ということで、3日間行ってきましたよO’ReillyのIoT系カンファレンス”Solid”。やたらバイオ推しだったり、Strataにはすっかり姿を見せなくなったティム・オライリーが満面の笑みで登壇してたりといろいろありましたが、活気があって良いカンファレンスでした。ロケーションもいいし、そりゃティムもニコニコだわ(くどい)
で、帰りはコスト削減のため深夜1時の便にしたので、いま空港でまったり過ごしているわけです。脅威の4時間待ち。この時間を利用して、今日も自分用の簡単なまとめを少し。眠いのでかなり筆が乱れるはず。
あとStrata同様、各セッションおよびキーノートで使用された資料類が公開されてます(スピーカーが一般公開に同意したもののみ)!興味のある方はこちらからどうぞ。
キーノート
コリイ・ドクトロウ!期待した通り、パワフルなキーノートを展開してくれました。スライド無しで15分間しゃべりっぱなし。内容は彼の日頃の主張+電子フロンティア財団(EFF)の主張を凝縮したものといったところでしょうか。「錬金術師の秘密主義、閉鎖的な態度が錬金術を科学にすることを妨げた」という話から始まり、自動車ローン版サブプライム+IoTによって「ローンを払えない人の自動車をいきなり動かなくしてしまうこともできる」という話を引き合いにして、IoT時代こそ技術をオープンにしていかないと消費者は保護できないし、技術も発展していかないと訴えていました。文字通り「あらゆるもの」がコンピューター化するのがSFではなくなりつつある状況で、これまでのDRMのようなやり方や姿勢が「あらゆるもの」に対して通用するのか、落ち着いて再検討しなければならないのでしょう。
SolidをJoiさんと一緒に仕切っているJon Brunerさんのキーノートでは、いまのIoTをめぐる動きは数年前のビッグデータをめぐる動きと一緒だよねということで、HBRのこんな表紙の対比が。さらにIoTだけでなく、製造をめぐる新たなテクノロジー(3Dプリンティングとか)と絡めたところにsweet spotがあるよと整理してました。この辺は昨日のJoiさんのキーノートでもあったように、複数の先端技術が重なり合うというか統合されて活用されるところでイノベーションが生まれてる、というSolidを通じて流れている思想に近いのかと。そしていまやあらゆる企業がデータを扱い、すべての製品がデータプロダクトとなりつつあるように、いまやあらゆる企業がテクノロジー企業になったのだという言葉で締めていました。正確に言えば、「すべての企業がテクノロジー企業のように行動しなければ生き残れない」なのでしょう。
完全に余談ですが、早朝に荷物を預けようとBaggage Roomを探してたら、キーノート直前で忙しいはずのJonさんが助けてくれました。なんていい人なんだ。
続くDavid Kongさんのキーノートでも似たようなベン図が(中身は違うけど)。自分が見てるセッションだけでも、これに似た解説をしてるのを4回は見た。Sweet Spotは円が重なり合う部分ですよっと。で中身は昨日紹介した、Next Big Thingな合成生物学。ちょうどメイカームーブメントからファブラボが生まれたように、「バイオラボ」をつくって、誰もがバイオテクノロジーを扱えるような世の中にするのが夢とか。皆が新しいバクテリアを開発してる世の中とかすごいな……
これも完全に個人的な感想ですが、日本の場合は新しいテクノロジーの潮流が生まれると、「日本企業再興のチャンス!」的な論調になることが多くて(今度出るドローン本でもそんな書き方をしてしまってるけど)。けど米国の場合には、「個人のempowermentだぜ!」的なアプローチやムーブメントに転換されてくのが面白いと感じています。日本でも「誰もがバイオテクノロジーを扱える環境を!」的な動きが生まれてくるのかなぁ。
Shasta Ventures(VC)のRob Coneybeerさんによるキーノートは、「計画的陳腐化(Planned Obsolescence)」は最近のガジェット類の衰退=シリコンバレーの衰退をもたらすか?というもの。計画的陳腐化とは、たとえば自動車のモデルチェンジのように、技術的にはまだまだ使い続けられるものを別の理由(この場合はファッション性)から使えない・使いづらくして買い換えを促すという手法。デトロイトが自動車の都から衰退したのは、計画的陳腐化を始めとする消費者軽視が一因であるとした上で、「iPhoneが数年に1回本体をバージョンアップさせるのも、これと同じことに当たるだろうか?」と問いかけます。
結論から言うと、「ムーアの法則(で絶え間なく進化するから数年ごとにモデルチェンジしても当然)」と「クラウド(による機能の絶え間ないアップデート」があるからかつてと同じ状況じゃないよね!と答えを出した上で、それでも「陳腐化への計画的対応(Planning for Obsolescence)」はしなくちゃけいない、つまり技術が急速に陳腐化する中で、製品の価値をどう維持するのか(それは当然ながらソフトウェアを通じてということになるので、どうやってハードの価値をソフトで補い続けるか)、あるいは数年ごとに買い換えをしてもらうというサイクルにどうやって消費者を載せるのか(その場合の価格設定やブランド戦略は?)という話が展開されてました。この辺は以前アスキーさんから邦訳を出させていただいた『ソーシャルマシン』でもちらっと論じられているので読んでみるといいよ!
