読書感想文的なエントリになってしまいますが、今日ふと思ったこと。
既にブロガーの間で話題になっていますが、梅田望夫さんの『ウェブ進化論』が発売になりました。早速買ってきて読んでいるのですが、独自の視点から現在のWEBに起きていること、そして将来起きるであろうことを分析されていて、大変参考になります。
議論の中身とは別に、もう1つ関心したのは、梅田さんが比喩を効果的に用いられていることです。例えば序章の中で、ブログやポッドキャストといったCGMが普及した世界を「ありとあらゆる表現行為について、甲子園に進むための高校野球予選のような仕組みが、世界中すべての人に開かれている(p.15)」と例えています。
CGMを「甲子園予選」と例えることで、「地方のローカル高校=一般人」にも等しく「甲子園」という華々しい舞台に立つチャンスがあることが分かります(人によって何が「甲子園」なのかは異なりますが)。また「甲子園予選」という例えには、実力という公平な判断基準によって選別されることも表現されています。「春のセンバツ」や「プロ野球」という「出場者が誰かによって選別されている仕組み」と対比させて考えることが容易になるのです。
行き過ぎた比喩は事実の本質を歪めてしまいますが、梅田さんの「甲子園」の例えのように、優れた比喩は事実を把握しやすくさせます。
また比喩は、行動を促す力になることもあります。今年2月2日の日経産業新聞に、ニンテンドーDSの開発裏話が掲載されていました(日経産業新聞2006年2月2日第2面「ヒット誕生この瞬間 任天堂の携帯型ゲーム機ニンテンドーDS」)。その中で、2004年5月のE3でデザインを酷評されたDS開発チームが、たった3ヶ月間デザイン改良を迫られたことが解説されています。普通ならこの3ヶ月間は「デスマーチ」という比喩を使うべき状況となったかもしれませんが、
当時、この三ヶ月間を「ロスタイム」だと話した。サッカーで正規の試合時間が終わってもまだわずかに時間があるのと同じように、DSの開発でもロスタイムと思い、「逆転ゴール」を狙った。
という状況だったそうです。
普通なら後ろ向きになってしまうハードな環境を、「ロスタイム」というポジティブな意味を込めた状況に例えることで、現場の士気を上げたわけです。もしここで「締め切り」「デッドライン」などという言葉が蔓延していたら、「逆転ゴール(日経産業新聞の記事中より)」は果たせなかったのではないでしょうか。
『ウェブ進化論』と日経産業新聞の記事、まったく違う文章からでしたが、寄寓にも「比喩の威力」というものを実感させられました。
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