これは恐らく賛否両論の取り組みだと思いますが……あるアーティストに対するヘイトスピーチに対抗するため、ツイートによる反論を促すサイトがオープンしたとのこと:
■ Using Twitter To Troll Frank Ocean’s Homophobic Haters (Fast Company)
そのアーティストとは、ラッパーのフランク・オーシャン(Frank Ocean)。7月4日にゲイであることをカミングアウトしたのですが、残念ながら揶揄や誹謗中傷を行うツイートがTwitter上にあふれることとなりました。それに胸を痛めた5人のスウェーデン人デザイナーがオープンさせたのがこちらのサイト:
アクセスして最下部にあるリンクをクリックすると、次のようにフランク・オーシャンに対するヘイトツイートが表示されます:
最上部にあるユーザーのアイコンをクリックすれば、元のツイートにアクセスすることも可能。で、ここに表示されている"Reply to (ユーザー名) with some love"というボタンをクリックすると、"It's not who you love – it's *that* you love that truly matters"というメッセージが自動挿入された形で、ツイート投稿画面が表示されます。また"Show me another tweet"ボタンをクリックすれば、別のツイートが次々に表示されます。このように、ヘイトスピーチへの対抗として、それに対する反論が簡単にできるサイトを開設したというわけですね。
実際に自動挿入されるテキストで検索してみると、このサイトを使ったと思われるツイートが多数ヒットします:
確かにこうした仕組みがあれば、ヘイトスピーチに対する効率的な「対抗」ができるかもしれません。しかしそれによって元のツイートを投稿した人々が心を改めるかといえば、必ずしも効果は保証されないのではないでしょうか。自動挿入メッセージは穏やかなものなので、汚い罵り合いになる可能性は小さいですが、上書きして別の(おそらくもっと攻撃的な)メッセージにすることも可能です。見方によっては、いわゆる「晒し上げ」を助長するツールにもなりかねないでしょう。
最近'The Republican Brain: The Science of Why They Deny Science--and Reality'という本を読んだのですが(書評)、その中にこんな一節があります:
既に指摘した通り、保守派の誤りに正面から反論しても効果は限られている。保守派の論客は十分に数が揃っており、反論に対してはさらなる反論が行われ、建設的でない議論がえんえんと続くことになるだろう。専門的な点に関して罵声が飛び交うという状況は、一般の人々や確信が持てずにいる人々、あるいは心を決めかねている人々に対して不快感を与え、さらには本当に正しいのは何か誰も分かっていないという印象を与えてしまう。
そうするよりも、リベラル派と科学者はカギとなる事実を見つけ、人々の心を動かすストーリーとしてまとめるように努力すべきだ。大量のデータを議論に持ち込むというのは、要領の得ない議論を行うよりも悪い結果をもたらしかねない。まったくもって非生産的だ。しかし物語を語るようにすれば、人々の心をとらえ、変えてゆくことができるだろう。
そしてここでも重要なのは、保守派を心から認めるという行為だ。米国がいかにして「キリスト教国」として成立したのかを語り、彼らをティーパーティー運動へと駆り立てている物語は非常に強力で、保守派の価値観に完璧にマッチするものだ。問題は単に……それが誤っているというだけなのである。しかしリベラル派は、それを事実によって否定しようとしてはならない。それよりも優れた物語を語るようにすべきなのだ。
このことは、同じように保守派の誤った情報が幅を利かせている他の分野でも同様だ。リベラル派は何度も「何が真実なのか」を叫び返したくなることだろう。しかし本当にすべきなのは、「何が肝心なのか」を叫び返すことなのである。
反論するツイートを投稿することがいけない、というわけではもちろんありません。しかし投稿する内容がどのようなものであれば、単に自分の気持ちをスッキリさせるだけの結果に終わらず、少しでもお互いが分かりあえるような結果につなげられるのか。それを考えてゆくことが、Hate Tweets of Frank Oceanのようなサイトと同時に必要になるのではないでしょうか。
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