翔泳社さんより新刊『リ・ポジショニング戦略』をいただきました。ありがとうございます。ということで、いつものようにご紹介と書評を。
リ・ポジショニング戦略 ジャック・トラウト 宮脇 貴栄 翔泳社 2010-07-02 売り上げランキング : 12786 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
本書はジャック・トラウトとスティーブ・リブキンの共著になるのですが、このジャック・トラウトという人物、何を隠そうマーケティングの古典である『ポジショニング戦略』の著者の一人。そう、いまやマーケティング理論として当たり前のように使われている「ポジショニング」という考え方を編み出した人物なわけですね。ということで、理論を生み出した張本人なわけですから、流石にポジショニングの考え方と実践方法について分かりやすく解説されています。
その中でも本書がターゲットとしているのが、タイトルにある通り「リ・ポジショニング」。そりゃ一体何なの、という話ですが、
ポジショニングとは、潜在顧客の脳の中にあるあなた自身のイメージを、ほかと差別化することだ。それはまた、コミュニケーションの過程で脳が行ったさまざまな活動の結果でもある。
リ・ポジショニングとは、あなたがあなた自身やライバルに対して抱いている認識を少しずつ改めていくことだ。その認識があなた自身に対するものでも、ライバルに対するものでも、それを改めるための戦略を成功させるには、脳がどのように動くか、人はどのように考えるかを理解しなければならない。
と解説されています。要は脳の中に一度打ち立てられた「ポジション」を、どうやって時代やビジネス環境の変化に合わせて「リ・ポジション」するのか、その方法について考えるのが本書であると。
ただし、本書の中で明確に「リ・ポジショニング戦略」が語られているのは全体の3分の1程度になります。前半部分はポジショニング戦略の復習というか、前提となる議論の解説に費やされる格好。ポジショニング戦略とは何か、を知らない人にも本書を理解してもらおうとすれば、仕方のない紙面配分だとは思いますが、「リ・ポジション」について深く掘り下げたいという人にとっては少し物足りないかも(逆に考えれば、本書はポジショニング戦略の入門書としても使えるということになるので、『ポジショニング戦略』を読んだことがないという方は本書を先に読んでもいいかもしれません)。
で、その「リ・ポジショニングをどうするのか」という部分ですが、個人的に納得だったのが次の部分:
人々の認識にみずからを適合させていくこと。それが効果的なリ・ポジショニングだ。人の心を変えようとするのはリ・ポジショニングとは正反対の行為で、その人が持っている認識に逆らうことだ。適合の余地はまったくない。たとえばゼロックスは文書管理会社として知られていたからこそ、容易にみずからをデジタル文書技術会社としてリ・ポジショニングし、文書のデジタル保存とデジタル配信のニーズの高まりを先取りすることができた。
リ・ポジショニングというと、何か全てをリセットして一から再出発することのように感じられるかもしれませんが、あくまでも現在の延長線上で考えなければならないと。無理に力を入れて相手を引っ張るのではなく、相手の力を応用する形で体勢を変えるという点では、柔道的な考え方と言えるかもしれません。また一足飛びに変化を求めることも無理な願いであり、あたかも矯正器具で少しずつ歯並びを整えるように、地道な活動を継続しなければならないというのが本書の主張です。
と書くと、至って普通の解決策しか導けないような気がしますが、まさしく「あたりまえな答え」「シンプルな答え」を追求すべし、というのが本書のもう一つの主張。シンプルな解法であれば、消費者にも受け入れられやすく、組織的にも実行・継続がしやすくなるという面があるのでしょうね。この辺は「複雑さを売る」職業として本書が糾弾している、コンサルタントとしては苦笑いするしかないのですが(笑)。
ということで、新商品ではなく既存ラインの再活性化を任されたけれども、何から始めて良いのやら……という方にはヒントをくれる一冊だと思います。改めて「ポジショニング戦略」を勉強し直したい、という方にも。
【関連記事】
コメント