クリス・アンダーソン氏の最新作"Free: The Future of a Radical Price"を読んでますよ、っていうのを先日から宣言してますが、その中に面白いエピソードが紹介されているのでちょっとご紹介。ずばりタイトルに書いた通りなのですが、有名な言葉「情報はタダになりたがる(Information wants to be free)」の全文ってご存じでしたか?
……いやそんなの常識でしょ、と言われてしまうと辛いのですが、CNNの記事でも紹介されていたぐらいですから知らない人が多いものとして話を進めましょう。この言葉、米国の作家 Stewart Brand 氏が1984年の Hackers' Conference で語ったものとされていますが、実はこういう発言だったそうです:
On the one hand information wants to be expensive, because it's so valuable. The right information in the right place just changes your life. On the other hand, information wants to be free, because the cost of getting it out is getting lower and lower all the time. So you have these two fighting against each other.
一方において、情報は高価になりたがる。なぜなら、非常に価値のあるものだからだ。適切な場所に置かれた適切な情報は、人々の人生を変え得る。またその一方で、情報は無料になりたがる。なぜなら、それを得るコストは次第に縮小していくものだからだ。つまり相反する2つの方向性が存在しているのである。
ということで、情報は何が何でも無料になるわけではなく、適切な場所にある適切な情報には高い料金が払われ得るのだと。このいわば免責事項的な部分は(意図的にかどうか分かりませんが)忘れ去られ、「情報はタダになる」という部分だけがネットユーザーによって持てはやされるようになったのだ、ということが"Free"中に解説されています。
そしてクリス・アンダーソン氏は上記の全文を、次のように置き換えてみてはどうかと提案しています:
Commodity information (everybody gets the same version) wants to be free. Customized information (you get something unique and meaningful to you) wants to be expensive.
(誰もが同じバージョンを手にする)コモディティな情報は無料になりたがる。(ある人にとって価値のある姿をした)カスタマイズされた情報は高価になりたがる。
さらにもう少し短くしたバージョンも:
Abundant information wants to be free. Scare information wants to be expensive.
ありふれた情報は無料になりたがる。希少な情報は高価になりたがる。
確かに企業の株価に直結するような情報は、専門の通信社が高い情報料を課して配信しているわけで。どんな情報が無料になりたがらないのか、という視点を忘れないようにすることは大切ですね。
ちなみに Brand 氏ですが、自らの言葉が半分しか伝わらなかったことについて、こんな感想を抱いているそうです:
And does it annoy him thay for twenty-five years, people have been quoting only half of his phrase? That's what happens to memes, he says: They propagete in their most efficient form, whether that was what was intended or not. After all, he notes, Winston Churchill did not say, "Bloog, sweat, and tears." Whinston Churchill said, "Blood, sweat, toil, and tears." That may sound better, but one of them is not a juice. Mimetic propagation edited the phrase to its optimal form.
25年間にわたって、人々が発言の半分しか引用してこなかったことについて、彼は頭に来ているのだろうか?それがミームというものだよ、と彼は述べている。つまりそれが意図されていたかどうかに関わらず、(ミームは)最も効率的な姿で伝わるもの、ということだ。彼はその例として、ウィンストン・チャーチルの話を引き合いに出した。彼は「(私が捧げられるものは)血と汗と涙だけだ」と語ったとされるが、実は「知と汗と労力と涙だけだ」と語っていた。後者の方が正しいのだが、労力という液体ではないものが混ざっている。模倣されて引用されていく間に、フレーズは最適な姿へと変化していくのである。
ということで、別に怒っているわけではなさそうです。日本でも石田純一氏の「不倫は文化」発言の元をたどると、実は彼は「日本には古来より忍ぶ恋というものがあり、そのような男女の思いが優れた文学などの文化、芸術を生み出してきたということもある」と言っていただけで、「不倫+文化」と短縮させたのはマスコミだったそうですが。言葉を(誤解されずに)残すためには、できるだけ短くしておいた方が良さそうです(Twitter が良い訓練になるかも)。
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