム平均反則数/1試合: 17.06
- 「黒以外」チームの1チーム平均反則数/1試合: 17.56
ということで、むしろ「黒」チームの方が反則数は少ないという結果に。しかし警告数を見てみると、
- 「黒」チームの1チーム平均警告数/1試合: 1.78
- 「黒以外」チームの1チーム平均警告数/1試合: 1.74
と、反則は少ないはずの「黒」チームの方が、警告を多く与えられていることが分かります(退場も同じ)。従って、「黒いユニフォームだと反則を犯した時にカードを出されやすい」という傾向があるの「かも」しれません。もちろん黒系のユニフォームを使っているチームの中に、ラフプレーをしがちな選手が偶然含まれているだけという可能性も高いのですが(いや、別に特定のチームを想像しているわけではないですよ)。
蛇足気味に、Google Docs でデータも掲載しておきます:
ということで、なぜかあのチームは気にくわない、乱暴な奴らだと感じることがあったら、改めて冷静にデータを見直してみた方が良いかもしれません。単に嫌いな色がユニフォームに含まれていただけ、ということがあるかもしれませんよ。別にアンチをやめろとは言いませんが、せめてtotoを買うときだけはこの話を覚えておいた方が良いのでは。
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