世の中には数多くの「古くて新しい問題」と呼ばれるテーマがありますが、「名刺の整理をどうするか?」という問題も、まさしくその1つと言えるでしょう。日本の社会人であれば、決して逃げられない名刺という存在。今まで数多くのソリューションが提案されてきましたが、新たな挑戦者が現れました。それが「名刺BOX」です。
クラウド型名刺管理サービス「名刺BOX」
「名刺BOX」はインフォコム株式会社が立ち上げたウェブサービスで、その名の通り名刺管理を行ってくれるというもの。名刺情報をデジタル化してインフォコムのクラウド環境に保管し、データをいつでも参照することが可能になります。当然ながら携帯電話からのアクセスも可能ですので、名刺ファイルを家に置き忘れたという場合や、外出先で参照したいという場合にも問題ありません。さらにデジタル化・クラウド化されているという点を利用して、メルアドをクリックするだけでメーラーを立ち上げる、住所をクリックするだけでGoogle Maps上に表示する、管理されている企業(名刺から得られたもの)に関するウェブ上のニュースを自動で収集・リンクを一覧表示する等々の高度な機能も実装されています。
サービスは無料で利用することができますが、名刺のデジタル化は自分で行う必要があり(スキャナーアプリが提供されているので、自宅にスキャナーがあるという方はこちらを利用可能)、入力代行をお願いする場合に料金が発生するという仕組み。代行を依頼する場合にはスキャンした画像データを渡すことになりますが、実物を郵送してお任せしてしまうという選択肢も用意されています。
「名刺をデジタル化する」「デジタル化されたデータをクラウドで管理する」という話であれば、何も「名刺BOX」が初めてというわけではありません。新しいサービスというからにはもう1つ仕掛けがあるのですが、その話に進む前に、この2点についても名刺BOXが優れている点を解説しておきましょう。
正確で安心・安全なサービス
まず「名刺をデジタル化する」という点ですが、有料サービスを利用してインフォコム側に入力を依頼する場合、オペレーター2名による手入力が行われるとのこと。実はこのインフォコム、医療機関向けのソリューションや、公文書管理のソリューションも手がけている会社であり、病院に関連する情報等を電子化する際に採用されている「ダブルチェック方式」を名刺BOXでも採用したのだそうです。
病院内の情報と言えば、1つの記載ミスが文字通り命を左右しかねない重要な存在。それと同じ正確性を追求しているというのは、少し大袈裟な感じがするかもしれませんが、考えてみれば名刺データの正確性というのもかなり重要です。古めかしい(失礼!)会社が相手となると、肩書き一つで余計なトラブルが生まれかねませんし、そうでなくても名前の読みや漢字が違っていれば、受け取った方は良い気分はしません。さらにデジタルデータの場合、名前の漢字や読み方、電話番号の数字等々で間違いが1つあるだけで、適切なソートやグルーピング、検索ができなくなるということになります。その意味で病院内情報に求められる精度で名刺データをデジタル化してくれるというのは、非常に心強いポイントでしょう。
また名刺BOXには入力データを基に、相手の会社の組織を階層構造で示してくれる「組織図生成」という機能(これがなかなか便利)が付いているのですが、この点でもデータが正確に入力されているというのが重要になります。大企業であればあるほど組織が複雑化してゆくので、同機能の価値も高まるわけですが、それと共に何らかの入力ミスが発生する確率も増えてゆくわけですね。さらに大組織であれば部署名も長く・複雑になる傾向があるわけで、間違えずに全てを打ち込むというのは大変です。古い会社と広い付き合いがあるよという方には、入力代行が強い味方になってくれるのではないでしょうか。
次に「デジタル化されたデータをクラウドで管理する」という点ですが、ここでもインフォコムの過去の資産が活かされています。病院内情報もその一例ですが、同社は様々な形で個人情報を取り扱ってきた実績があり、通信の暗号化・自社データセンターでの運用など高いレベルでのセキュリティを実現することが可能。それを「名刺BOX」にも応用しているので、クラウドサービスとはいえ安心して名刺情報を預けることができるわけですね。
これも少し考えれば分かることですが、名刺を保管しているというのは、実は大切なビジネス上のパートナーの個人情報を保管しているということに他なりません。うっかり名刺フォルダを落としてしまい、それが迷惑電話業者の手に渡ったとしたら……まずバレないだろうって?いやいや、新しいオフィス・新しい電話番号になった次の日からいきなり迷惑電話がかかってきて、どう考えても○○さんに渡した名刺が怪しい、なんてケースも起こり得ます。他人の情報を管理するというのは、自分の情報を管理する以上に、セキュリティに気を配らなければいけない状況と言えるでしょう。その意味で、安心・安全を実現してきた実績のある会社が運営する名刺管理サービスであるというのは、大きな差別化ポイントではないでしょうか。
