先日「Coming Soon!戦略(発売時期が先であるにも関わらず製品の発表/プロモーションを行い、購買意欲を高める戦略)」について否定的な見解を書いたのですが(「Coming Soon!」 戦略は有効か否か?)、その理由の1つ「ユーザーの期待をコントロールすることが難しい」に関して、こんな記事がありました:
口コミの評判を作るには期待値を制御することも大事--@cosme主宰 山田メユミ(雑誌『PRIR』2005年11月号)
雑誌記事なので、興味を持った方はバックナンバーを取り寄せてみて欲しいのですが、関連する部分だけ抜粋すると:
口コミ評価が高い製品に共通するのは、期待していた以上の効果が出た、という驚きがあること。そのために必要なものは、感動を与える製品力と、期待値のコントロールです。
(中略)
一方、テレビや雑誌に広告を打つ大きなメーカーの製品は、本来のターゲット以外の層も利用することがあるので、製品力が高くても、結果的に評価が高くないことがあります。しかし、ある程度の期待値と認知度がないと、消費者の購入に結びつかないので、メーカーにとっては永遠のジレンマですね。
大手メーカーにとっても、「購買意欲を煽るため、製品への期待を煽ること」と「購入後の失望につながらないよう、期待を抑えること」のバランスを取ることが難しい課題となっているようです。さらに近年のCGMの発達は、不満をもった消費者がネガティブな情報を広めることを可能にしており、期待を煽り過ぎることのリスクを増しています。期待の「促進」と「抑制」のバランスをどう見極めれば良いのでしょうか。
仮説ですが、僕はもう1つの視点として、期待への「対応」という軸を追加したいと思います。期待の促進と抑制が商品/サービス購入前の施策だとすれば、「対応」は購入後の施策、つまり消費者が抱いていた期待に応えるために最大限に努力することを指します。具体的には商品/サービス購入者に使用後アンケートを取ったり、カスタマーサポートなどでトラブル対応したり、アップグレード等のサービスを行うことなどです。
消費者の期待に応えることとは、商品/サービスを通じて消費者が得た経験を良いものとすることだと思います。だとすれば、商品/サービスの販売までではなく、販売後も含めたトータルな視点での施策が欠かせません。購入時にどんな期待を抱いていたのか、その期待に応えられているか、応えられていないならどんな対応をとれば期待が満たせるのか。そういった行動を通じて、初めて消費者が得た「経験」をトータルに把握し、改善することが可能になるでしょう。
例えば1年前に購入したPCが壊れたとします。その所有者は「このPCは3年間は壊れない。たとえ壊れたとしても、3年以内なら無償で修理ができる。」という期待を抱いているかもしれません(余談ですが、こういった期待を把握するのは、製品本体の性能に対する期待を把握する以上に難しいのではないでしょうか)。もしこの所有者がカスタマーセンターに電話した際に、何時間も電話応対に費やしたあげく、結局保証はしてくれないといったら、どんな経験として捉えるでしょうか。例え製品の性能に満足していたとしても、所有者はガッカリして、2度とそのブランドの製品は買おうとしなくなるでしょう。場合によっては、家族や友人に悪口を言いふらし、周囲の人々までそのブランドから離れていくかもしれません。
この例のように、購入後の対応を誤れば、個々の商品/サービスだけでなくそのブランド全体まで傷つけてしまう危険があります。逆に適切な対応をしていれば、その商品/サービスを通じて満足を感じるたびに、クチコミやCGMを通じてポジティブな情報を発信してくれる可能性があります。また仮にある製品に異常があった場合でも、その対応と改修、バージョンアップに真摯に取り組む態度を見せれば、個々の製品ではなくブランド全体に対するファンを増やす結果につながるかもしれません。家電製品のように使用される期間が長い商品/サービスや、ブランドが重要な差別化要因となるコモディティ商品では、期待の「促進」「抑制」以上に「対応」が重要となる場合もあるでしょう。
幸いIT技術の発達により、商品/サービスの利用者と接点を持ち続けるのは以前より容易になりました。購入前から購入後、さらにブランド全体を視野に入れ、「消費者の期待をどうコントロールするか」をトータルな視点で考えることが求められていると思います。
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