技術評論社の方にいただいた、『SEの読書術―「本質を読む」力を磨く10の哲学 』を読了。タイトルの通り、SEとして働かれている方々のために「本をどう読むか」が解説された本です。面白いのは、技術者として活躍された経験をお持ちの10名の著名人にインタビューし、自らの哲学を語ってもらうという形式で書かれている点。彼らはそれぞれユニークな視点を持ち、さらには読書術だけでなく人生観・仕事観といったものにも触れて下さるので、「よし、この人のマネをしてみよう」というロールモデルが見つかるのではないでしょうか(ちなみに個人的には、荒井玲子 さんの言葉に共感するところが多かったです)。
この本、全190ページで価格も1,280円+税と、非常に手軽に読める本になっています。語られている内容も決して難解ではありませんし、恐らくSEという仕事に就いて間もない方々を対象にされているのでしょう。従ってIT業界に長く身を置き、既に「自分の読書術」的なものを確立されている方にはこの本は不要……と思いながら読んでいたのですが、半分ぐらい読んだところで考えを改めました。本書は「もう読書術なんて確立してるよ」という方こそ読むべきかもしれません。
まさしく十人十色といったところで、本書には様々な意見が収められており、中には「これは賛成できない」と感じる部分もあると思います。しかしそう感じた時こそ、この本を読んだ甲斐があるというものでしょう。人は一度行動パターンを決めてしまうと、なかなかそこからは離れられないものです。特に長くこの業界にいる方ほど、生き延びるためのコツというものが身に染みついているはず。それは決して間違いではありませんが、今のやり方がベストだと言い切れるでしょうか。仮にかつてベストだった時期があったとしても、周囲の環境の変化や自分の肉体的・精神的な変化、さらには遠く離れた国での大事件等により、少しずつ時代後れになっているということはないでしょうか。
騙されたと思って、新人に戻ったつもりでここに出てくる意見を実践してみる――結果が出なくても僕には責任は負えないのですが、そこから普段では絶対に得ることのなかった新たな発見が生まれるのではないでしょうか。何の発見も得られなかったとしても、「やっぱりオレの読書術は正しかった」ということになるので、そのままのやり方を全力で追求していけば良いわけですし。いずれにしても、気分転換のつもりで試してみても損はないと思いますよ。
……ところで冒頭で「(ここに登場する10名の方々は)それぞれユニークな視点をお持ち」と書いたのですが、ほぼ全員が指摘していることがあります。それは「知識を得るにはネットよりも本が適している」という点。もちろんネットから得る情報にも価値があることを認められているのですが、例えば
「今すぐじゃなきゃだめ!」っていう、ものすごく時間がないときはネットで見ますけど、そうでないときはなるべく活字を選んでます。本か雑誌。
ネットの方は、第三者の校正とか意見が何も入ってないまま書かれてるじゃないですか。中には、サイトを作ってる人の意見だけで終わってることもあるんです。それを見極めていくのがちょっとめんどうくさいんで。
だから、新しいものをばーっと知りたいときは、やっぱり雑誌がいいですね。雑誌の方は、文章がちゃんとしてる。
(※荒井玲子さんの章より)
などの言葉が語られています。個人的にも、速報ではなく基礎的な知識を身につけるには「ネットより本の方が適している」と感じることが多いです。しかしそれはあくまでも、「子供の頃から本を通して知識を得るトレーニングをしてきた」人間の意見なのではないでしょうか。「デジタルネイティブ」などと呼ばれ、子供の頃からデジタル端末に慣れ親しんできた世代は、紙の書籍よりもネットの方が知識を得やすいと感じる可能性もあるのではないか、と最近感じています。
そもそも「読書術」というタイトルからして「本を読むことは善である」というニュアンスが含まれていますし、ぜひとも技術評論社さんには、2~3年後をメドに『SEの自己啓発術』を出版して欲しいところ。そこには「いやいや、ネットだって十分役立つ」「SNS経由で誰かに聞くのが一番でしょ」というような意見を持った若手技術者を加え、もっと幅広い視野が含まれるようにする、と。そんなカオスな内容であれば、もっと多くの人々に刺激を与える本になるのではないかと思います(当然ながら、反発を感じる人も多くなるでしょうが)。
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