予想通り(?)ネットで反応が起きているこの記事について:
■ 本読む親の子優秀 下位はワイドショー ベネッセ調査 (asahi.com)
「成績上位の子どもの保護者は本をよく読む」「下位の子の親が好むのはテレビのワイドショー」。お茶の水女子大とベネッセ教育研究開発センターが共同で調査したところ、親をハッとさせるこんな結果が出た。保護者の普段の行動と子どもの学力には強い関係性があるという。
うーん、僕も人のことは言えませんが、このタイトルは煽りすぎ。本文では「相関関係」と言っているのに、あたかも「親が本を読むと子供が優秀になる」という因果関係があるかのように書いてしまうのは問題でしょう(さらに言えば、保護者の行動と子供の学力に相関関係があるのは当然のことなので、改めて言うほどの話でもないのですが)。「本を読むということはそれだけ収入と余暇があるということだから、比較的裕福な家庭であり、子供の教育に回すお金もあるのだろう。それが子供の学力を上げることにつながっているのではないか」ぐらいの発想はすぐに出てくると思います。
ただ朝日新聞を擁護するわけではありませんが、ネット版ではなく紙面ではこんなコメントが紹介されています(ちなみに引用中で「同大学」とあるのはお茶の水女子大学のこと):
耳塚寛明・同大学副学長も「学歴格差は、保護者の所得や学歴、家庭の文化的環境などと密接に関連している。保護者の行動を明日から変えればいい、という簡単な問題ではない」と指摘する。
なんでネット版でこの部分を端折ったんだろう(ネット掲載の許可が取れなかったとか?)。ちなみに「行動変えれば、という問題ではない」という部分は紙面でサブタイトル的に大きく書かれていて、ネット版とは違う印象を持って本文を読み始めることになります。理由はともあれ、ちゃんとこのコメントまでネットにも載せておいて欲しかったと思うのですが。
で、せっかくですから朝日の記事だけで終わらずに、元の調査報告書まで目を通すことをお勧めします:
■ 教育格差の発生・解消に関する調査研究報告書 (ベネッセ教育研究開発センター)
分析編の「まとめにかえて」で、上記の引用でも登場した耳塚教授がこんなことを書かれています:
格差是正に効果的な方策は、一朝一夕に明らかになるわけではない。またナショナル・サーベイのような量的調査だけではなく、学校・授業観察等の質的調査研究も必要となる。格差是正方策の提示にとってもっとも必要なことは、調査研究の継続であるといってよいが、現時点で次のような視点の重要性を指摘しておく。
第一に、学力格差は、教育行政に操作可能な資源と関わるのみならず、諸家庭的背景(保護者の所得や学歴、教育期待や、家庭の文化的環境)と密接に関連する。このことは、学力格差を格差社会に起因する社会問題として把握することの必要性と、その是正のためには所得格差の緩和や雇用政策等の社会政策が重要な役割を果たすことを意味する。
第二に、とはいえ、教育行政と学校関係者にもなすべきことがある。教育行政は、地域や学校間に見られる教育格差の実態と大きさを点検して、格差是正に必要な資源(人・モノ・財源)を投入する政策を講じるべきである。国と地方のいずれのレベルにおいても、教育行政が突きつけられた喫緊の課題といってよい。現在でも、地域社会の経済的・文化的環境(保護者=住民の所得水準や学歴レベルに関わる)に起因する、低い学力水準に悩む学校は少なくない。不利な環境に置かれた学校における学力向上方策を、学校管理職と教員に檄を飛ばして彼らだけに委ねるのは、行政の責任放棄に等しい。どの学校にどんな学力上の問題が所在するのかを、データをもって確実に把握した上で、必要な資源を必要な地域と学校に投入して支援するダイナミックな政策がほしい。教育構造、なかんずく私立と公立の地位をめぐる政策課題も重要である。地域によって学力格差の大きさと背景要因は異なる。大都市圏で家庭的背景による学力格差が生じているのは、教育投資の対象と公立学校からの脱出先が存在しているという教育構造に由来するところが大きい。個々の学校と教員の役割も大きい。行政による条件整備だけでは学力格差に挑むことはできない。究極のところ、教育の成果は、子どもを指導し家庭を支援する学校現場に依存する。効果のある学校研究が示唆するように、学力低位層に焦点づけた、家庭学習指導を含む「ていねいな底上げ」指導が必要である。
(※強調は引用者)
長い引用になってしまいましたが、強調した「公立学校以外の教育機関/手段が存在しているか否かという点が学力格差の理由の1つ」という指摘は興味深いと思います。地域差については分析編第1章「学歴の地域格差」で紹介されているので確認してみて欲しいのですが、取り急ぎ同59ページにある表を抜粋してみると:
こんな感じ。大都市ではいずれの分類でも全体平均より正答率が高くなっていて、特に「大都市に住んでいて所得が多い家庭」の子供が学力が良い、という傾向が見出せそうそうです(一方で市部よりむしろ町村部の方が正答率が高いという傾向があり、この辺りの原因について考えてみると面白いかもしれません)。
いずれにせよ、元の調査報告書はよく精査しておいた方が良さそう。また2008年9月~11月にかけて、以下のようなICT利用調査も行われていますので、こちらも是非ご確認を。
■ 子どものICT利用実態調査 (ベネッセ教育研究開発センター)
それからもう1つ。環境要因が子供の学力に与える影響を考える本として、マルコム・グラッドウェルの最新書を外すわけにはいかないでしょう。なぜか書店では勝間和代女史の顔写真付きで売られていますが(笑)、中身は非常に興味深いのでご参考に:
■ 【書評】マルコム・グラッドウェルの最新作"Outliers -- The Story of Success" (シロクマ日報)
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