先日、「首謀者」とされるウサマ・ビン・ラディンの殺害という形で一応の区切りをつけることになった、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件。ついに今年は10年目を迎えるわけですが、テロの標的となって崩壊した国際貿易センタービルの跡地には"National September 11 Memorial"という記念施設がオープンする予定となっています。そこには犠牲者の名前が刻まれた追悼碑が設置されるそうなのですが、この種の追悼碑には珍しく、名前はアルファベット順ではない順序で配列されているそうです:
■ At 9/11 Memorial, Name Placements Reflect Bonds Between Victims, Thanks To Algorithm (Fast Company)
ABC順でないとすれば、どのように名前が並んでいるのか。そのアルゴリズムと、裏にある意図について、次のような説明があります:
Their adjacency is product of a masterful bit of programming undertaken by the New York media design firm Local Projects, which took 1,800 requests from families of the 3,500 9/11 victims, and created an algorithm that let them be grouped by affinity: firefighters with firefighters, cops with cops, all the members of each of the flights, first responders, or just pals.
(中略)
Conventional memorial design dictates that names are listed alphabetically or chronologically. That makes people easy to find, but tends to dilute the meaning that attaches to affinity. With this new program, bands of brothers, families, and co-workers, can be remembered as part of a group that meant the world to them in life and united them in death.
犠牲者の名前がどのように並べられるのかは、ニューヨークにあるメディアデザイン企業のLocal Projects社が開発したプログラムに基づいている。このプログラムには、9.11の犠牲者3,500名の家族から得られた1,800もの要望を反映し、犠牲者の間にあった「絆」でグルーピングを行うアルゴリズムが組み込まれているのである。消防隊員は他の消防隊員たちと一緒に、企業で働いていた人々は同僚たちと一緒に、ハイジャックされた飛行機の乗員、第一応答者、友達同士なども同様だ。
(中略)
通常の場合、記念碑に刻まれる名前はアルファベット順か、時系列順に並べられることが一般的だ。この場合、名前を見つけることは容易になるが、そこにあるべき「絆」は弱まってしまう。(今回の追悼碑のために用意された)新しいプログラムでは、兄弟や家族、職場の同僚たちが生前に有し、死に際して彼らをつなぎ合わせた絆を記憶に留めることができる。
また犠牲者の名前を検索可能なオフィシャルサイト "Names.911memorial.org"では、名前の並び順について以下のように解説されています(日本語訳は全て公式のものです):
Within these groups, names are arranged by affiliation, so that the employees of a company or the crew of a flight are together. The next-of-kin of the victims and surviving colleagues made additional requests for specific names to be inscribed next to one another.
犠牲者のお名前は当時の所属に基づいて配列されており、勤務先が同じだった方々、搭乗機が同じだった乗務員の方々のお名前がそれぞれ1つにまとまって刻まれています。犠牲者のお名前の周りには、ご遺族や生き残った同僚の方々が希望された別の犠牲者のお名前が刻まれています。
Some requests were between relatives and friends; others were between people who had just met, but who responded together as events unfolded.
お名前の配列には、ご親戚や友人のご希望、当時のことを忘れえぬ出来事として共に記憶にとどめている方々のご希望が反映されています。
This design allows the names of family, friends, and colleagues to be together, as they lived and died. The requested adjacencies reflected on the Memorial make it unique from any other in existence.
お名前の配列には、更にご親戚や友人のご希望だけでなく、あの日あの場所で偶然出会い、共に惨事に直面した方々のご希望も反映されています。
確かにあいうえお順など、無味乾燥な順番で追悼碑に刻まれた名前からは、生身の人間よりも「データ」に近い印象を受けてしまいます。もちろんその人物が自分の身近な人でなければ、そういった印象を受けてしまうのは仕方のないことなのですが、こうした「絆」を意識することのできる並び順にすることによって、より事件が起きた当時の状況を理解しやすくなるのではないでしょうか。少なくともある人物の名と、その周囲に刻まれた人物の名前、そしてその配置が語りかけてくるのは、段違いに重要なものになるはずです。
別の言い方をすれば、これは「9/11」という時点、国際貿易センタービルという地点に存在していた人間関係や物語というものを、より鮮明に記憶に残そうという取り組みだと言えるでしょう。良い意味でも、悪い意味でも事件の風化が遅くなるわけで、今後様々な反応を引き起こすのではないでしょうか。
また追悼施設では、上記の各種公式サイトに加え、スマートフォン用のアプリも用意されるとのこと(ちなみにこうしたツールでは、名前や犠牲となった場所・登場していた飛行機などで検索を行うことができ、さらに表示される地図や追悼碑のイメージによって名前が刻まれている場所を確認することができるようになっています)。アルファベット順ではないため、少しでも追悼碑上での名前の位置を見つけやすくするための配慮なのですが、デジタルメディアでの対応も行われるというのは、時代の流れというものを強く感じる次第です。
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