「名刺のソーシャル化」の意義
さて、ここから先が「名刺BOX」が持つユニークな特徴の話になりますが、結論から先に言うと、同サービスが差別化ポイントとして追求しているのは「ソーシャル」という要素になります。
名刺BOXには、名刺データを共有するという機能が用意されています。文字通りクラウド上にあるデータを他のユーザーと共有できるというものですが、他人のデータを名寄せできるというのがミソ。つまり過去に自分で名刺交換した相手が、自分と共有関係にあるユーザーと新たに名刺交換した場合、その名刺の内容(=最新の情報)が過去のデータに反映されるのです。また「共有メモ」という機能があり、名刺上にある情報以外の付加的情報についても共有することが可能。相手企業に対するアプローチ方法を会社内でシェアするといった使い方をすることができます。
また先ほどの組織図生成機能ですが、この中には名刺を交換したユーザーの数と名前も表示されます(※当然ながら情報を共有する設定がなされているユーザーのみ)。つまり特定の企業・特定の部署と自社とのつながりが強い・弱いといった情報が一目で理解でき、さらに「○○社にアプローチしたいので××さんに話を聞いてみよう」といった使い方も可能。ここまで来ると、よりSFA的な要素が強くなってくるのではないでしょうか。
インフォコムでは今後、ユーザーが自分の名刺情報をメンテナンスし、それを名刺BOX内で他ユーザーと共有する機能を追加することも検討しているそうです(※自分の名刺情報を登録すること自体は現在も可能)。つまり自分が名刺交換した相手が名刺BOXを使っていれば、あとは名刺BOX上で自分の情報を更新することで、常に最新のコンタクト先や部署名・肩書きといった情報を相手に伝えることができると。同様に名刺データの履歴管理機能も検討中とのことで、ここまで来ると「仕事上の個人データ」をベースに他人と交流するという、ビジネスSNS的な存在になると言えるかもしれません。
名刺管理の未来
そう考えると、名刺情報をデジタル化・クラウド化し、さらにソーシャル化して行くことで、様々な可能性が見えてくるのではないでしょうか。
例えば先ほどのように、誰かコンタクトを取りたい相手がいた場合、身近な人でその人と知り合いのユーザーを見つけて紹介してもらうといった使い方ができるでしょう。これはあるビジネスSNSで実装されていた機能ですが、闇雲にアプローチするよりも確実で、しかも信頼性を担保できるという点で大きな価値のあるものでした(残念ながらそのSNSは鳴かず飛ばずという状態になってしまいましたが……)。
また人脈が可視化されていれば、誰がどんな分野で、どんな経験・知識を得ているかも暗示的に把握することができるはず。こちらはより機密情報に近い話になるので、そう簡単には話が進まないでしょうが、例えば社内利用と言った限定的な世界であればある程度実現されて行くはずです。また公開・共有設定は今後詳細化されるとのことですから、アピールしたい部分を選んで他人と共有してゆくという状況も進むのではないでしょうか。
さらにいったんコンタクトし、名刺BOX上でつながりを持つことができた相手であれば、その後ずっと関係を持ち続けることができます。よく「名刺が変わったので改めて交換させて下さい」と言って知り合いと再度名刺交換したり、あるいは「会社が変わったので新しいコンタクト先を」的な内容のメールを送ったりという場面がありますが、それがすべて不要になるわけですね。最終的には、そもそも名前さえ伝えればそれで事足りてしまうような、名刺のいらない世界を「名刺BOX」が実現してしまうかも。
ただそのためには、名刺BOXのユーザー数が価値を生み出すのに十分なほど多くなる、いわゆるクリティカル・マスを超える必要があります。逆にそこを超えてしまえば、ネットワーク効果によって名刺BOXの価値は極めて大きなものとなり、ビジネスSNSのスタンダード的存在になって行くかもしれません。Facebookが日本国内で実名SNSとしての位置づけを明確にし、LinkedInも日本進出を狙っているいま、その道のりは決して平坦ではないと思いますが……ただそれだけに、これからこの分野に注目が集まる可能性が高いとも考えられ、逆に言えば非常におもしろいタイミングでの参入と言えるのではないでしょうか。
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ということで可能性の領域にまで踏み込んでしまいましたが、スタンドアロンで使ってもなかなか便利なサービスだと感じています。ニュースの自動収集は次にお客さまのところに出かける際のネタ収集になるし、住所からワンクリックでGoogle Mapsを開いてくれる機能は外出時に重宝するし。残念ながらスマートフォン用アプリはまだ(計画中)ということですので、ぜひ早めに開発をお願いします!
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