ぶっちゃけIoT時代には、製品のもたらす価値の多くが製品の外側からもたらされるんですよね。Solidで僕が覗いたセッションの中にも、突き詰めるとその辺りをどう管理あるいは活用するのかを論じたものが多かったように思います。たとえばいきなりセッションの話になりますが、
The physical world as interface to the digital world
これがまさにその辺りの話をしてて。物理的なスイッチの上にソフトウェアのレイヤーをかぶせて、それを拡張現実感で視覚的に操ることで、まったく別の機能を付与してしまうというValentin Heunさんの研究が紹介されていました。たとえば2つのランプを並べて、それをiPadで撮影して画像内で線をひっぱると、片方のランプのスイッチが別のランプのスイッチも兼ねるようになったりとか。そんなおかしなことを考えるのはMITメディアラボの人しかいない、ということでHeunさんもやっぱりメディアラボの人。なんか石を投げればメディアラボ関係者に当たるってぐらい、あちこちで見かけたなぁ。
でもこれ、楽しいのは楽しいんだけど、やっぱり「物理的な姿と機能の分離が起きるIoTの世界で、使いやすいデザインをどう実現するか」という観点からはマイナスになるような気がして。ちょっとプレゼン聞いてる時に違和感を感じました。だってiPadをセカイカメラのようにして見ないと表れない「バーチャル操作画面」によって、スイッチの機能がいきなり入れ替わったりするんだよ?使い方を間違うと、逆に直観的ではなくなってしまうような。使ってみないとなんとも言えないけど。
The Internet of Medical Things
シロクマ日報で”The Patient Will See You Know”という本を紹介しているのですが:
■ 【書評】マクルーハンは医療ビッグデータの夢を見るか――"The Patient Will See You Now"
ここでも”Internet of Medical Things”(医療機器のインターネット、IoMT)という言葉が登場してて、IoTの一分野として、それも有望な一分野として存在感を増しているように感じます。
でこのIoMTの世界ですが、IoTにおける課題が凝縮されてる感じで面白いです。データを集めて医療に役立てよう、治療の効率化や効果アップを実現しようは良いのですが、その可能性とリスクの広がりが想像以上に広いという。たとえばインフルエンザは何気にリスクが高いので気軽に病院に来てもらうのではなく、iPhoneにつながる簡易機器で早期に症状を計測して病院クラウドにアップしてもらい、それに基づいてAIが原因を診断、インフルエンザの場合には患者との接触を減らすためにドローンが薬を運ぶ……というすさまじい未来像が描かれます。しかしそれってセキュリティが保たれるの?とか、関係するデータは誰に所有権があって誰が責任持って保管するの?とか、逆にデータリテラシー的なものがない患者はデータに振り回される結果になるんじゃない?とか、問題山積な感じがしてすごいです。いやこういった未来像が実現されれば、本当の意味で「すごい」んだけど。
AI + psychology + robots = patient engagement
これもある意味で非常に「Solidらしい」セッションでした。Catalia HealthのCory Kidd博士によるセッション。彼が研究しているのは、「ロボットを通じて患者とのエンゲージメントを高める」という技術。そして完成したのがこの”mabu”です。
Mabu Introductory Video from Catalia Health on Vimeo.
Introducing the Mabu personal healthcare companion from Catalia Health.
mabuは患者とのコミュニケーションを行うロボットなのですが、その目的は「きちんと薬を飲むように仕向けること」。なんでも同じ情報を伝えるのでも、スクリーン上だけで「目」を再現するして行うのと、物理的な「目」を用意して行うのとでは、後者の方が患者が話を積極的に聞こうとし、結果的に伝わる情報の量と質も高くなったのだとか。この研究結果を利用して完成したのがmabuで、実は2000年代にも同じロボットを企画していたのが、コストがバカ高くなるので断念したとのこと。それが最近になって、関連技術のコストが限りなく低下したので、ビジネス的にOKになりそうだと。しかもこれまで行われている実証実験では、かなり良い成績を収めているようです。
気になるビジネスモデルですが、製薬会社や病院を通じて患者に提供するという形を考えているとのこと。レンタル料は1代数百ドル程度。彼らがお金を払うの?というところですが、Coryさんの説明によれば、彼らは今でも薬をきちんと・正しく飲んでもらうという啓蒙活動に多額の費用を費やしているのだとか。でもほとんど効果が無いわけで、ならばmabuに数万円費やすだけで、いまの無意味な啓蒙活動を縮小できる=mabu導入の原資になる、と踏んでいるようです。上手くいくかどうかは分かりませんが、TechCrunchでも取り上げられています:
■ Catalia Health Gets $1.25 Million From Khosla Ventures For Its Healthcare Robot (TechCrunch)
余談
てことでSolid初体験だったのですが、このごった煮感は確かに面白いわ。今年が第2回目なので、傾向もへったくれもないのですが、昨年より参加者が増えているというのも納得。そして10月にはオランダで開催という、これもStrataと同じ多角展開が予定されています。サンフランシスコでの第3回Solidも早々に開催決定していて、来年4月になるとか。
英語だと”collide”(衝突)とか”converge”(合流)とかいった単語で表現されていたのですが、ソフトとハード、デジタルとフィジカル、シリコンとバイオ、メーカーとメイカーズといった具合に、先端的な取り組みが重なり合う部分で面白いことが起きてるよね、という話の多いこと。その象徴として中心に置かれているテーマがIoTだったわけですが、別にIoTだけでなく、様々な他家受粉が起きていることを実感した3日間でした。そういえば他家受粉(cross-pollination)という言葉を使ってるスピーカーも何人かいたっけ。
いずれにせよ、ほんの10年前には存在すらしていなかったツールやサービスを使いこなし、世界的な成功を収める起業家やスタートアップがいくつも登場していることには脅威を感じます。日本に帰ったら、何から始めようかなぁ……
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