先日のcybozu.nite 2.0に参加して、このブログが意外な方にも見ていただいているのを知りました。改めて「記事の質を上げなきゃという」プレッシャーを感じている窓際ブロガーの僕ですが、この記事も個人的なまとめです。社外で読んでいただいているみなさま、どうもすみません。
(1) 「ロングテール現象」とは何か
ロングテールという言葉の意味については、ここでは皆さんご存知のものとして話を進めます(ご存知ない方は、こちらの記事をご参照下さい:wisdom Business Leaders Square)。ロングテールをビジネスにどう活用するか?という点を考える前に、この現象をシンプルに把握したいと思います。
かつて多くの市場では、消費者の嗜好がごく一部に集中していました。仮に何らかの方法で個人の嗜好を数値化し、標準偏差のグラフを作成したとすると、下図の①のような形になります。(東京学芸大学のウェブサイトに掲載されていた図をお借りしました。参照元サイトはこちら:東京学芸大学 岸研究室「偏差値の話」)
しかし様々な要因により個人の嗜好は多様化し、現在は上図②のグラフのように、分散が大きくなっています。(この仮定が正しいかどうか、どんな要因により多様化が進んだかの議論についてはとりあえず避けておきます。)
②の状態となった市場において、可能な限り多くの収益を上げるためには、平均から離れた地点にいる人々に対しても商品/サービスを売り込まなければなりません。この活動が成功した状態が「ロングテール」であると、この記事の中では捉えています。
(2) ロングテールに必要な3つの条件
ロングテールが「嗜好が多様化した市場において、多種多様な商品/サービスを提供することにより、収益を最大化させることに成功した状態」であると捉えると、ロングテールを発生させるには次の3つの条件が必要になります。
- Market - ある市場における消費者の嗜好が多様化している
そもそも消費者のニーズに偏りがなければ、最大のニーズに合わせた商品/サービスを開発すれば事足ります。例えば消費者が乾電池に期待しているのは「(きちんと充電されているという前提の上で)これから使おうとする電化製品が求めるサイズに合致していること」です。このような状態では、ロングテールが発生しようがありません。
- Capacity - 多様化した嗜好に応えられるように、多種多様な商品/サービスが提供できるような社内体制が整えられている
たとえニーズが多様化していても、それに応じた商品/サービスが開発できなければロングテールは生まれません。仮に消費者が「もっと自分の趣味にあった色の乾電池が欲しい」と思っていたとすると、表面を何パターンにも塗り分けられる生産体制が必要になります。
- Access - 個人の嗜好を明確に把握し、最適な商品/サービスが提供できるような仕組みが存在している
多様化したニーズと、それに応える商品/サービスが存在していても、両者をつなぐ仕組みがなければロングテールを生むことはできません。乾電池の例で言うと、何色もの乾電池が生産できたとしても、「誰がどの色を買うのか分からないので、とりあえず24色をセットにして出荷する」という状態では、数多くの売れ残りが発生することになり(消費者は自分の気に入った色の乾電池しか買わないと仮定すると)、たとえロングテールを発生させることができてもそれに必要なコストは莫大なものになります。
(3) ロングテールを発生させるためには
ロングテールに必要な条件を明らかにできれば、その発生のために企業が行わなくてはならない行動も明らかになります。上記で述べた3条件が正しいと仮定した上で、企業が取るべき行動を考えてみます。
- 消費者の嗜好が多様化した市場に参加する
一企業の力で消費者の嗜好を変えるというのは、非常に難しいことです。さらに嗜好を「多様化させる」というのは、もっと難しくなるでしょう。例えばかつてソニーは「ウォークマン」という新しい発想の商品を発売することで、「移動中に音楽を聴く」という新しいニーズを生み出しました。その際にさまざまなサイズ・グレードのウォークマンを発売し、「移動中に自分に適した音質で音楽が聴ける上に、持ち歩く機器のサイズまで選べる」ということを実現していたとしたら、携帯型オーディオに対する消費者の嗜好をいっぺんに多様化させていたことでしょう。
消費者の嗜好を多様化させるのは不可能でありませんが、この仮定からも分かるように、非常に難しいはずです。であれば、ニーズが多様化する市場をいち早くキャッチして参入できるように、情報収集を強化するという代替案も考えられます。
- 多様化した嗜好に応えられる社内環境を実現する
これは解説するまでもありませんが、実現するのが最も難しいポイントと言えるでしょう。小ロット多品目、かつ採算に見合う生産体制をどう実現するかについては、僕の専門外なので深入りは避けます。また多種類の商品/サービスを提供できるようになるためには、本部の企画力や、サプライヤーとの関係まで考えなくてはなりません。例えばAmazonはロングテールを有効に活用している企業の代表例だと言えますが、最先端の流通センターの構築や多様なサプライヤーとの提携など、包括的な努力を行うことでロングテールを実現しています。
- 個人の嗜好を的確に捉える仕組みを構築する
そもそも「ロングテール」という現象が話題になったのは、検索エンジン(およびそれに付随する検索連動型広告)の一般化により、消費者がニッチなニーズを満たすのが容易になったということが出発点です。その意味では、SEOやネット広告の実施により「適切な消費者に売り込む」という条件がクリアできるように感じられますが、より効率的な仕組みも考えられるでしょう。
例えばDellのように、ウェブサイト上から消費者がオーダーする商品を自由にカスタマイズできる仕組みを構築することが考えられます。しかしPCなどある程度複雑な商品/サービスは、そもそも消費者が自分のニーズを的確に把握していないことも考えられます(すなわち、自分がロングテールに位置していることを認識していない)。QAなどを通じて、消費者の隠れたニーズを顕在化させる仕組みが提供できれば、よりロングテールにたどり着きやすくなるのではないでしょうか。(これはある意味、条件1「消費者の嗜好を多様化させる」という点に関係する戦略と言えるかもしれません。)
ここまで考えてきたのは、「企業が主体的にロングテールを捕まえるには、どうしたらよいか?」という側面でした。しかしロングテールをビジネスに活用するには、「企業がロングテールを捕まえるサポートをする(その見返りに料金を得る)」という選択肢も考えられます。
例えば検索連動型広告は、まさにロングテールを生み出した仕組みです。eBayやヤフオクのようなオークションサイトは、「ロングテール(ニッチなニーズを持つ一般ユーザー)と取引する市場」を提供し、その利用料金を徴収する仕組みと言えます。またリサーチ会社やコンサルティング会社は、多様化するニーズを迅速かつ的確に把握するサービスを提供することで、大きな収入を得ることができるでしょう。こういったサービスも十分に「ロングテールの活用」だと言えると思います。
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ここまで考えてきたように、ロングテールの3つの条件は企業の努力に大きく左右されます。逆に言えば、ロングテールの「しっぽ」はどこまでも長く伸ばすことができるでしょう。今後IT技術がさらに進歩すれば、これまで以上にロングテールの活用が企業に求められることになると思います。
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