翔泳社様より、今月初めに発売されたばかりの本『Webアナリスト養成講座』をご献本いただきました。ありがとうございます。タイトルに「講座」とあるように、非常に実用的で内容が細かく、リファレンスとしても使える本です(約500ページでCD-ROM付き!)。そのため後半の実践編にはまだ目を通していないのですが、基本を解説した第5章までを読み終わりましたので、ちょっとご紹介しておきたいと思います。
タイトルの通り、本書はウェブ解析について一通りの知識を提供することを目的としています。しかしそんじょそこらの参考書と大きく異なる点が1つ。それは「分析のための分析を目指してはいない」というところ。例えばウェブ解析というと、こんなイメージを持つ方も多いのではないでしょうか:
今もってなお、たいていの人が Web analytics = ページ遷移と思い込んでいる。これは真実から100万マイルもかけ離れているのではあるが、ほとんどの実務家にとって、ページ遷移データは Web に関する意志決定を行うにあたっての、大変重要な情報源となっている。しかしながら、ページ遷移データというのは Web データのほんの一部に過ぎないので、これを分析する Web analytics ツールにどれほど多額の金を注ぎ込んだとしても、得られる成果というのはたかがしれている。期待を裏切られたとガッカリするのは至極当然なのである。さあデータはそろった、それ以上のレポートもある。しかしそれらを前にして意志決定者は心の中でこう呟くのだ。「データを見ても私が何をするべきかはさっぱりわからないじゃないか……」
分析結果を見ても、何をすべきかさっぱり分からないという状態――本書が目指すのはそんな「分析のための分析」ではなく、「行動につながる分析」です。そのために(ウェブ解析の本であるにも関わらず!)ログ解析以外のツールや調査・分析手法にも目が向けられ、従来の定量的データを集めるだけでなく定性的データも統合することで意味のある成果を導き出すこと(本書ではこれを「三位一体法」と読んでいます)が模索されます。その姿勢は、こんな言葉にも現れているでしょう:
すべてのビジネスはこの世に唯一無二であり、すべての Web サイトも唯一無二である。たとえ誰かの Web サイトやビジネスを完全に丸ごとコピーしたとしても、それでもやはりこの世に唯一無二のものとなるだろう。一緒に働く人間が異なるし、彼らの動きもまた異なるからである。もし周りと同じように小売チャネルを使って販売しているとしても、Web や実店舗での販促活動をどのように進めるか、その戦略はおそらく他と異なっているだろう。あるいは、他の人たちが Web 1.0 で「まごついている」間に、あなたは Web 2.0 を完全に使いこなしているかもしれない。またあるいは、あなたが顧客満足度を改善している間に、競争相手はコンバージョン率を改善しているかもしれない。
この世で唯一無二であるにもかかわらず、なぜみんなと同じ analytics ツールでみんなと同じレポートと指標を使って事を進めようとしているのか?そうではなく、Web analytics (あるいは何らかの意志決定システム)の旅を始める前に、自分たちのビジネスがいったいどういう課題を解決しようとしているのかを、立ち止まって考えてみよう。
この言葉の通り、本書では「~というデータを~という形式で解析していればOK」的な押しつけは行われません(もちろん著者個人としての意見は掲載されていますが)。それよりも「なぜ自社のウェブは存在しているのか」「顧客のために何をしているのか」を常に意識し、そのためにウェブ解析がどのような貢献ができるのかを考え、そこから日々の業務を設計することが求められます(ちなみに組織のあり方・分析活動に関する予算の振り分け方・アナリストの雇い方などといった領域にまで話が及んでいます)。ある意味では、ツールを徹底的に使いこなすことよりもはるかに難しいことが追求されているわけですね。
大げさに言えば、本書の究極の目的は「Web アナリストという仕事の重要性をワンランク上のものにすること」「さらにそれを通じて、『ウェブサイト』という存在の重要性もワンランク上のものにすること」だと思います。実際、本書で書かれているアドバイスをきちんと実行に移せれば、企業戦略におけるウェブサイト・ウェブ解析の位置付けは飛躍的に高まることでしょう。そんな可能性が感じられるからか、書かれている内容はあくまでもウェブ解析に関する専門知識なのですが、それでいて本書を読んでいると「夢」のようなものを感じる方も多いのではないでしょうか。本書自身の売り文句になってしまいますが、最後にこんな言葉を引用しておきましょう。
もしあなたがアナリストなら、この本を読むことで人生が変わる。Web analytics とは何なのか、どうすれば会社の組織を利益体質に変えることができるかについて、新鮮な見方が手に入る。ツールや指標だけでなく、Web analytics に対する斬新な思考法とアプローチを学べる。この本にはすぐに実行できるヒントやアイデア、提案がぎっしり詰まっており、しばらくは挑戦すべき課題に事欠かないだろう。
以前の記事で、comScore Japan 社長の佐藤さんが「他のアジア諸国の企業の方が、(comScore が提供するような)データをマーケティングに上手く活用できているように感じる。それは海外の大学では、データをマーケで使うトレーニングを実施しているところに一因があるのではないか」と仰っていたことを紹介しました。上記の売り文句が宣言している通り、そんな欠けているトレーニングを提供してくれるのが『Webアナリスト養成講座』になることでしょう。その意味では、本書を本当に読まなければならないのはCEOやCMOクラスの人々かもしれませんが、まずは本書を武器にした読者が組織を下から変えていく――そんな展開を期待させる一冊だと思います。
【関連サイト】
■ Occam’s Razor by Avinash Kaushik (本書の著者、アビナッシュ・コーシック氏のブログ)
■ Web Analytics: An Hour A Day - by Avinash Kaushik (本書の公式サイト)
またこちらの記事では、ウェブ解析に関する他の有益なブログが紹介されています:
■ Top Ten Web Analytics Blogs : January 2007 (Occam’s Razor by Avinash Kaushik)
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